24/10/10 絶世の美女でおじいさんで人間国宝
前の職場の先輩に歌舞伎好きな人がいて、軽い気持ちで「歌舞伎見てみたいんですよね〜」と言ったところ、連れて行ってもらえることになった。
「セメントがあんな男尊女卑の世界に興味を持つなんて!」が最初の反応。どこ喜んどんねん。
片岡仁左衛門と坂東玉三郎が出演する、夜の部を見に行く。ふたりは「にざたま」と呼ばれる、ともに人間国宝のゴールデンコンビなんだそうだ。
演目はふたつあり、1つ目は泉鏡花の『婦系図』。2つ目に『源氏物語 六条御息所の巻』。婦系図の方は先に挙げたにざたまのおふたりが主役であり、源氏物語は光源氏役を市川染五郎が演じる。
市川染五郎は女性人気が高く、先輩は「羽生結弦みたいな人気だよ」と言っていた。
銀座三越の地下でお弁当を買う。普段は品数の多いお弁当が嫌いなのだが、こういうときは「それっぽさ」を選んでしまうもの。全然好きじゃないけど幕の内弁当を買ってみたりする。色々入って高い。でもそれっぽいのでOKである。休憩2回あるからおやつも買うといいよ〜と言われてあんみつも買った。
夜の部は16-20時過ぎ。この日は短いほうだと言うから歌舞伎はかなりの長時間である。休憩があるのも納得。セメントは映画とか途中で飽きてしまう(2時間観るのも超しんどい)タイプなので、合間に休んだりご飯を食べたりできるのはありがたいなと思った。あとなんか、席でご飯食べていいって嬉しいよね。
幕が上がると(正確には幕は上下じゃなく横の動きなんだけどさ)、舞台上には10人くらい。婦系図の縁日のシーンで、いろんな人がわちゃっといる。着物の男性と、芸者の格好をした女性。
女性がいる!!!
女方ではない。女性だ。
歌舞伎って女性いるんですね。端役だから?女性が出演しているというだけでまず驚く。あと、10人以上ワイワイ出ているのにも驚く。意外だ。泉鏡花作品といえば明治以降だし、比較的現代の演劇に近い雰囲気だったのかもしれない。よっ!◯◯屋!みたいなのもなかった。
買っておいた筋書き(あらすじや解説が書いてある)を観ると、婦系図の初演は明治時代。明治の作品を明治にやっている。トレンディドラマの感覚で見ていたのかな。
筋書きもそうだが、音声ガイドもかなりよかった。今どのようなシーンなのか、登場人物がどういう心情なのか、的確な解説を加えてくれる。元の作品を知らない状態で行っても何の問題もない。
音声ガイドによれば、にざたまの婦系図は約40年ぶり。貴重なんだな〜と思いながら観た。わからない単語も説明があるので物語にスッと入れる。幕間には「音声ガイドオーディション、募集!!」と広告が流れていた。これ、オーディションで募集してやってるんだね。
婦系図はかなり現代劇だったが、打って変わって源氏物語はイメージしていた「歌舞伎ってこういう感じでしょ」にかなり近い。
舞台ごとグルっと回って場面転換したり、歌舞伎独特のあの(想像してくれ。そう、それです)喋り方だったりする。着物がキレイ。
源氏物語の方は六条御息所を演じる坂東玉三郎が自ら演出を手掛けているということで、演出も注目ポイントであった。舞台の明暗を使い分け、ところどころ人物にピンスポットが当たる。先輩に聞いたところ、歌舞伎では珍しいよう。坂東玉三郎は婦系図でも六条御息所でも主役をやっている。違う演目で同じ人が続けて出るってことも私は知らなかった。体力よ。
音声ガイドが、実年齢が近い市川染五郎が光源氏を演じる点も見どころのひとつだと教えてくれる。坂東玉三郎は70代なので、「年下である光源氏との恋愛に悩む六条御息所は……」との解説を聴きながら、結構な年齢差だなと思った。
あとから先輩が言っていたのだが、歌舞伎はいい役(主役)ほど高名な人(なんていうのが正しいんだ?偉い人?出世している人?)が演る。そうなると当たり前だが、本人と役のギャップが大きいことも多々あるようだ。
極端に言えば、絶世の美女という設定だが顔はどう見てもおじいちゃんじゃん……という状態。
他の文化・エンタメとはちょっと観るポイントが違うから、観る側にもスキルが求められるのかもね〜と先輩は言っていた。たしかに見た目の話もそうだが、喋り方や発声も独特であり、物語としてもほんの一部(たとえば源氏物語でいえば車で揉めるシーンや六条御息所の生死などは全部カットしてある)しかやらないので、テレビドラマを観るときような「演技の巧さ」「感情移入」みたいなこととは違うのだろうな。
見方がわかってくると違った面白さがあるのだろう。だから好きな人は何回も行くんだな。宝塚と対なイメージがあったが、宝塚ともまた違うんだよな〜。
次は『勧進帳』とかTHE!!!って感じのやつとかも観たいな〜と思いながら帰った。12月は『あらしのよるに』を演るらしい。一気に現代になる。
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