やっぱりすべては「さよなら」からはじまるのかもしれない
その日の朝は、明らかにいつもと様子がちがった。
その顔を見て一瞬で、「あぁ、もう限界なんだな」とわかった。
つい数日前に、夫が仕事をやめた。
職場が悪かったわけではまったくない。むしろそこは環境として素晴らしく、同僚の方々にもずいぶんとお世話になり、それなりに信頼もしてもらっていたようだった。
そんな職場だったからこそ夫もかなり悩んでいたし、どうにか続ける方法も考えていたようだった。それでもやはり、「本当にやりたいことに時間を裂きたい」という想いの方が徐々に大きくなっていったのだ。
先の予定はなにも決まってない。
貯金はもう底が完全に見えている状態だ。
それでも、“もうムリ”という明らかなサインが夫の発する空気から出ていることが見えた瞬間、「もうやめなよ。」という言葉が口から出ていた。
その言葉を聞いた瞬間、夫の口からもあっさりと「うん、そうする。」という言葉が出てきた。
その会話があったその日のうちに夫は職場に退職の連絡をし、晴れてフリーの身になったのだ。
さて、家族4人。小さい子どもが2人。これからどうしよう…
そんなにひっ迫した状態だというのに、不思議と不安はなかった。
むしろやっと「やめていいよ」という言葉を言えたことに、自分でもなんだか清々したような、ちょっと神々しいような気持ちさえ感じていたのだ。
そしてその2日後にあっさりと、わたしの仕事が決まった。
*
夫が仕事をやめたいと言い出したのは、もう数カ月も前からだった。
その時はまだ子どもたちが幼稚園に行きはじめたばかりで私も仕事をしておらず、その他でやらなければいけないことも山ほどある時期だった。
“○○させてあげる”とか“あげない”とかいうものでは本来ないということは承知の上で、それでも家族という小さな共同体を共に運営していく立場として、そんなにしんどいのであれば本当だったらもっと早くやめさせてあげたかった。
しかし、今やめられてしまっては正直こまる…
というのが、その時の本音だった。
もともとさまざまな事情があって非正規雇用だったこともあり、これまでの貯金でなんとかつなぐ生活をしてきた私たち。
もう少しでも貯金があれば、やめたいと言ったらすぐに「いいんじゃない?」とあっさりと言ってあげられるし、できることならすぐにでもそう言ってあげたいという気持ちもあった。
しかし現実的には、今この状況でやめられてしまったら一家全員が路頭に迷うことになる。もう少しだけ、もう少しだけがんばってほしい…それまでに私もなんとか仕事を見つけるから…
そんな気持ちで、日々プレッシャーを感じながら、ちょうどよい仕事をさがしていた。
「そんなにひっ迫した状態なら、より好みせずになんでもいいからやればいいのに…ただのアルバイトだし、なんでもいいでしょ?」
そんなことを、頭の中でもうひとりの自分が言う。
いやいや、そうもいかないのだ。
どうせやるなら気持ちよくやれることがしたい。たとえ“ただの”アルバイトであっても、自分の心が納得する仕事がしたい。
そんなこだわりを、ずっと捨てられずにいた。
こだわりのつよい自分を恨んだし、フットワークが重い自分をせきたてた。
けれども焦る気持ちばかりがつのるだけで、肝心の仕事が見つからない。
こういう時は、心の向くままに楽しいと感じることをするのが一番なのだ。
正直なところ、手当たり次第に求人を探していたわけではまったくなく、むしろ“〇〇市、求人”というキーワードさえ一度も検索していなかった。
過去のさまざまな経験と自分の性格上、これが最短距離の近道であることをなんとなく感じていたのだ。
外から見れば、まさかそんなに生活に困った状態であることなんて、言わなければわからないくらい楽しく暮らしているように見えたと思う。
そういう自分を演出していたわけではまったくなく、ただ単純に自分が楽しいと感じる方向に目を向けていることが自分の中で唯一の正解であると信じていただけだった。
もちろん頭の片隅ではつねに「そんなことしてていいの?“本来やるべきこと”をしなきゃいけないんじゃないの?」というささやきが聞こえるのだけれど。
わたしが本来やるべきことは、楽しいと感じる方向に目を向けること。
光がさす方に目を向けること。
ただそれだけなのだ。
それはたとえこの先超大金持ちになろうと、はたまた借金地獄になろうと同じこと。状況がどのようになっても、ずっと変わらないこと。
そうして、「自分が本当にたのしいと感じることしかしない!」と決めて過ごしていたら、夫が仕事をやめた。
そしてその2日後に、もう何年も会っていなかった友人とたまたま久々に連絡を取り合っていた流れで、フイに仕事の紹介をしてくれたのだ。
その友人に仕事の相談をしたことはなく、まったく別の件でやり取りをしていたのだけれど。
急に思い出したように、誘っていただいたのだ。それも、時間と場所から考えて、夫が仕事をやめていなければできなかったであろう仕事だった。
今までも、少しではあるけど他にいくつか気になる仕事があった。しかしやはり時間や場所、そして内容的にそそられるものではなく、結局連絡することはなかった。それなのに、このタイミングで声をかけてもらった友人からの仕事は、なぜか瞬時に「これだ!」と思えたのだ。
不思議なものだ。
やはりすべては、「さよなら」からはじまるのかもしれない。
*
SUPER BUTTER DOGの楽曲、『サヨナラCOLOR』。
かなり久しぶりに聞いたけど、やっぱり名曲だなぁ。
忌野清志郎と一緒にうたっているこのバージョンが、私は大好き。
これまでにお世話になった職場に感謝して、これからはじまる縁に感謝して、どんなささいなことであっても心を込めて働きたい。
この気持ちを忘れないように、メモとしてここに残します。
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