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時間を積み重ねることと、思い出を上書きする勇気を持つこと。『この町ではひとり』山本さほ

たくさん嫌な目にあう、苦しい町の思い出

『この町ではひとり』山本さほ を読みました。
作者が若い時、神戸で一人暮らしをするマンガです。受験に失敗したりした人生をリスタートさせるため、神戸に引っ越して、新天地で穏やかな日常を期待する作者ですが、なかなか思い通りにいかない。
バイト先で罵倒されたり、孤立したり・・・理不尽な嫌な目にたくさんあいます。読んでいて苦しくなる。これはしんどい。

美大受験に失敗した山本さんは、自宅に引き籠もってゲーム三昧…ある日、ふと「このままの人生で良いのだろうか?」という不安が過ぎる。そして山本さんは決意する。誰も自分のことを知らない町で、人生をリセットしようと。そこから始まる新たな人生は希望に溢れている!…そのはずだった…
二度と戻りたくはない”あの一年”の記憶を、著者が特別な想いで描く!!

『この町ではひとり』山本さほ Amazonの紹介文

嫌な思い出は、その土地や関連するモノに伝染してしまう

生きていたら理不尽に嫌な目にあうことは誰しもあります。
つらいのは、罪のないはずの土地や関連するモノに嫌な気持ちが伝染していくこと。
嫌な人の出身地。その人の友達。その人が好きなモノ。似ているタレント。当時聞いていた音楽。嫌な出来事に関連する臭いや食べ物。

帰って何年かは、バイト先で流れてた曲が流れてきたり・・・
テレビから大声で怒る関西弁が流れてくると・・・
トラウマが蘇ってきて、避けて通ったり、チャンネルを変えたりしてたー

『この町ではひとり』山本さほ 「最終話 私はここにいた」より引用

時間を積み重ねることと、思い出を上書きする勇気を持つこと。

PTSDもののトラウマを植え付けられる作者ですが、あとがきにおいて、以下のように書いています。

あれから数年は夜中にふと思い出して悔しくて寝れなくなったり、社員の顔が浮かんできて怒りが沸き上がったりもしていたのですが、最近ではすっかりそんな感情も薄くなり、漫画を描くことによって完全に消え去りました。

『この町ではひとり』山本さほ あとがきより引用

時間を積み重ねることで嫌な思い出を薄めたんですね。
私たちも、嫌なことがあったらとにかく別の何かに取り組んだり、意識せずとも時間を置いたりして対応しています。
時間の経過とともに、嫌な思い出は勝手に薄まっていく。

また、作者は13年の月日を経て再び神戸の町を訪れます。
かつてバイトしていた店に行って、自分の本を発見する。嫌な思い出を、新しい感情で更新していきます。
嫌な思い出は、上書きすることができる。

まともに生きていたら嫌な出来事は避けては通れませんが、ただただ時間を積み重ねることでも、上書きしてしまうことでも乗り越えていける。

たった今、傷ついている人に読んでほしいマンガでした。

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オカチマチ
ありがとうございます!猫のエサ代にします!