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〈文献〉臨床試験中の多能性幹細胞由来治療法:2025年の最新情報 メモ
Xで見かけた興味深い論文
Xでたまーに、Professor Ludovic Vallierが自分の発表を呟くんだけど、今回は、下記を呟いていた。
ProfessorMartin Peraも呟いていた。さらに、高橋淳先生も呟いてた。
Pluripotent stem-cell-derived therapies in clinical trial: A 2025 update
Kirkeby, Agnete et al.
Cell Stem Cell, Review Volume 32, Issue 1p10-37January 02, 2025
Open access DOI: 10.1016/j.stem.2024.12.005
Ludovicは、私が2005年にイギリスにサバティカルで行った時に、大学院を卒業して、ケンブリッジのポスドクだった。アクチビンAがヒトES細胞で内胚葉を誘導することを全英ヒトES細胞ミーティングで発表していた。もちろん、それはその後、論文発表された。長く、Cambridge Stem Cell InstituteのPIをやっていたけど、今は、ドイツのBerlin Institute of Health in der Charitéに居る。
Martin Pera教授は、私が行っていたイギリスのラボの教授、Peter W Andrewsの教授とともに、国際幹細胞イニシャティブのオーガナイザーとして世界を束ねる幹細胞研究者。
この二人が呟いている。実際、よくまとまっていて、しばらくの間は、この論文が様々なところで引用されるかな。
よく見ると、著者は、Dr. Melissa Carpenterで、所属は、Carpenter Consulting Corporation, Washington, USAとなっている。
Dr. Melissa Carpenterも、再生医療と幹細胞研究分野では、超有名人
自身のコンサル会社が調べてるから、確かに、とてもよくまとまっている。プライベートな情報も入れてある書いてあって、そりゃあ、その辺のコンサルではできないですよね。
概要
2024年12月時点でのヒト多能性幹細胞(hPSC)由来治療法に関する臨床試験の進展を分析。
眼疾患、中枢神経系(CNS)疾患、心血管疾患、糖尿病、免疫疾患など、さまざまな医療分野におけるこれらの治療法の進捗、課題、成果についてまとめてある。
合計116件の臨床試験が承認
83種類のhPSC由来製品が19か国で試験
200人以上の患者に1900億個以上の細胞が投与された
各治療法の詳細
1. 眼疾患
加齢黄斑変性症(AMD)
乾性AMD:
MA09-hRPE: hESC由来のRPE細胞を用いた治療。視力のわずかな改善が一部患者で確認されたが、進行した疾患では有効性が低い。
開発者:Advanced Cell Technology(現在は、Astellas) ([11][25])。OpRegen: hESC由来RPE細胞の懸濁液を硝子体手術で投与。軽度の視力改善(+2~+24文字)が観察された。
開発者:Lineage Cell Therapeutics ([11][12])。Regenerative Patch Technologies: 合成膜上のRPE細胞シートを使用。移植後、4人の患者で視力が5文字以上改善。
開発者:David Hinton, Amir Kashaniら ([11][23])。NIH: 自家iPSC由来RPEをPLGAスキャフォールド上に作成し、乾性AMD治療の試験を実施中。
開発者:Kapil Bharti(NIH National Eye Institute) ([11][23])。
湿性AMD:
RIKEN(理研): 自家iPSC由来のRPE細胞シートを移植。移植後4年間の生存が確認され、視力は安定。開発者:高橋政代(Masayo Takahashi) ([11][23])。
Moorfields Eye Hospital: ポリエステル膜上のRPE細胞モノレイヤーを使用。1年後に視力が20文字以上改善した患者も。
開発者:Pete Coffey ([11][24])。Kobe City Eye Hospital: HLA適合した同種iPSC-RPE細胞懸濁液を免疫抑制なしで投与。視力の安定または改善が確認された。
開発者:高橋政代(Masayo Takahashi) ([11][25])。
スターガルト病(SMD)
Southwest Hospital(中国): 非凍結保存のRPE細胞を使用。初期には視力が安定または改善したが、長期的な視力低下が一部患者で観察された。開発者:Zhi-Qin Yin ([11][23])。
網膜色素変性症(RP)
iSTEM(フランス): ゼラチン上のhESC由来RPE細胞シートを移植。初期結果として、眼球運動の安定化が観察された。
開発者:Christelle Monville ([11][25])。Kobe City Eye Hospital: iPSC由来網膜オルガノイドシートを使用。移植後2年間の細胞生存が確認されたが、視力の改善は見られず。
開発者:高橋政代(Masayo Takahashi) ([11][25])。
角膜疾患
Osaka University: iPSC由来角膜上皮細胞シートを移植。4人中3人の患者で症状改善が見られた。
開発者:西田幸二(Koji Nishida) ([11][26])。Cellusion: iPSC由来角膜内皮細胞(CLS001)を使用した治療が進行中。
([11][26])。
2. 中枢神経系(CNS)疾患
パーキンソン病(PD)
CiRA(京都大学): HLA適合の同種iPSC由来ドーパミン前駆細胞を移植。患者の一部で中等度の症状改善が確認された。
開発者:高橋淳(Jun Takahashi) ([11][27])。BlueRock Therapeutics: hESC由来Bemdaneprocel製品を使用。高用量群で50%の症状減少が観察された。
開発者:Lorenz Studer(Memorial Sloan Kettering) ([11][27])。S.Biomedics(韓国): hESC由来TED-A9製品を使用。高用量群で12か月後に25~44%の症状改善が確認された。
([11][27])。McLean Hospital(米国): 自家iPSC由来ドーパミン前駆細胞を移植。PETスキャンで移植細胞の生存が確認された。
開発者:Kwang-Soo Kim ([11][27])。Aspen Neuroscience: 自家iPSC由来細胞を用いた試験が進行中。
([11][27])。
脊髄損傷(SCI)
GRN-OPC1(Geron社): hESC由来オリゴデンドロサイト前駆細胞を使用。10年間の追跡調査で安全性が確認されたが、効果は限定的。
開発者:Jane Lebkowski ([11][29])。AST-OPC1(Asterias Biotherapeutics): 投与量を増やした試験で、96%の患者が神経機能の一部回復を報告。
開発者:Jane Lebkowski ([11][29])。Keio University(慶應大学): iPSC由来神経幹細胞(NSC)を使用。4人の患者に投与され、安全性が確認された。
開発者:岡野栄之(Hideyuki Okano) ([11][30])。
てんかん
Neurona Therapeutics: hESC由来GABA作動性介在ニューロン(NRTX-1001)を使用。5人中4人で発作が50%以上減少、1人は8か月間発作が完全消失。
開発者:Arturo Alvarez-Buylla ([11][30])。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)
KadimaStem(イスラエル): hESC由来アストロサイト(AstroRx)を脊髄内に投与。初期の進行率低下が見られたが、12か月後には効果が限定的。 ([11][30])。
3. 心血管疾患
Osaka University: iPSC由来心筋細胞パッチを移植。1年後に心機能の改善が確認された。
開発者:澤芳樹(Yoshiki Sawa) ([11][32])。Repairon(ドイツ): 心筋細胞と線維芽細胞を含むパッチを使用。心室壁の厚みと心拍出量の改善が報告された。
開発者:Wolfram Zimmermann ([11][32])。HeartSeed(日本): 心筋球体(スフェロイド)を移植。2人の患者で左心室駆出率(LVEF)の改善が確認された。
開発者:福田恵一(Keiichi Fukuda) ([11][32])。
4. 糖尿病
ViaCyte:
VC-01: hESC由来膵内胚葉細胞をカプセル化して移植。低酸素状態が課題となり、改良版デバイスに移行。 ([11][33])。
VC-02: 血管新生を促進するデバイスを使用。Cペプチドの分泌が一部患者で確認された。 ([11][33])。
Vertex Pharmaceuticals:
VX-880: 非カプセル化膵島細胞を移植。12人中11人がインスリン依存を解消。
開発者:Douglas Melton ([11][33])。VX-264: カプセル化膵島細胞を使用した試験が進行中。 ([11][33])。
Tianjin First Center Hospital(中国): 自家iPSC由来膵島様細胞を移植。1人の患者で75日目以降、持続的なインスリン独立が確認された。
開発者:Hongkui Deng ([11][33])。
5. 免疫および血液疾患
Fate Therapeutics:
NK細胞製品(FT500, FT516など): 血液がん患者で30~50%の完全寛解率が報告。
開発者:Bob Valamehr ([11][36])。CAR-T細胞(FT819): B細胞リンパ腫で一部患者が完全寛解。([11][36])。
Century Therapeutics: CAR19-NK細胞製品で、低用量群で安全性が確認され、30~60%の完全寛解率。 ([11][36])。
CiRA(京都大学): 自家iPSC由来血小板(iPLAT1)を使用。安全性は確認されたが、有効性は限定的。
開発者:江藤浩之(Koji Eto) ([11][37])。
6. 間葉系細胞(MSC)
Cynata Therapeutics:
CYP-001: GvHD患者で100日後の完全寛解率が53.3%。 ([11][39])。
CYP-004: 変形性関節症の第III相試験が進行中。 ([11][39])。
ImStem Biotechnology: hESC由来MSCを用い、多発性硬化症の治療を試験中。 ([11][39])。
感想
再生医療であるならば、やはり治癒を期待してしまうけど、有効性は、まだまだ難しい、というのが印象。
その中でも、ダグ・メルトン博士のVX-880は、高い有効性が示されていると、去年から話題になっていた。今後のニュースを期待したい。
間葉系幹細胞は、これまで有効性がずっと示せてなかったけれど、少しずつ有効性を示せるかも、という可能性も見えてような感じでしょうか。
今後は、個別に研究をフォローしていきたい、と思いました。