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【オリンピック】久米宏と千葉すず発言の真相

1996年夏、アトランタオリンピックが開催された。

このオリンピックから種目に採用された女子800mリレー。
メンバーは山野井絵理、井本直歩子、三宅愛子、千葉すず。
メダルを期待されていたが、結果は4位入賞。

競技終了後、この4人が衛星中継で『ニュースステーション』に出演した。その際、千葉すずの発言が物議を醸した。

「”メダルきちがい”です、みなさんは」
「実際やってみてください、みなさん」

これだけ見ると、過激で挑発的な言葉に思える。

では、どのような流れの中で発せられたのか、4人のインタビューを振り返ってみる。




安室奈美恵

1996年7月26日。
この日、『ニュースステーション』のスタジオゲストは18歳の安室奈美恵。

前年から小室哲哉がプロデューサーになり、ヒット曲を連発。
ファーストアルバム『SWEET 19 BLUES』が4日間で350万枚を売り上げ、人気爆発。
”アムラー”として社会現象になっている真っ只中の出演。

日本のスタジオにいる安室もインタビューの場にいた。




巨大アフロの真意

日本と13時間の時差があり、アトランタは朝9時半。
4人へのインタビューが始まる。


井本直歩子(20歳)

入賞式で巨大アフロのカツラを被っていた井本。
このインタビューでも同じアフロ姿。

久米:はははは(笑)。井本さん。
井本:おはようございます。
安室:かわいい。
久米:これね、アナタがその格好でプール入ってきた時、我々日本で見ててね、僕なんか「あ、どうしたんだ?レゲエのネエちゃん入ってきちゃって」と思ったんですけど。そのカツラどうしたんですか?
井本:日本から持ってきたんです
久米:プールに入っていく時に、それ被っていこうと思ってたの?
井本:はい。

現地でのノリではなく、わざわざ日本から持ち込んだアフロのカツラ。

久米:なんでまた、そう思ったんですか?
井本:あの~、これは、いろいろ意味が、ちゃんとあって
久米:うん。「ちゃんとあって」。聞かせてください。
井本:ただの目立ちたがり屋じゃなくって
久米:もっと深い意味がある。
井本:はい。あのですね、あのやっぱりみんな今、競泳チームすごい最初から期待されてるじゃないですか
久米:うん。
井本:「メダルメダル」って言われて。でもウチらは、そういうプレッシャーに負けないで、もっと大切な「オリンピックを楽しむ」っていうことを…
久米:そうだ!
井本:大切にしたかったんです

メダルへの過度な期待を報道するマスコミ。
それに反抗して、選手は”楽しんでいる姿”を見せる必要があった。

久米:もう言ってやんなさいよ、「”メダルメダル”って、うるさく言うな!」って、みんな。
井本:そうですよ。(他の選手に)ね?
久米:ねえ。「アタシたちは楽しむためにオリンピックしてるのに、何がメダルだ!冗談じゃない!」って言ってやりゃいいんだよ、本当にもう!僕が怒ってますね(笑)

完全に選手側に立つ、ニュース番組の司会者。

久米:それで、その意味があって、「カツラ」っていうのはよくわかんないんですけど、楽しんでんだってことですね?
井本:そうです。で、「自分たちは精一杯ガンバって楽しんでるんだぞ」っていうことをアピールしたかったし

「メダル」という結果ではなく、オリンピックを「楽しんでいる」という姿を視覚に訴えた。

井本:(残りの)今日1日にも、雰囲気を盛り上げて繋げたかったんで。
久米:なるほど。また似合うんだアナタが。
安室:カワイイ。ふふっ(笑)
久米:ねえ。

楽しんでいる象徴=アフロのカツラ



山野井絵理(17歳)

久米:アナタの本読んでたら笑っちゃったんです。今17でしょ?
山野井:はい。
久米:「去年は、いろいろ恋愛問題がこじれて苦労しました」っていうのがあったんですけどね(笑)。本当?
山野井:(笑)。はい、去年は(笑)
久米:去年は恋愛問題こじらせたの?16歳の頃。
山野井:いや(笑)、少しだけ(笑)
久米:安室さんもガンバんなきゃ、16歳でこじれてんだぜ。
安室:そうですねえ(笑顔)
久米:ねえ。

メンバー最年少の山野井とは恋愛話。



三宅愛子(18歳)

久米:オリンピックは楽しめましたか?初めてのオリンピック、充分。
三宅:はい。スゴい良い経験ができました。
久米:あの「カツラの持っている意味」を充分理解して、みんなでガンバって楽しめた?
三宅:はい。できました。
久米:そうですか、良かったですねえ。これがひとつプラスになって、次のステップにいくといいですもんね。
三宅:はい。そうですね。
久米:「私はオリンピックで泳いだんだ!」。
三宅:はい。

初めてのオリンピックで「楽しむ」意味を理解して泳いだ三宅。



千葉すず(20歳)

久米:千葉さん。
千葉:はい。
久米:あ、久米です。どうもはじめまして
千葉:どうもはじめまして。お世話になってます(笑顔)

いよいよ、久米宏×千葉すず。初インタビュー。

久米:「今回のオリンピックは趣味で出るんだ」っておっしゃってましたよね?
千葉:はい。
久米:充分に楽しめました?
千葉:楽しめました
久米:うん。あのバルセロナの時はパニクッちゃって、もう大変だったっておっしゃってたんですけど、今回はそんなことはなかったですか?
千葉:なかったです。楽しく泳げて、人の話も聞かなかったし
久米:はっはっはっは(笑)
千葉:自分なりに泳げました
久米:おほっ(咳込み)、アナタは良い性格だって聞いてましたけど。

16歳で出場した前回オリンピックとは違って、「楽しく」泳げた千葉すず。

久米:あの井本さんがね、カツラ被って、みんなにもう言ってやるんだ、「私たちは楽しむんだから!」。そういう気持ちが一番あったのはアナタじゃないですか?
千葉:う~ん、ありましたけど、井本のアレは恥ずかしかったです(笑)
井本:ヒド~い!(笑)
千葉:ふふっ(笑)
   カツラを外している井本
久米:あ、脱いでもカワイイじゃん。
千葉:似合ってます。
井本:ありがとうございます(笑)
久米:脱いでもカワイイよ。
井本:ふふふ(笑)。照れる。

笑いの絶えないインタビュー。



千葉すず引退報道

日本で報じられているオリンピック後の進退について。

久米:ちょっと気になるんですけど、今回が日本ではね、もうそんな人の事いろんな事言うなっていう、お気持ちもわかるんですが、「これで引退か?」っていうふうな事が結構言われてるんですけど、こんな事聞くのは失礼かな?
千葉:そうですね。私はプロ選手じゃないんで、みなさんにいちいち引退だのなんだの宣言するアレはないと思うんで、辞めるときは黙って辞めます(笑顔)
久米:ああ、気持ちいい性格してますね。モテるでしょ?
千葉:はい?
久米:モテるでしょ?
井本:モテます!
千葉:嫌われます(笑顔)。ふふふ(笑)
久米:嫌われるのも、モテてるうちの一つなんですから。
千葉:それはないです(笑)

競技前は「メダルメダル」と騒がれ、競技が終われば「引退か?」と騒がれる千葉すず。




衛星中継によるタイムラグ

インタビュー終了時間が迫ってきたので、最後にひと言。

久米:「もうメダルメダルって言うな!うるせー!」って言ってくれる?ひとつそこで。
千葉:まああの、本当にその通りで
久米:はははは(笑)
安室:(笑)
千葉:”メダルきちがい”です、みなさんは。おかしいです。
久米:いいな、正直で!もう本当に「メダルメダル」って私たちが勝手に(言って)、(選手は)楽しんで泳いでんだからね。
安室:いいですねえ。

最後の最後に”例の発言”。
この時、何が起こっていたのか。

これまで終始選手側に立ってきた久米宏の最後の要望に対して、ブレない千葉すずの「まああの、本当にその通りで」という言葉で、スタジオに大きな笑いが起きた。
衛星中継のタイムラグと、スタジオが笑いに包まれたタイミングが奇跡的に合致して、スタジオの誰も”例の発言”が聞こえていなかったのだ。

ゆえに、久米宏は更に煽る。

久米:勝手に日本のマスコミが、「メダルだ!メダルだ!」「取れたの取れないのって言うな!」っていうんだよね。ありがとうね。
千葉:実際やってみ…あはっ(笑)
久米:何?何?

ここでもタイムラグによって発言がぶつかる。

久米:「悔しかったら泳いでみろ!」って言うんでしょ?
千葉:実際やってみてください、みなさん(笑)
久米:「悔しかったら泳いでみろ!」って、これですよ!僕、本当にそう思ってると思うよ。そんなさあ、新聞記者が勝手に「メダル取れるだ取れないの」って。「じゃあ、お前それ、泳いでみたらどうなんだ!」って。俺が段々興奮してきた。どうも本当にお疲れのとこ、ありがとうございました。

ここでアトランタとの中継終了。

久米:はああ…興奮しちゃった。

メダルへの期待を報じるマスコミに対してアフロのカツラで抵抗。
プレッシャーを「楽しむ」ことで跳ねのけた。

千葉すずの発言は、オリンピックにおいての選手とマスコミの距離を表した言葉でもあった。


今年もオリンピックが開幕する。


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