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【今日のバッハのカンタータは?】 2024/12/25(水) クリスマス第1祝日

"WHICH BACH CANTATA TODAY?" (「今日のバッハのカンタータは?」)の 2024年12月25日 の記事の和訳です。以下,一部訳注やリンク, 動画の追加をしている以外はほぼ直訳です。原著者Michealの許可を得て翻訳や画像引用をしています。
初出: 2023/12/25(月)
修正: 2024/12/25(水)

クリスマス第1祝日

2024年12月25日 - 皆さん,メリークリスマス!バッハの音楽で、クリスマスをもっと楽しみましょう!バッハはクリスマスツリーの下にとても大きなプレゼントを用意してくれている。初期の作品から成熟期の作品までの8曲以上の素晴らしい作品群だ。その中でも名作と言われる2曲がクリスマス・オラトリオの第1カンタータとマニフィカトのクリスマス版(BWV 243a)だ。

1723年のクリスマスは、バッハにとってトーマスカントル(訳注:トーマス教会の音楽指導者)としての最初のクリスマスであり、バッハは自身を印象付ける機会にしたいと思っていた。ニコライ教会での朝の礼拝(午前7時)とトーマス教会での晩祷(午後1時30分)では、美しくて華やかな初期のカンタータ「キリストの徒よ,この日を銘記せよ」《Christen, ätzet diesen Tag》BWV 63を演奏した。この作品は、おそらくヴァイマル時代の1713年にハレで初演されたものだ。

同じ1723年のクリスマスの日、ニコライ教会での晩祷で、マニフィカト(Magnificat, 訳註)のクリスマス版BWV 243aが演奏された(翌日もトマス教会で演奏された)。 これは元々7月2日の「聖母の訪問」の日(記事)の作品だったが、クリスマスにちなんだ4つのパートが追加されている。

訳註) マニフィカトは"Magnificat anima mea Dominum" (わたしの魂は主をあがめ) で始まる聖歌。ルカの福音書(1:46-55)にある聖母マリアの祈りが歌詞として用いられているので"聖母マリアの歌(聖歌)"とも呼ばれる。

マルティン・ルターはミサでラテン語を使うことに反対していたが、教区民
がよく知っており,親しみを感じているミサの一部については反対しなかった。そういった曲では、カトリックの作曲家による音楽も許容された。バッハはやはり1723年のクリスマスに、ラテン語の歌詞を持つ曲として上記のマニフィカトだけでなく、素晴らしいサンクトゥス(Sanctus) BWV 238も作曲している。

1724年のクリスマスには「イエスよ,あなたを讃えます」《Gelobet seist du, Jesu Christ》BWV 91を作曲した。この年のクリスマス週間のためにバッハは7曲以上のカンタータを作曲したが,その最初の作品だ。この年の待降節(Advent)には、バッハは実に多くの仕事をした。閉ざされた時(Tempus Clausum, 訳註1)のためミサで演奏をする必要がなく、7つの新しいカンタータに取り組むことができたのだ。ライプツィヒでの2年目のカンタータ・サイクル(訳注2)で取り組んだ他のカンタータと同様に、マルティン・ルターが書いたプロテスタントの賛美歌を題材にしている。

  • 訳註1 :「閉ざされた期間」(Tempus Clausum)は,古代ローマ・カトリック法で禁欲的に過ごされていた待降節第2日曜日から第4日曜日までの期間を指す。バッハの時代,ライプツィヒではカンタータなどの派手な教会音楽の演奏は控えられていた。

  • 訳註2:  2年目のカンタータ・サイクルは,バッハが1724年の三位一体の主日(Trinity, 6月上旬にある聖霊降臨の日Pentecostesの後の初めの日曜日)から年間を通して一連の教会カンタータを作った期間を指す。この期間ではコラール(讃美歌)を原曲とするカンタータを作ったことから,コラール・カンタータ・サイクルとも呼ばれる。

1725年のクリスマスには、「我らが口を笑いにて満たすべし」《Unser Mund sei voll Lachens》BWV 110を作曲した。冒頭の合唱は、彼がケーテンで作曲した管弦楽組曲BWV1069の序曲が原曲になっているので、聞き覚えがあるかもしれない。

「いと高きにある神に栄光あれ」《Ehre sei Gott in der Höhe》BWV 197aは、1728年か1729年のクリスマスのために作曲されたが,楽譜の一部は失われてしまい、最後の4楽章だけが残っている。

Bach-Archiv Leipzig による最近のFacebook投稿に,「ライプツィヒバッハ祭だ。喜び,踊れ! ライプツィヒ市民よ,ローマよ,世界よ!」("Bachfest Leipzig called Jauchzet frohlocket, the Leipziger Urbi et Orbi", 訳註1)とあった。独創的な表現だが、私は(きっとあなたも!)決して大げさな表現ではないと思う。「喜び,踊れ」《Jauchzet, frohlocket》BWV 248 I は、バッハの真のモニュメントのひとつであるクリスマス・オラトリオ (Weihnachtsoratorium) の冒頭を飾るカンタータだ。1734年のクリスマスから1735年の公現祭(訳註2)にかけて演奏された。バッハは、全6部から成るこのカンタータを一度に演奏することは意図していなかったので、バッハが実際に演奏することを意図したクリスマス週間中の祝祭日に渡って紹介していく予定だ。

  • 訳註1: 「都市(ローマ)よ,世界よ!」(Urbe et Orbi)はローマ帝国時代の勅令の冒頭に使われていた言い回し。現在は,ローマ教皇による祝福的な演説で使われる。

  • 訳註2: 公現祭は元々はイエスの洗礼を記念する日だったが,その後,幼子イエスへの東方三博士の訪問と礼拝の記念日(主の顕現の日)となった。カトリック教会では1月6日。ただし,現在の日本や米国では1月2日から8日までの間の主日。

ところで,クリスマス・オラトリオの二回目の演奏が行われたのは1857年。123年後のことだった。エドゥアルド・グレル(Eduard Grell, 1800-1886)とベルリン・ジングアカデミー (Sing-Akademie zu Berlin)のおかげで、この素晴らしい音楽が忘れられずにすんだ。今日のバッハの名声は、バッハの時代から続いているものではない。一旦忘れられてしまったこの作曲家を再発見したグレルやフェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディ(Felix Mendelssohn Bartoldy)のような人物を評価すべきだろう。

今日のための素晴らしい作品群の最後を飾るのは、1745年のクリスマスに、第二次シレジア戦争を終結させたドレスデン条約の締結を祝して作られた「 天のいと高きところには神に栄光あれ」《Gloria in excelsis Deo》BWV 191だ。バッハの唯一のラテン語テキストによるカンタータである。ただ、この曲はカンタータとは言えないかもしれない。たった3楽章しかないし,古典的なカンタータによくある内省的なパッセージが無く,非常に解放的な曲だからだ。

Cantatas

  • Christen, ätzet diesen Tag, BWV 63
    (first performance 1713? 1716?, Weimar period)

  • Magnificat, BWV 243a
    (first performance 25 December 1723, Leipzig period)

  • Sanctus, BWV 238
    (first performance 25 December 1723, Leipzig period)

  • Gelobet seist du, Jesu Christ, BWV 91
    (first performance 25 December 1724, Leipzig period)

  • Unser Mund sei voll Lachens, BWV 110
    (first performance 25 December 1725, Leipzig period)

  • Ehre sei Gott in der Höhe, BWV 197a
    (first performance 25 December ?1728, partly lost, Leipzig period)

  • Jauchzet, frohlocket, BWV 248
    (first performance 25 December 1734 - Christmas Oratorio Part I, Leipzig period)

  • Gloria in excelsis Deo, BWV 191
    (first performance 25 December 1745, Leipzig period)

Extra information

オランダ・バッハ協会のウェブサイトには、BWV63、BWV243、BWV110、BWV191の演奏と詳細情報が掲載されている:
https://bachvereniging.nl/en/bwv/bwv-63/
https://bachvereniging.nl/en/bwv/bwv-243/
https://bachvereniging.nl/en/bwv/bwv-110/
https://bachvereniging.nl/en/bwv/bwv-248-1/
https://bachvereniging.nl/en/bwv/bwv-191/

Playlist

WBCF1225-Christmas Day

Image of the day

「キリスト降誕」。15世紀初頭のフィレンツェを代表する画家であり、彩飾写本、フレスコ画、パネル画の画家として活躍したロレンツォ・モナコ(Lorenzo Monaco, Piero di Giovanni生まれ、1370年頃~1425年頃)によるテンペラ木版画。

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jun
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