
ナインティナイン NSC入学から退学まで
NSCに誘う
『急性吉本炎』(1995年4月6日)
矢部の兄・美幸がNSCの7期生。
矢部:まあ、やっぱお兄ちゃんの影響を受けてですね。ほんで2年後ですか。
岡村:2年後。僕が大学受かって、キミもどっこも行くとこなくて。
矢部:そうそうそう。
一浪した後、立命館大学二部に合格した岡村。
岡村:もう、「ホンマ、なにしようか」って。
矢部:「どうしようかな」。
岡村:完全に”逃げ”で「養成所行きましょか」ってなもんですわ。
矢部:そう。1年ね。
岡村:僕に言うてきたんですわ。
矢部:「養成所行きませんか?」って言うてね。
岡村:そうです。
高校を卒業して、何もする事がなかった矢部が岡村をNSCに誘った。
岡村:俺が、「おまえ出しとけや、(NSCの)書類とか全部」。
矢部:そうそう。
岡村:そん時もう、僕は完全な先輩でしたから。「おまえ、書類出しとけや」って。
矢部:養成所へ入る手続きね。
岡村:そうそうそう。え~、なんやったかな?「履歴書とか全部出しとけや」って言うた。ほんなら「わかりました」。
矢部:「わかりました。全部やっときます」。
岡村:「僕、出しときますよ」。
岡村隆史 19歳、矢部浩之 18歳。
茨木西高校サッカー部で一年後輩の矢部。
岡村:あの頃ね、(矢部は)もうヒゲもブワ~生えてね。あのなんかフレッドペリーのポロシャツ着ててんやん。
矢部:はははは(笑)
岡村:ふふふ(笑)。白のフレッドペリーの。全色持ってんねん、おまえなんか知らんけど。
矢部:はははは(笑)
岡村:白・オレンジ・ブルーとか。で、俺もそれ見てオシャレやな思って、俺も買うたがな3色。
矢部:着てました(笑)
岡村:着てたやろ?
矢部:2人揃って。なんやったらカブッてた時あるから。
岡村:そうそうそう。それにちょっとベスト着たりしてな。
矢部:そうそうそう(笑)。スエードのな。
岡村:ダッサイ2人やったな。
矢部:スエードのベスト気に入っとったやろ?
岡村:そうや。スエードのベスト。スエードの茶色いベスト、ポロシャツに羽織ったりして。
矢部:そう。
岡村:その時期ね。
2人で同じブランドのポロシャツを着て過ごした日々。
願書の出し忘れ
岡村:それで一応、吉本の門叩くんやったら、キミは観に行ってたんや、よう花月とかね。
矢部:はいはい。
岡村:僕、一回も無かったから。2人でほんだら、「なんばグランド花月に漫才観に行こう」って言うて。
矢部:うん。
岡村:俺が「観に行きたい」と、キミに言うたわけですよ。
矢部:いっぺん観ときたいと。
岡村:うん。
NSC入学前、初めて劇場に行くことになった岡村。
岡村:で、漫才観に行ったら、ちょうど僕らが入らなアカン、書類を出してなアカン、NSC9期生の二次面接を、もうやってた。もう”二次”なんですよ!
矢部:もう一次は終わってて。
岡村:終わっててん。
矢部:二次やった。
岡村:それで「おまえ、どないしてん?これ、俺ら面接受けなアカンのちゃうん?」って言うたら、「え?」。
その時、偶然にもNSC二次面接の日程と重なった。
矢部:そうそう。ほんで慌てたんですよね。
岡村:そうそうそう。入ってなアカンねんもん、そこに。もう一次合格して、もう二次やってるんですから。
矢部:うん。
岡村:「これどういうことやねん?」言うて、「僕、出してないんですよ」つって。
矢部:うん。
矢部が願書を出していないことを劇場で知る岡村。
岡村:で、「アカンがな。ほんならもう、飛び入りで二次面接受けようか」いうことなったんですよね。
矢部:そうそうそうそう。
どうなるかわからないが、とりあえず掛け合ってみる事に。
岡村:で、それはいいんですよ。ほんでオカシイのが、NSCの願書は出してないのに「劇団あすなろ」の一次審査は、おまえ勝手に受かってた。
矢部:はははは(笑)
岡村を誘ったNSCの願書は出し忘れるが、劇団は一次合格していた矢部。
校長に直談判
岡村:そんでねえ、下の受付のおねえちゃんとかに「すいません、僕らNSC入りたいんですけども」って言うて、「じゃあ呼んできてあげるわ」って言うて、上からナモトさんっていう、なんかな。
矢部:まあ、当時NSCの校長先生ね。
岡村:校長か。僕らの時は校長先生。「来年こい」って言われて。で、「いや、それでも、どうしても入りたいんで待ってます」って言うて、全部の面接終わるまで、ずっと下で待ってたんですよ。
矢部:そうそうそうそう。
岡村:ほんなら、もう一番最後かな、そのナモトさんっていう人が来て「ちょっと見るだけでも見たろう、待ってんねやったら」って言って、一番最後に僕ら面接受けさせてもろうたんですよ。
矢部:そうそうそう。
粘った結果、二次面接からの参加が許された。
岡村:そん時にいてたのが偉いさんばっかりですわ。
矢部:うん。
岡村:えー、なんです?木村部長。
矢部:大崎さん。
岡村:大崎さん。なんかもうすっごい偉いさんがいて。そん時全然わからへんからね。
面接官には木村政雄、大崎洋などが並んでいた。
岡村:んで、なに。
矢部:質問されるんですよね。
岡村:そう、質問される。「キミらは漫才か?漫才すんのか?」って言われて、「はい、漫才っす」。
矢部:「漫才っす」。
岡村:「漫才っす」。
矢部:小っちゃい「つ」入れとった。
岡村:「漫才”っ”す」。
矢部:「漫才”っ”す」。
岡村:「キミら、おもろいんか?」。
岡村・矢部:「おもろいっすよ」。
若さ溢れる「おもろいっすよ」。
岡村:木村部長に、部長クラスの人、目の前にして「キミらは漫才おもろいんか?」「おもろいっすよ」。なあ?2人。
矢部:ちょっと肩入れとったから。
岡村:肩こんな入れとんねん。
矢部:「おもろいっすよ」。
岡村:もうホンマこれぐらい(50~60cm)の距離やもんな、テーブル向かい合わせて。(テーブルに)乗りかかって、「おもろいっすよ」。ハッタリかまさなアカン思ってるから。俺らめちゃめちゃおもろいヤツだって売らなアカン思ってたからな。
いきなりの面接で、息の合った態度を取る。
矢部:ほんなら、鼻で笑うんすよね。
岡村:そうそう。「ふっ」。それまた勘違いして「うわ、俺らおもろい。ウケてるやん」。
矢部:「ウケてるやん」。
岡村:「ウケてるやんけ」。
矢部:「今の『おもろいっすよ』のイントネーションがおもろかったんか?」(笑)
岡村:(笑)。後からちょっと、なんか会議開いたりしてな。
同じような人間を何百人も見てきている面接官に鼻で笑われる。
NSC入学
岡村:で、結局、一週間ぐらいしてからかな、2人とも合格通知きて。
矢部:合格したんですよ。
岡村:そう、合格したんですよ。
矢部:ええ。
2人の行動力によって無事に合格。
岡村:で、ナンボ?おカネ、9万ナンボ払わされんのね、一番最初。
矢部:最初9万5千円か。
岡村:9万5千円払うて、やっと、なんです?授業始まるんですよね。変なカードと時間割みたいなの(もらって)。
矢部:時間割もろうて。ほとんど毎日授業があるんですよね。
岡村:そう、毎日。月曜日がね『テレビ論・ラジオ論』っていうのがあるんですよね。
矢部:そう。
岡村:それで、あとタップの授業あったり、漫才の授業あんねんね。
再び始まる学校生活。
岡村:漫才の授業なんていうのは、自分でネタ作っていって見せるんですよね。一発目、なんですか?何のネタやったかな?
矢部:最初?「バーベル」とか。
岡村:「バーベル」とか。
矢部:覚えてる?(笑)
岡村:養成所で一番最初にやったネタ「バーベル」。
初めてのネタ「バーベル」
岡村:(親指立てて)「バーベル上げま~す!」。
矢部:(親指立てて)こんな入り方も(今どき)ないよ。「上げま~す」。
岡村:「バーベル上げま~す!」(床から持ち上げて)「よ~し、重たいで~す!でも、ここ(胸)まで上がりました!」。
矢部:「そっから、そっから上へ!上へ上げんねや!」。
岡村:「(上げようとして)うわ~!(横に伸びて)ニュ~ン」。
矢部:「どんなバーベルや!」っていう。横に広がるバーベル。
岡村:うわ~、恥ずかしい!
矢部:はははは(笑)
岡村:「ニュ~ン」。「(親指立てて)バーベルでした!」。
親指を立てるサムズアップで若手らしく勢いをつけていた。
矢部:こんなコントをね。こんな漫才ですか?コントですか?これをねえ、最初に見せたんですよね、授業の。
岡村:(親指立てる)なんやろなあ?これ。
矢部:なんやろう?これ(親指立てる)がツカミやったんかな?その頃(笑)
岡村:なにこれ?「ニュ~ン」。
矢部:やってましたねえ。
岡村:やってましたねえ。
矢部:ええ。
記念すべき、初めてのコンビネタ。
NSCをクビになる
岡村:漫才の授業だけはキッチリ行ってたんですよね、僕ら。
矢部:そうそう。漫才だけ行ってたんですよ。
岡村:それ以外の、自慢話聞いたりする授業とか、タップダンス、踊りとか全部行かなかったんですよ。
矢部:全部もう行かへんようなって。だからもう週一回なんですよ。
岡村:週一回だけしか行かへん。
矢部:ほんで月謝。月謝が月1万5千円やから、アホらしなってきてね。
岡村:週一回しか行けへんのに1万5千円払うん鬱陶しいなあっていうことなってきて。
矢部:そうそうそう。
岡村:ほんで、おカネをどんどんどんどん払わなくなって。
矢部:滞納していってね。
岡村:滞納していって。
授業に出ず、月謝も払わず。
岡村:で、一時もう「これはアカン」と向こうの校長先生とかが言うて。で、結局貼り紙貼られたんですよ、NSCの入り口に。
矢部:そうそうそうそう。
岡村:「岡村・矢部出入り禁止!」っていうて、ベター紙貼られて。
入学から2カ月でNSCをクビになったナインティナイン。
岡村:で、それが結構、師匠連中の間で話題になったと。
矢部:ああ。
岡村:「そんなに岡村・矢部っていうのはNSCで暴れとんのかい」。
矢部:「そない危険なんか」っていうね。
岡村:(宮川)大助・花子さんとかがね、見に来たっちゅうから。
こうしてナインティナインは、最初で最後となるコンビ解散の危機を迎えることになる。