『アイデア大全』×『FORTH』後編 ディズニー・矛盾・原っぱで転げ回る
こちらの記事のつづきです。
『アイデア大全』に掲載されているアイデア発想ツールを、FORTHイノベーションメソッドという『新規事業コンセプトの創造プロセス』に重ね合わせる試みの後編。
前回はアイデア大全の第Ⅰ部「0から1へ」の19ツールを取り上げた。そのうち15ツールはFORTHと重なるところがあり、ついつい「すごいな!!!フォース!!!!」と叫んでしまった、今回はどうだろう。
大全の第Ⅱ部「1から複数へ」と地図を重ねる
第Ⅱ部には23のツールがあるのだが、大きく6つの方法に分かれる。
視点を変える
組み合わせる
矛盾から考える
アナロジーで考える
パラフレーズする
待ち受ける
FORTHの地図と重ねてみると、このような結果になった。
23のうち使っているのは9つ。「視点を変える」「矛盾から考える」「待ち受ける」方法の多くはFORTHでも活用する一方、「組み合わせる」「アナロジーで考える」「パラフレーズする」はほとんどない、という結果に。
視点を変える(20~23) 4/4
組み合わせる(24~28)0/5
矛盾から考える(29~31)2/3
アナロジーで考える(32~37)1/6
パラフレーズする(38~39)0/2
待ち受ける(40~42)2/3
数多く重なった3つの方法のツールを取り上げ「新規事業コンセプトを考えるときに、どうしてこの方法が大事なのか」を考えてみたい。
1.視点を変える:ディズニーの3つの部屋
ウォルト・ディズニーはミッキーマウスの生みの親であり、ウォルト・ディズニー・カンパニーの創立者。アニメーター、プロデューサー、映画監督であり、実業家で声優でもある。
そんなクリエイティビティの塊のような彼が、どのように映画やテーマパークを開発しているのかを専門家が分析して再現可能なプロセスにしたものがこの「ディズニーの3つの部屋(Disney's Brainstorming)」だ。
3つの部屋には「なんでもありな夢想家」「どう実現するか考える実務家」そして「どこが問題か指摘する批評家」がいる。ウォルト・ディズニーは実際に3つの会議室をつくり、「夢想家の会議室」では突拍子もないアイデアを出すことだけに集中し、他の思考を挟まないようにしていたという。
かんたんにこの方法を取り入れるとしたら、紙1枚を3つのスペースにわけ、夢想家→実務家→批評家の順で考えていく。1人でも取り組めるが、複数人で役割をわけるというのも有効だ。
FORTHメソッドでも『夢想家』『実務家』『批評家』の役割が登場する。1人のメンバーが集めてきたインタビューメモをみんなでみながら「この人のために何ができるだろう」と夢想し、コンセプトシートをみて「どうすればより実現できるだろう」と構想し、最後のTEST IDEASでは「なにがまずいのか」を批評する。
プロセスをわけずにぐちゃぐちゃにして取り組むと、この3つの部屋と役割が混在してしまい、互いに「・・・わかってないなぁ」となってしまい不信感やモチベーションダウンにつながりかねない。3つの部屋を用意できなくとも、「いまどの役割で考えるべきなのか」をファシリテーターが明確に用意できさえすれば、ディズニーの3つの部屋をつかいこなせる。
2.矛盾から考える:弁証法的発想法
矛盾や対立に焦点をあて「矛盾の両立」や「対立の解消」ことができると、ブレークスルーが起こる。
姉妹が1つのオレンジを取り合っている話はどこかで聞いたことがあるかもしれない。どちらも「オレンジが1つほしい!」と譲らず、対立しあっている。しかし実は姉はジャムをつくりたいからオレンジの実が必要で、妹はオレンジピールをつくりたいから皮だけ必要だった、というお話だ。
アイデア大全には「どう場合分けすれば対立が解消できるか?」のように場合や時間をわけて解決する発想法や、時代の流れによって揺り戻しが起こる事例(昔は売買は個別に値段交渉→大量生産で定価取引が普及→ネット社会でまた非定価取引に)が紹介されている。
コンセプト発想法のひとつに『ブレイク・ザ・バイアス』がある。「じぶんはどのようなことに注目してアイデアをつくっているのか」、着想の発端や前提といった先入観(この課題を解決しなければならない等)についての自覚を促し、それを超越したアイデアを目指す、というコンセプトだ。
noteでは、この記事で詳しく解説されている。
この発想法もいわば弁証法的発想法といえる。しかし、この実践はかなり難しく、体得するのには数ヶ月いや数年かかると思われる点に注意が必要だ。
通常アイデア発想段階でのインタビューでは「どんなことに困っていますか?」とニーズに着目することが多い。本人が自覚している顕在的課題だけでなく、自覚のない・言語化されない潜在的課題をみつけよう、として「他にはどんな課題がありますか?」とたくさんのニーズ=課題を集めていく。
FORTHでは弁証法的発想法を、インタビュー項目の1つに取り入れている。それは「どうしてその課題は解決できていないんですか?」という問いだ。これをFORTHではFrictionとよび、課題の裏にある「ニーズの実現を阻む背景課題」 に着目する。そうすることで、ニーズと背景課題の対立の解消を目指す。とてもシンプルかつ創造的な手法ではないだろうか?
3.待ち受ける:赤毛の猟犬(アイデアの原っぱで転げ回る)
ジェイムズ・ヒギンズは飼い犬が原っぱで転げ回るのをみて、「じぶんもたくさんの資料にまみれよう」と思い立った。
「赤毛の猟犬」という手法は、まず1つの情報を1つのカードに要約する。次にすべてのカードを一度の読み通し、その組み合わせを徹底的に考える。というとてもとてもシンプルなものだ。
手法自体はシンプルだが、この手法がうまくハマるのは複雑に絡み合っている問題のほうだ。構成要素がすくない問題であればすべての組み合わせを考えていけばいいが、新規事業のコンセプトを考える際にはそんなことはやってられない。
実際にFORTHをつかうと、数百個のアイデアが半日で集まる。
これだけのアイデアがでてくると、それをすべてKJ法でまとめて点数づけしてくことなんてやってられない。FORTHでは、このなかから1人6つのアイデアをピックアップして、それを組み合わせてコンセプトをつくる。
自分がだしたアイデアだけでなく、他のメンバーが考えたアイデアもある。テーマ設定はある程度同じでも、対象とする顧客や課題も異なるアイデアの中からぶっとんだ着想で実現に時間がかかる革新的アイデア3つと、実現できそうな進歩的アイデア3つを個人が選択する。その後、各自でしっかり時間をかけて革新と進歩をかけあわせるコンセプトをつくることで、魅力的かつ実現できる事業案になる。
視点と矛盾。そして転げ回る
企業で新規事業コンセプトを着想するには「いまどのようなことを考えるのか」を切り分けることが必要だ。「多様な人があつまり多様な視点でアイデアを発想した方がいい」というのは長い時間軸でみると正解だが「いまここで何を考えるか」がバラバラだと、集まったメンバーが同期できず、相互不信になるか、新規事業自体が嫌いになりかねない。
そして、いままで考えてこなかったことを考えるためには「なぜこのニーズが解決されていないのか?」に着目し、その矛盾の解消に焦点を当てることがひとつの有効なアプローチになる。「顧客のニーズは本物なのか」「そのニーズはそもそも我々が解決すべきなのか」と批評家モードになる前に、まずは夢想家・実務家モードでアイデアをつくることに集中しよう。
最後に、原っぱの上で転げ回るように、たくさんの人から生まれたアイデアを眺めて、いままで考えてもいなかったアイデアに巡り合う。その時間は、原っぱと同じくらいワクワクし、自由や活力をもらえるものになるはずだ。
FORTHイノベーションメソッドに興味をもった方。よかったら10月に開催される養成講座に挑戦してみてください。
1人でも多くの人がこのスキルを社内で活用し、1つでも多くの新規事業が世に届くことを願って。