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風邪とジブリと家族の記憶

やっと頭が少しずつ正常に動くようになって来た。目の前の景色が少しずつ、現実味を帯びてくる。

昨日までの世界は、まるで宇宙か深海の中にでもいるような気分だった。


今もまだ頭に大きなヘルメットをつけているような感覚は消えず、透明なフィルターを通して映像を眺めているようだ。

ただの風邪かと思っていたそれは、とんでもなく強いインフルエンザだった。
娘からはじまったそれは、私へと移り、なすすべもなく次は息子、そして夫と、私たち家族を容赦なく襲った。全員が40℃近い熱を経験し、驚くほどの悪寒と、まるで巨大な手で体を握られ、骨という骨を1本残らず一気に握りつぶすような痛みに襲われた。まるで一度すべての自分の細胞が爆発し、新しく生まれ変わったようだ。

一度ピークを超えたあとも、動くことはほぼままならず、家族4人で朦朧としていた。1日中寝ていても頭はボーッとするばかりだし、かと言って何もできない・・・そうだ!久しぶりにジブリを見よう!ということになって、『トトロ』を見た。

『トトロ』を家族で一緒に見るのはこれが初めてだった。私が最後にこれを見たのは10年…いや20年くらい前かもしれない。子どもの頃『金曜ロードショー』をビデオに撮って何度も見た。間に挟まれているCMまでうっすらと覚えているくらいだ。DVD至上となってしまってからはもはやそのビデオが実家のどこにしまってあるのかもわからない。しかし私が子どもの頃はそれは居間のビデオ棚のど真ん中で、いつでも見られるよう待機していた。そして、それを見る時はいつも家族と一緒に見ていた。

そして今、それを私の夫と子どもたちと一緒に見ている。あの時の自分が想像さえしていなかった風景の中で。(インフルエンザで全員死にそうになった後のシカバネのような状態というシチュエーションも含めて。)なんだかそれだけで笑えて、そして泣きそうになった。さつきがメイを探すシーンなんて、もうダメだった。横で見ている夫に「ダメだ、泣きそう…」と言うと、夫はすでにティッシュで鼻をかみながらボロボロと泣いていた。

家族4人だけでなんとか嵐を切り抜けた後の『トトロ』は、まるでがんばった後のご褒美のようだった。普段は夕方のEテレ以外にテレビや映画を見ることはほとんどない我が家がテレビを見る時は、イコール緊急事態の時だ。もう他に手がない…という時だけに見る。初めて見た息子と娘にはどう映ったのか。息子は「かわいかった!」と言い、娘はキョトン。その記憶はきっと彼らの未来には残らない。しかしあたたかな何かとして、つらかった風邪の記憶と共にそっと刻まれているのかもしれない。そうであってほしい。
この映画はこれからも、この先何度も見るのだろう。家族一緒に。

壁に飾っている家族写真は、息子が生まれてから毎月チェキで撮っているものだ。それを眺めながら、こんな風に少しずつ家族の記憶が重なっていくんだなあなんてボーッと考えていた。

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