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愛さずには生きられない男たちと女たちのお話『愛のあしあと』 セテラ作品の思い出㉕

2011年カンヌ国際映画祭のクロージングを飾って話題となったフランスの俊英クリストフ・オノレ監督の長編8作目の『愛のあしあと』。オープニングのポップでキュートなたたみかけるシーンとラストの対比が衝撃の映画です。

私は冒頭の20分くらいが大好きで何度も繰り返し見てしまいます。1960年代のファッションがとてもかわいらしいオープニングはパリのロジェ・ヴィヴィエの靴屋さんのシーンから軽快な音楽で始まります。お店のハイヒール靴をちょっと拝借してしまう女の子リュディヴィーヌ・サニエちゃん演じる主人公がマドレーヌです。この靴のせいで無垢な娼婦になってしまったマドレーヌは街角で出会う素敵なチェコから来た医者のヤロミルと恋に落ちます。プラハに渡って子供もできますが、夫の浮気で傷ついて離婚してパリに戻ります。

パリで再婚したマドレーヌ、娘ヴェラも美しく成長して、20年後の1980年代に移るとマドレーヌ役はドヌーブになり、娘の役はキアラ・マストロヤンニが演じて、本当の母娘が役の上でも母娘を演じるのです。

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さて、この映画の最大の魅力はこのダイナミックな(?)キャスティングにあります。チェコから来たヤロミルは、若いときにはハンサムなラシャ・ブコヴィッチという人が演じていますが、40年たつと、なんと、ミロス・フォアマンが演じていて、その全く似ていない役者を強引にキャスティングしているので、驚きます。実はこのラシャ・ブコヴィッチという俳優は、ユーゴスラビアの人みたいですが、本作ではチェコ人として、また同じころに出た『黒いスーツを着た男』(セテラ配給)ではモルドヴァの人として、東欧のいろんな国の人になっている俳優のようで、2013年の『ダイ・ハード ラスト・デイ』では堂々とブルース・ウィルスと対立する悪役で活躍していました。

この『愛のあしあと』での歌って踊って誘惑する甘い濃い彼は、『黒いスーツを着た男』では1分の出演後にすぐに車に轢かれてベッドで寝ている役でした。どちらも存在感があり、同じ俳優だとすぐに気がつきました。しかしいきなり40年後にミロス・フォアマンが老人となった彼を演じているのもすべては映画愛の詰まった監督のこだわりといえます。『シェルブールの雨傘』『女と男のいる舗道』『ブロンドの恋』『存在の耐えられない軽さ』『昼顔』などオマージュがたくさん出てきます。。

ミロス・フォアマン監督を俳優として出演させて、彼と対抗する現在の夫役には70年代の歌手のミッシェル・デルぺッシュまで出演しています。舞台もパリ、プラハ、ロンドン、ニューヨークへと移り、愛さずには生きられない母と娘の愛の遍歴が美しくも切ないのです。ロンドン編のポール・シュナイダーとキアラのシーンもとても素敵なので、ドキドキしながら見てください。そして豪華なこの映画には『ストーリー・オブ・マイ・ライフ/わたしの若草物語』に出演しているルイ・ガレルも出演しています。おそらく、オノレ監督の全作品の中でも最も贅沢なキャストとロケーションの映画でしょう。

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山中陽子

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