アーティスト・イン・レジデンスのこと
Centerでは2025年よりアーティスト・イン・レジデンス(AIR)のプログラムを開始予定で、本始動に先駆けて今冬に2名のモニター受入れを行いました。AIRを行うこととなった経緯や今後の課題などをnoteに整理しておきます。 上の写真はフィルム・ワークショップの様子。
AIRを行うこととなった経緯
アーティスト・イン・レジデンス(AIR)とは、アーティストが一定期間滞在し、その土地のリサーチをしたり作品を作ったり発表したりすることを支援する事業のこと。Centerも宿泊機能があるのでゆくゆくは受入れ出来ればなと思っていたところ、「そちらにしばらく滞在して制作発表するからよろしくー!」という連絡を受け、2024年3月にイギリスの映像作家が3週間、同年6月にカナダのアーティスト夫妻(映像作家とドローイング作家)がお子さんを連れて1週間ほどCenterに滞在。あれよあれよとAIR(的な?)の実績が出来ました。そして話によると、日本に滞在したいアーティストは全世界にたくさんいるとのこと。
上記の2組はどちらも以前から副センがアーティストとして交流しており、意思疎通もわりとスムーズに出来たので、手探りで受入れしつつ、制作や発表、ワークショップの手伝いも楽しく出来たのですが、これが知らない作家の滞在だとどうなるのか?そもそも自分たちがAIRを経験したことがなく、音と映像以外の情報はあまり身近ではないし、何を準備すればいいのかよくわからないぞ!ということで、まずは情報収集から始めました。地方や都内のレジデンスを調べ、全国のAIRの情報を掲載しているウェブサイト「AIR_J」を運営する 京都芸術センター にも相談に乗っていただきました。
AIRモニターの募集
意外とAIRって普通に出来ちゃうんじゃない?ということが分かってきたものの、「はじめまして」のアーティストに向けてAIRを募集した時の流れや課題、改善点を把握しておきたいと思い、2024年12月~2025年1月にかけてモニターを募集しました。情報発信はInstagram, Twitter, Centerのウェブサイト。これだけで果たしてどれだけ応募があるのか心配ではありましたが、思った以上に問い合わせが多くSNSのフォロワーも増え、早々に2人のアーティストの滞在が決定しました。
1人目のモニター滞在(2024年12月)
1人目はオーストラリアの映像作家・Jordan James Kay。SNSで投稿を見かけ、兼ねてより来日してみたかったとのことで応募してくれました。韓国のオルタナティブ・スペース SPACE CELL での上映会後に日本に来るとのことで、もともと1週間の滞在予定が直前の変更で4日間となったり、降りる駅を間違えたり、真冬なのに上着がなかったり(オーストラリアは季節が日本と真逆)、まずは事前のすり合わせや情報提供が大事だなということを実感しました。また、数日間の滞在だとお伝え出来る地元の情報も限られてしまい、やはり1週間以上は滞在しないと地域のことを深く理解してもらえないのではと感じました。
Jordanはラトビアのラボ(映像作家が集まって機材などをシェアする制作スタジオ兼現像所)Baltic Analog Lab でもレジデンス経験があり、母国のオーストラリアで我々の旧知の作家と一緒に Artist Film Workshop というコレクティブを運営していることも発覚し、各国のラボ運営やコレクティブ(アーティストによって形成された集団)の話を聞けたのがとても良かったです。Centerラボ設立のアイデアも育ちました。あと余談ですが、母国語が英語だと全世界での活動のハードルが下がる(というかほぼ無い)のが、切実にうらやましかったです。
2人目のモニター滞在(2025年1月)
2人目は大阪・藤井寺市でアートセンターを運営しているアーティスト・下浦萌香さん。まったく「はじめまして」だったのですが、地域の資源を活かした創作活動や、まちに開いたスペースづくりもされているとのことで、まさにCenterとリンクしている!という驚きと嬉しさと同時に、関西方面にはあまりなじみが無いのと、下浦さんの表現形態は絵画をベースとしたコラージュによる立体作品で、自分たちの活動とは少し異なるので、作品制作に必要なものって何だ?!という心配も出てきました。また、1月に入って急に寒くなってきたので、長期滞在は大丈夫だろうか…と受入れが近くなるにつれて心配事が増える日々(私=センター長は心配性)。そのためのモニター滞在ではあったし、下浦さんは各地でのレジデンス経験も豊富なので、結果的には非常にたくさんのご意見や情報を教えていただき大感謝です。
まちの人たちとも積極的にコミュニケーションを取ってくださり、色々な地元の物事に関心を寄せてくれたので、ついついあれこれと紹介したくなり、少々押し付け過ぎてしまったのではというのを反省しています。一方で、Centerの家庭の都合で食事はあまりご一緒出来なかったり、このあたりの優先順位はアーティストによって様々だし、自分たちの生活との兼ね合いもあるので、Centerとして何をどう紹介したりアテンドしたりするかの標準を定めた上で、都度アレンジをしていく予定です。下浦さんのnoteがこちら。
これからの方向性や課題など
Centerは実験音楽・実験映像を軸としたオルタナティブ・スペースですが、表現活動の拠点として、今後も様々な表現形態のアーティストを積極的に受け入れしたいと思っています。あらゆる文化芸術に関する知識や、地元の情報収集も必要だなとひしひしと感じています。あと、それらを英語で説明できる英語力も…生涯勉強です、、(とはいえ自分たちが「アート」の辺境にいることは重々承知しているので、身の丈に合った動きしか出来ないよなとは思っています)
実のところAIRに力を入れようと思ったのは、最近Centerが地域活性化やまちづくりのスペースだと思われる節があり、そういうものとの線引きをし、自分たちのフィールドを成長させたかったのが大きいです。AIRの取り組み自体が地域活性化やまちづくりと相性が良いのは確かですが、そこを目的とするのではなく、あくまでも表現活動の拠点として自分たちが出来ること、自分たちにしか出来ないこと、自分たちが楽しいと思えることに取り組むことでCenterや鹿沼のことを知ってもらい、全世界からCenterや鹿沼に来てもらうための広報活動としてもAIRが機能すればと思っています。Centerは地域活性化もまちづくりもやってません、ということを強調しておきたい。(※結果的にリンクする部分は大いにあるとは思います)
一番の課題は、滞在する側、運営する側どちらにとっても「予算」ですが、Center AiRの運営はいまのところ助成金に頼らないやり方で考えています。助成金に頼ると継続性が課題となるのと、報告や形式にとらわれず身軽に好きなようにやりたいというのが表向きの理由ですが、そもそも社団法人や団体ではなく個人事業での文化芸術の助成金申請というのが難しい(というか多分無いし、40歳過ぎると若手芸術家としての支援も受けられない。一方で個人事業向けの(商売の)補助金などは結構ある)ので、このあたりはうまく仕組みを作っていかなくてはと感じている今日この頃です。そもそも地方の文化芸術の助成金の使われ方については大いに思う節もあり、各地の方々と情報交換したいところです。
幸いにもCenterははじめから宿泊施設としてスタートしているので、AIR自体をビジネスライクにはせず、しばらくは宿泊の運営の合間にAIRを両立していけたらと思っています。結局のところ、アーティストと制作の話をしたり、各国各地の話を聞いたり、鹿沼の紹介をしたり、あちこち案内して一緒に発見したり喜んでもらうのが楽しいし、子供たちが様々なアーティストと交流するのを楽しんでいるのが何よりだなと感じています。そして、自分たちも早く各国各地にレジデンスしたいなという夢も膨らみました。