ゴッシーが行くvol.31《P.フルニエのレッスン》
私が高校生の頃
ジュネーブで
チェリストのP.フルニエ
に師事していた先輩が 帰国していて フルニエが東京でレッスン するので
見にこないか と 誘ってくれたので
ネクタイを着用して
同級生と2人で先生の滞在する新橋の第一ホテルに行った
先生はノーネクタイで失礼と言いながら
上品な笑顔で部屋に招き入れて下さった
ホテルのシングルルームは
とても小さな部屋で
レッスンを受ける大学生と先生は
もちろん座っていたが
フルニエの弟子の先輩と私たちは
立っていたと思う
大学生がボッケリーニの
コンチェルトを弾き始めると
先生は楽器と弓を取り出して
自分のチェロで少しずつ伴奏をするのだが
頻りに私たちに 笑いかける
よく見ると ナント 弓の毛が
張っていない!
私たちが オイ 弓の毛が緩んだまんまだよ!
あれでも音が出るんだな と
ヒソヒソ やっていると
先生はご機嫌な笑顔で
やっと気が付いたかとばかりに
もっと緩めて また私たちを見て
ニヤニヤしている
弓の毛がビロンビロン だと
さすがに弾き にくい らしく
ちょっとだけ張ったりして
また私たちを見ている
大学生が弾き終わると
ブラボー 素晴らしかった
ありがとう
少し硬くなっていたみたいだけど
もう少し リラックス出来ると もっと良いねと アドヴァイスしていた
勿論 こんなレッスンだから
お金はいらないよ と言って
レッスンは終わった
今、思うに
あれは 素晴らしいレッスンだった
要するに、弓をパンパンに張って
ギュウギュウ押し付けて弾いても
良い音楽は出来ないよ
と教えてくれたのだ
レッスンのあとのお話で
私はダイレクトな物より
例えばサラダにニンニクが入っているよりサラダボウルにニンニクを擦り付けて臭いだけ感じる方が好きなのですと言っていたのを覚えている
それから10年後
オーケストラに入団すると
現場の上等なバイオリン弾きたちは
殆ど弓の毛を張っていない
私も
恐る恐るあまり毛を張らないで弾き始めた、すると
コンサートマスターの
徳永さんが寄ってきて
この前 コンチェルトを弾いて
1楽章弾き終わって気が付いたら
弓の毛を全然張ってなかったよ
ハッハッハッと言ってくれた
要するに フルニエと同じ
弓の毛はあまり張らない方が
良い音するよというメッセージ
更に10年後
その年は A.シェーンベルク
と A.ベルクの曲を弾く機会が多かった
シェーンベルクの超難しいけど名曲の
弦楽トリオや
ベルクのQテット叙情組曲には 頻繁に 弓の木の部分で弾いてくれという
指示があり
やってみると
音が出るというだけではなく
エキセントリックな表現が出来る
なるほど 弓の毛は張っていなくても
強く弾けるんだと思った
更に10年
世界最高のヴァイオリニストの1人
ギル シャハムがソリストで
N響の演奏旅行があった
彼は弓が反対に反るほど
パンパンに毛を張っているので
私も付き合って一週間
真似してみた
なるほど!
楽器の反応を引き出すように弾ければ
このスタイルも面白い
音が壊れてしまうので
決して乱暴には弾けない
結論
弓の毛は張っても
張らなくても良し
良い弾きかたをすべし
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