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セテラ作品の思い出⑧ふたりのセテラ・ウォッチャー

セテラにはセテラ・ウォッチャー(セテラを見守りいつもセテラの活動を見てくれている人の意味)として大事なお二人の評論家がおられました。

一人は和久本みさ子さん、そしてもう一人は黒田邦雄さん。

このお二人は、セテラが配給を始めたころから、ずっとセテラの映画をごく最初に見てくださり、ほぼ毎回お二人のうちのどちらかに、プレスに映画評論や解説を書いていただきました。いつも新作を買ってくると、すぐにお二人に報告していました。

今度は何を見つけて来たの?どれどれ・・・と最初の字幕付き試写にお二人は来てくださってご意見を聞くのが楽しみでした。黒田さんからいつも言われることは、”あなたの買ってくる映画は素敵だけど、またいつものことだけど宣伝が難しそうな映画ね~会社大丈夫?“でした。 和久本さんは、いつも前向きなことを言って応援してくださいました。そして黒田さんは心配しながらも、やれやれ・・・と言って飛び切り素晴らしい文章をプレスに書いてくださいました。セテラの配給する映画のことをいつも気に留めてくださっているお二人は、セテラ・ウォッチャーとして、私は絶対的な信頼を寄せていました。

和久本さん、黒田さん、そして元東京新聞文化部編集委員のKさんと私の4人は、文化、芸術が好きでお喋りをするのに定期的にランチの会をしていた時期がありました。年に2~3回でしたが何年か続き、その会を4人なので、なぜか≪四銃士の会≫と命名して映画や音楽、オペラのことなどお喋りしてとても楽しかったのを覚えています。2010年の11月7日、全く青天の霹靂ともいうべき、和久本さんが突然亡くなったと聞いた時には耳を疑いました。ご病気だったなんて一切知りませんでしたし、黒田さんにすぐにお電話したら、黒田さんもまさか、と絶句されていたほどに、それはあまりに予期せぬお別れでした。後で聞くと和久本さんは絶対に業界の人に病気のことを知られたくなかったそうで、最後まで美しいベールの潔い美学を貫かれた方でした。そして、黒田さんはその後もセテラ・ウォッチャーを続けてくださり、殆どの作品のプレスに深い考察力の素晴らしい文章を書いてくださいました。今回の見放題パックの中ではたまたま3作品ですが、『不機嫌なママにメルシィ』ではギヨームの“さまよえるセクシュアリティ”について、そして『マーラー』では、大のお得意のヴィスコンティの『ヴェニスに死す』と対比させながらマーラーとアルマの愛憎について、『セザンヌと過ごした時間』ではセザンヌとゾラの屈折した友情について、毎回どうしてこんなに上手に作品の本質を見つけてくださるのだろう・・・と感動するのです。

そして2017年の9月にオーディオ機器の雑誌HiViに、”セテラの選択に注目を“という愛の鞭?というよりやはり愛情深い紹介を書いてくださいました。

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(2017年『HiVi』9月号より)


ここで黒田さんが、私は日本のマーケットのことなんて無視してただ自分の好きな映画を買っている・・・と書いておられますが、勿論かなり誇張された書き方で、私が好きで配給を決める映画は日本でもきっと好きな人、見たいと思う人がいるだろう、と思って配給しているのでそれは黒田さんもわかってはいるけど、でもあまり一般的とは言えないから心配・・ということなのだと思います。

そして黒田さんは、この記事を私の父に読んでほしくて書いたと言われました。私の父は黒田さんの記事を読むことができ、その1年後に90歳で亡くなり、そしてその1年後にまだまだお若かった黒田さんが11月17日にやはり一切業界の人に知られずに、旅立たれたのでした。和久本さんも黒田さんも絶対誰にも知らせないでと滅びの美学を貫かれた方だったように思います。どちらにも、言葉で言い尽せないほどお世話になったのにお礼もお別れもできませんでした。黒田さんが書いてくださったこの文章は、黒田さんの優しい視線がセテラが頑張っていけるように天から見守ってくれるだろうというお守りとして一生大事にしたいと思っています。

山中陽子

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この度は、黒田さまご友人並びに『HiVi』編集部のご協力をいただき、「セテラの選択に注目を」の公開をさせて頂ける運びとなりました。ご協力に心から感謝いたします。

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(月刊HiVi最新号2020年6月号)

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