機材おじさんの異世界転生
そんなわけで、異世界なのであった。
おそらくトラックに轢かれたかなんかしたのであろうと思うが、そこらへんの記憶は曖昧だ。
まあそこらへんはなんでも良い。
ここはよくあるテンプレ的な中世ファンタジーの世界のようだった。
それはまあ良かろう。
問題は、ここではマシンライブができないと言うことだ。
マシンライブとは主に電子楽器を用いた音楽演奏のライブのことである。
しかし、残念ながらこの世界には電子機器どころか、電気すら発明されていないようだ。
しばらく調べたところ、どうやらこの世界には磁石が存在しないらしい。
そんなことあるのかと思うが、そうなんだから仕方がない。
磁石があれば発電機やモーターが作れ、この世界で電気による産業革命を起こすことができるだろうが、そう言うチートは許されていないらしい。
しかし、自分には転生ボーナスがある。
転生ボーナスとは、異世界転生ものではテンプレの機能で、転生時に一つチート能力を与えられるというものだ。
異世界転生ものの核の部分と言っていい。
私の転生ボーナスとは何か。
それは「チャットAI利用権」である。
そんなわけで聞いてみた。
Q:
磁石(および磁石で構成されるモーターやタービン)を使わずに発電する方法を思いつく限り教えてください。
A:
磁石、モーター、タービンを使用しない発電方法は限られていますが、いくつかの代替的な方法を考えることができます。
1. **静電気発電**: 静電気の原理を利用して電荷の移動を通じて電気を生成します。これは基本的な方法で、摩擦や接触によって電荷を生成することができます。
2. **熱電変換**: 熱と電気の直接的な相互変換を利用する技術で、特定の材料(例えばビスムートテルライトなど)を使用して、温度差を利用して電気を生成します。
3. **化学反応による発電**: 例えば、電池や燃料電池などの化学反応を利用して直接電気を生成する方法です。
4. **放射性物質の熱利用**: 放射性物質の自然な放射熱を直接利用して電気を生成する方法も考えられますが、放射性物質の取り扱いには非常に高い安全基準が必要です。
これらの方法は、一部が特定の条件下でのみ利用可能であり、一般的な発電手段としては使用されていません。非常に限定的な状況や特殊な用途でのみ適用される可能性があります。
なるほど、化学反応による発電、電池であれば作れそうである。
4は置いとくとしても、1、2もできそうではあるが、あまり大電力を取り出せなさそうだ。
そんなわけで、電気を生成すべく実験を行っていたところ、奇妙なことを発見した。
どうやらこの世界では一切の化学反応が発生しないのである。
いやいや、生物が生きていられるのも、火が燃えるのも化学反応の作用だろうと思われるだろうが、この世界においてはそうではなかった。
この世界では、魔力と呼ばれる力で全てが成り立っているらしい。
そう言うわけで、転生前の世界で有効だった物理法則は全て無効になってしまった。
チャットAI?もちろんそんなもんゴミよ。
そこから、私は魔力について研究した。
どうやら、魔力には生物から発生するオドと、物体や空間から発生するマナの二種類があるらしい。
オドは細かい制御ができるが力が弱く、マナは制御ができないが力が強い。
よって、オドによる弱い魔力を呼び水として、マナから力を取り出すことで、世界に大きな作用を起こすことができる。
この世界では魔法と呼ばれる現象である。
例えば、火を起こすときにこの世界ではマッチやライターを使ったりはしない。
「木」と言う燃えやすいマナをもった物質に対し、オドを流して反応させることによって木の一部が火に変化するのである。
木が燃えた後に炭のようなものも残るが、それは酸化還元反応の結果ではなく、マナが失われた結果による変化に過ぎない。
私は、それは転生前の世界で言う半導体に似ていると思ったのだ。
つまり、生物をトランジスタのようなものだと考えると、ベースからエミッタに流す電流がオド、コレクタからエミッタに流れる電流がマナということになる。
そうして私は、半魔力体と呼べるだろう特殊な細菌を繁殖させることに成功した。
さらに、その半魔力体、そして魔力を減衰したり蓄積したりする特殊な石によって、魔力回路というものを発明した。
ここに来て、ようやく私は原始的な電子楽器ならぬ魔力楽器を製作できるようになったのだ。
この手記を読むものよ、この工房にあるのはその魔力楽器の数々である。
あなたにはここに記述したほとんどのことが理解できないかもしれない。
しかし私は狂っているわけではないのだ。
私はここでも、道半ばにして寿命を迎えてしまうようだが、願わくば平和的にこの技術を利用してもらうことを願う。
この魔力回路の技術を応用すれば、国どころか世界もろとも吹っ飛ぶような強力な魔力爆弾が大量に作れてしまうだろう。
それは望むところではない。
ここにある魔力楽器をさらに発展させれば、自動演奏する魔力楽器が製作できるはずである。
しかし、私にはそこまでの時間がない。
その仕事はあなたや、あなたの子孫に任せることとする。
・・・あー、マシンライブやりたかったなー。
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そうして朽ちかけた工房に魔力楽器の音が鳴り響くのであった。