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ぬくもりの記憶
子どもの頃、冬の夜は毎晩冷えた自分の足先を母の腿に挟んで眠っていた。
私にとって母は、恐怖の対象でしかなかった。毎日のように鬼のような形相で怒られ、優しくしてもらった記憶などほとんどない。今だからこそ、母のあの狂乱は教育熱心だったが故だったのだと少しは理解できるものの、小さかった時はそんな事理解できるはずもなく、ただただ怖かった。にも関わらず、眠る時だけは何故か、当たり前のように毎晩そうして眠っていた。
母の腿はあたたかくて柔らかく、まるで湯たんぽのようだった。
大人になった今、3才の息子が、子どもの頃の私と全く同じ事をして眠りについている。
部屋の電気が消えると、モゾモゾと動いてきて、下の娘に授乳している私の背中にピッタリとくっつき、キンキンに冷えた足先を無言でスッと差し込んでくるのだ。
あぁ、親子だなあ。
あの怒りっぽい母が、こんなにも冷たい足を差し込まれて、よく文句も言わずにあたためてくれたものだ。と、息子の小さな足をあたためながら思う。
今日もいっぱい怒っちゃったなあ。でも、いっぱい笑ったなあ。
愛された記憶というものは、言葉や態度ではなく、ぬくもりで伝わるものなのかもしれない。
そんな事を思う、冬の夜。