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#ソシャゲの話をしよう。「デッキ編成システム」のデメリット

#ソシャゲの話をしよう
どうも、死に急ぐ生命の果実です。

前回、前々回に引き続き、デッキ編成システムについて思いを巡らせていきます。
前回までに紹介したように、デッキ編成システムにはいろいろとメリットがあると考えられます。
しかしながら、光があれば必ず影があるように、デメリットも考えられないでしょうか。
今回はデッキ編成システムを取り入れたときに、どのようなデメリットが考えられるのかについて書いていこうと思います。

ざっくり以下のような構成でお話をできればと考えております。


前回までの振り返り

前編では「デッキ編成システム」について、なぜ令和のソシャゲにおいてこのシステムが主軸として採用されつつあるのか、その萌芽となった要素はなんなのか、過去のゲームの要素を振り返りながら考察してみた。

中編では、デッキ編成システムを取り入れることによってどのようなメリットが発生するのかを考えてみた。

後編では「デッキ編成システム」がコンテンツに与えるデメリットについて考察していきたい。

中編で書いたメリットと同じように、「ユーザー視点」「運営視点」に分けて詳しく掘り下げてみようと思う。

ユーザー視点での弊害

前編記事の冒頭で、筆者が「実はこのシステムは好きではない」と書いた。

理由は「めんどうくせえ」からである。

面倒くさいと感じるにはいくつか理由があるので、それぞれを言語化してみよう。

知識のアップデートを強いられるストレス

前編で「TCGのように知識があることが前提のシステム」だと書いた。
このシステムで遊ぶにはある程度の知識量と、それを調べにいく積極性、記憶力などのリソースが必要だ。
しかも長く遊ぶのであれば、定期的な知識のアップデートも必要になる。

また、知識の源泉として攻略サイトを利用するにも、そもそも攻略サイトに何が書いてあるのかの理解が、始めたてのユーザーにはハードルが高いと考えられる。

攻略情報の一例

攻略サイトでは往々にしてユニットの評価やパーティ編成が紹介されているが、詳しい説明がないことが多い。
既にある程度のルールの習熟がなされているユーザーに対しての情報のため、いかんせん「わかる人だけわかればいい」「初心者お断り感」があるのは否めない。

攻略サイトを見て余計に心が折れることもある

本来であればコアなユーザーに求める熱量を、初心者やライト層に求めなければならないのが、このシステムの欠点のひとつである。

キャッチアップの断絶

ユーザーがコンテンツに自然に馴染めるように、本来的にはゲーム内でキャッチアップを行うのだが、いくつかの理由で理想的な流れにならないことが多い。
要素としては「チュートリアルの限界」「習熟コンテンツのスキップ」である。

まず、チュートリアルの限界について。
ソシャゲにおいて、取扱説明書というものは存在しない。
新規で始めたユーザーが説明に触れることができるのは、大抵冒頭に仕込まれている「チュートリアル」においてであることがほとんどだ。

しかしながら、ここで説明できる内容には限界がある。
なぜなら、一度の説明でユーザーが理解できる量には限度があるからだ。
一度に理解できる量を超えた場合、それ以上のチュートリアルはストレスにしかならない。
「チュートリアルでゲームのすべての要素を伝える」は不可能なのだ。

よって、「チュートリアルをクリアしたとしても、ゲームの攻略知識は不完全である」という状況が発生する。

実際にデータを見ると、チュートリアルの途中でアプリを落としゲームを離脱するユーザーは、どのコンテンツにおいてもそれなりに記録される。
よって、「チュートリアルをどうしたら最後までプレイしてくれるのか」に心血を注ぐ運営は多い。
その結果として「本当に必要な説明に絞り」「チュートリアルを短くする」というのは有効な手段なのだ。

意外と知らないチュートリアルのお作法

次に、習熟コンテンツのスキップ。
例えばストーリーモードの序盤などは初心者向けの習熟コンテンツを兼ねる場合が多いが、これらがターゲットとなる始めたてのユーザーにプレイしてもらえないということが発生しえる。なぜか。

ソシャゲは常になんらかのイベントが走っていることが常であり、期間限定であるイベントの方がユーザーにとって利のある作りになっていることが多い。
チュートリアルを終えたユーザーが、初心者向けコンテンツをスキップして期間限定イベントに参加する……というのも、ユーザー心理を考慮すれば無理もない流れだろう。
(そもそも、期間限定のコンテンツを目的に始めるユーザーというのも多いのだ)

本来的には始めたてのプレイヤーに細かな補足説明を行うコンテンツは、ターゲットとするユーザーにプレイしてもらえず、その意義を果たせない。
プレイしてもらえるとすれば、それはイベントの合間の空白期間などになるだろうが、間髪入れずにイベントを打ち続けるコンテンツではそもそも空白期間が存在しない場合も多々ある。

つまり、ユーザー視点でいえば「習熟コンテンツをプレイするタイミングがない」ことが往々にしてあるのだ。

これらの理由で、簡単なチュートリアルのあとは説明もそこそこにイベントに挑戦する……という流れが発生する。
ユーザーからすれば、わからないところは自分で調べなければならない。
ここに「キャッチアップの断絶」が発生する。

キャッチアップがゲーム内で完結しづらく、ユーザーは能動的に知識や情報をアップデートしなければならない。

……まあ「簡単なゲーム」ではないだろう。

これがソシャゲの課題である「新規ユーザーの確保」の壁となるのは明らかだ。

運営視点での弊害

つぎに、運営から見た場合のやりづらいポイント。

新規ユーザーの確保が難しくなる

前述のように、このシステムはユーザーが定着するまでにある程度のハードルを越えることを要求する。

さらに、ユーザーには遊び続けるハードルも課されるだろう。
常に習熟を要求し、トライアンドエラーを求める。
時間的拘束も強く、複数のタイトルを並行して遊ぶ余裕などない。
結果として、ユーザーの流動は停滞することになる。

複数本並行で遊ぼうとするのなら、得なければならない情報や、ゲームに費やす時間も倍々になっていくのだ。
実生活があることを考えると、時間的な余裕はない。

世の中は娯楽が多すぎる

運営としてはできるだけ多くの新規ユーザー獲得したいが、ユーザーの流動が減り新規ユーザーが減ると、どうしてもユーザーの取りこぼしは増える。
こうなると、一度プレイが軌道に乗ったユーザーをいかにコンテンツに縛り付けるかが重要になってくる。

コンテンツ側でユーザーの囲い込みをした結果、競合コンテンツ間でさらにユーザーの移動は少なくなる。
新規ユーザーを取るのがさらに難しくなり、限られたユーザーをコンテンツ間で奪い合うことになる。
しかしそもそものユーザー数に限界があるのだ。
新規ユーザーはどんどん目減りしていくという負のループが生まれる。

ユーザーの囲い込みに成功したならともかく、失敗した低予算の運営は悲惨であることは想像に難くない。

新規ユーザーの確保に失敗すれば低予算のコンテンツは死あるのみ。
過酷である。

コストは果たして下がるのか

そんなうまい話はないわけで。

中編の記事の中で「低コストでコンテンツ追加ができる」というようなことを書いたが、あれはあれでちょっとウソをついた。
できるといえばできるが、きちんとバランスを考慮した場合、検証コストがかさむ、というのが事実に近い。

新規イベントと新規ユニットを追加するときは、手持ちのキャラクター同士のシナジーを考慮した上で、クエストに対して有意に活躍できる性能が求められる。
しかしながら、キャラクターは指数関数的に増えていく。
すべてのキャラクターの組み合わせをシミュレートすることは人力では限界を迎えるだろう。

とあるTCG系コンテンツはバランス検証やデバッグにAIを活用する、もしくはクローズドテストや、すでに発売されているアナログ版の商品のデータをフィードバックすることもできるが、予算やバックボーンのない運営にはこれらの手段は不可能である。

シャドウバースは検証にAIを活用している
ポケポケはあアナログ版のデータを有効活用している

すると、QAしきれていない不確かな性能の新規ユニットを売り出さねばならなくなる。
上手くいけばいいものの、活躍する確証は実はない。
全く活躍しないこともあれば、売りたい商品以外で有用なパターンが発見されて、商品の売り上げが伸び悩むこともある。
デバッグはユーザーにしてもらうという最悪のパターンだ。

このように技術や資産などのバックボーンのない組織であれば、リスキーな運営を強いられる可能性が高い。

まとめ

まとめよう。
デッキ編成システムは……

  • ユーザーに奥深いゲーム体験を提供できる

  • 運営的には低コストでイベントを作成できる側面はある

というメリットが考えられる一方で、

  • ユーザーに能動的な習熟を求めるので新規層の参入ハードルは高い

  • 新規ユーザーを確保しづらくなるため、運営的にもリスキー

  • 複雑化するとクオリティ担保も高コスト化する可能性がある

というようなデメリットも存在すると考えられる。

これらの特徴を持ったデッキ編成システムが、今後どのようにソシャゲ業界に根付いて、今度はどんな変化を続けていくのか、実に興味深い。

というわけで、本日は以上。

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