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24/09/20 pay for 月餅
突然月餅が食べたくなって、スーパーへ行く。
月餅。月餅である。
月餅はいい。まず、水分が少ない。パサパサの食べ物が好きな私にとって最高である。
次に、餡がミチミチに詰まっている。あのミチミチを経験したらパンケーキなどは味付きの空気なのかなって思うはずだ。あの質量。あの密度。パーフェクトバディである。井村屋のあずきバーの次に噛み応えのある餡子だろ。
中身が控えめに異なるのもいい。アンパンとクリームパンくらい変わったら意味がないのだ。ちょっとナッツが入っているとか、じつは黒ごま餡なんですとか。そういうのがいい。
表面にわからない模様が入っているのもいい。オシャレとは意味のない行動をすることだ。でかいピアスをするのと同じくらい、月餅の模様も意味がない。でも多分アレがないと月餅ではない。ハズレの栗まんじゅうみたいになってしまう。
片手に持つとツヤツヤで、ボウリングの玉かと思うくらいずっしり重い。そういった気持ちを月餅に期待しているんですよ私は。
ところが、近所のスーパーを2軒回ってもない。月餅がない。たいていはパンコーナーの横にひっそりあるのに。みたらし団子や黒糖蒸しパンと一緒にいる。いない。いない。いない。
勢いで駅まで行ってしまう。こうなったらどうしても月餅が食べたいというものである。向かうは新宿伊勢丹地下1F。すぐ来た電車に飛び乗って。
新宿まで行ったのなら、もっと別のものを買ってもいいのではないか。栗のお菓子とか、芋のお菓子とか。季節を感じるスイーツがもっといっぱいあるのだから。
しかしその反論も電車の中で考えた。中国では月餅は中秋の名月あたりに食べるお菓子だ。月餅こそ、まさに今食べるお菓子ではないのか。ずっしりと秋を感じようじゃないか。
東京で15年培った人よけスキルで新宿駅をウネウネ歩き、最短ルートで伊勢丹に着く。
紀伊国屋を過ぎたあたりで気がついたが、私はしっかり部屋着である。部屋着なだけではない。大して化粧もしてないし、度の合っていないメガネだ。そうだね。近所のスーパーに行くだけの予定だったね。900円で買ったトップスは水玉柄である。
海藻をテーマにした催事を通り過ぎ、月餅へ急ぐ。新宿伊勢丹には、中村屋がやっている一口サイズの月餅のお店がある。
部屋着なのが恥ずかしくて、やりとりを短く済ませようと一番スタンダードな詰め合わせをお願いした。プレゼントだと思われる。メッセージ付きの包装紙を進められる。寿。こころばかり。お世話になりました。
何の意味もないが(だって食べるの自分だし)、「おめでとうございます」の包装を選んだ。何の意味もない祝福である。おめでとう。おめでとう。今日は部屋着で伊勢丹に来た記念だね。
自らへの祝福を手に、そそくさと新宿地下街を戻る。私の、私のためだけの月餅である。