物理屋さんの城跡探訪その1「岩殿城」~小山田信茂は裏切り者なのか~
〇 はじめに
趣味再開の一つ目として、以前から気になっていた「岩殿城」へ行ってきました。
岩殿城といえば、甲斐武田氏の重臣であった「小山田信茂」の居城であり、かつて武田勝頼が岩殿城へ敗走した際に岩殿城へ入城することを拒まれ、結果的に武田氏の滅亡へとつながった場所として有名です。
私が高校生の時に漢文の授業で読んだ「甲陽軍鑑」という江戸時代に書かれた歴史書にもそのことが書かれていた気がします。
私の中では、「武田氏の滅亡を招いた小山田信茂の裏切りが行われた場所」というイメージが強く残っていました。
しかしながら、この探訪を通じて私の中のイメージは180°変わることとなりました。
「小山田信茂は裏切り者ではないのではないか?」
以下、旅程を軽く述べた後に、私の所見とともに述べていきたいと思います。
〇 今回の旅程・岩殿城ってどんな城?
岩殿城は、JR中央線の大月駅(山梨県大月市; 写真1)からすぐ近くに位置する岩殿山にかつて存在した山城です。
大月駅は、JR中央線と富士急行線の乗換駅であるので、それなりに賑わっていました。
大月駅から少し歩くと、急峻な岩肌をあらわにした険しい山が見えます。
これが岩殿山です(写真2)。見るからに攻めにくそう。。。
岩殿山はそこまで高い山ではないものの、険しい山道ゆえに登頂はかなり難しそうでした。
現在でも山頂の城跡を拝むことは難しく、3つある登山ルートのうち2つは3年ほど前の地震に伴う落石の影響で通行止めになっています。
もう一つも粘土質の柔らかい道になっているそうで、大雨の次の日だった今日は諦めざるを得ませんでした。
岩殿山前を流れる桂川(写真3)を越えて少し上ると登山口が見えてきました。
今回は途中のふれあい館を目指して登ることとしました。
途中の景色はなかなか良き(写真5)。
10分くらい歩くと小さな門と小屋があります(写真6)。これがふれあい館です。
ふれあい館は、地元の写真展が大半を占めていました。
確かに、良い写真ばかりでしたが、私が興味を示したのは、その一角に展示されていた小山田信茂の資料でした。
どうやら「小山田氏と岩殿城」という本からの抜粋でした(http://4619.web.fc2.com/books76.html)。
〇 小山田信茂は裏切り者なのか?現在まで続く郡内と国中の確執
冒頭に述べたように、小山田信茂といえば、武田氏の重臣で裏切りにより武田氏の滅亡を招いた武将として有名です。
ただ、ここに書かれていることは定説と真逆、小山田信茂は裏切ってはいなかったということでした。
その理由の一つとして、小山田信茂は領民を守るために勝頼を入城させないという決断をせざるを得なかったのではないか、と考えられます。
小山田信茂が裏切った時点において、武田勝頼は親族や家臣団から裏切りが続出していました。
その状態で織田軍に追われつつ、最後にたどり着いた場所がこの岩殿城でした。
もし、小山田信茂が勝頼を入城させていたのであれば、家臣・領民もろとも小田軍の標的になっていたかもしれません。
そのおかげで、小山田一族と重臣を除き、この一件を通して領民からほとんど死者を出すことはなかったそうです。
さらに面白い話を地元の方から聞きました。
山梨県東部は、私が訪れた大月市を含む東部の「郡内地方」と現在の甲府市を中心とする「国中地方」に分かれるそうです。
郡内地方は小山田氏の領地を含み、国中地方は武田氏が領有していました。
そのためか、現在でも郡内と国中は仲が悪いらしく、国中の人たちは「武田氏を滅亡させたのは小山田信茂だ」という考えも含め、郡内の人たちを目の敵にしてるのだとか。
私が話した方は生まれも育ちも郡内の方で、やはり小山田信茂を裏切り者の悪党とは思っていないようでした。
2022年3月には、武田信玄公生誕500周年を記念して、山梨県によって武田家滅亡までの歴史を描いた「信茂と勝頼」というショートドラマ(全5話)がYou Tubeにアップロードされました。
とても出来が良くて感動してしまいましたが、このドラマを見ると、上述の小山田信茂の決断や現在まで至る郡内地方と国中地方の確執が少しわかるような気がします。
そこまで長くないので、ぜひご覧いただけると幸いです。
〇 終わりに
というわけで、物理屋さんの城探訪第1回として岩殿城についてまとめてみました。
個人的には、とても刺激的で驚きの城探訪でした。
今まで裏切り者としてしか考えていなかった小山田信茂、改めて本人の立場に立ってみると、彼なりの苦渋の決断があったのではないかと思えてきます。
そして、地元の方々はそんな小山田信茂を慕い続けているということを知れて、なんだか感動してしまいました。
このように、実際に現地へ行ってみると、定説とは異なる視点や考え方を知ることができて楽しいですね。
これからもいろいろな城へ足を運んでみたいと思います。