ベートーヴェンさん,ツェルニーさん,ショパンさん,みんなスピード違反です!?
ツェルニーやベートーヴェンやショパンは,メトロノームの数字を使ったテンポ指示を多くの曲に残している。 ただ,ちょっと弾けないよねという爆速テンポだったりする。
以下の動画では,ショパンの「革命」について,その謎を解明するべく解説している。
例えば「革命」のテンポ指定は四分音符が160(1分に160個)となっているけど, ポリーニとかリシッツァとか素晴らしいピアニストでも120程度のテンポ。
動画の作者Wim Winters は,このテンポ設定を2で割るといいよねと,いろいろな根拠を元に説明。
ショパンの弟子のカール・ミクリは,「テンポを守れって,ショパンは頑なに言ってたねん。自分のピアノの脇にもいっつもメトロノーム置いてたしな。旋律をルバートで弾くときも,伴奏はきっちりテンポキープしてたで」と言っている。でも,「革命」をテンポ通りに弾こうとすると,どうしても過剰なルバートが必要になるところがあるし,細かく指示のあるアクセントもきちんと表現できない云々。
さらに,Wim Winterは,ベートーヴェン,ツェルニー,ショパンの色々な曲を取り上げた動画を作っていて,同様に考えると良い理由をいろいろと説明している。
Googleで検索してみると,この時代には,メトロノームが左右する1往復で1拍(2回音がなる)と 解釈する人が多かったらしく,メトロノームの発売元が注意喚起をしたらしい。ショパンや,ベートーヴェン,ツェルニーらがこのように間違えてメトロノーム1往復を1拍としていたという説をdouble beat theory (2ビート説)という。
以下のサイトでは,このdouble beat theoryがもっともらしいと考えられる理由をさらに列挙している。例えば,ベートーヴェンの時代のメトロノームは振り子式だったので,ゆっくりしたテンポを刻むには長い振り子が必要になり,1往復で1拍と数えるような方式のものが多かった可能性がある。
また,実際に1800年代のメトロノームには,アダージョが100から120と表示されているようなものもある(見出し写真,出典は以下)。
とすると,ショパンのエチュードのほとんどの演奏はスピード違反で免許取り上げだ。実際,ショパンは弟子に,無駄な力を抜いて腕の重みで鍵盤を弾くようにと指導していたそうで,よくある爆速系の演奏には違和感を感じる。
以下はパハマンによるショパンの練習曲 op. 10-1の演奏。
ショパンは弟子にバッハの曲を練習させており,自身もよく弾いていた。この練習曲は,そのバッハの平均律クラヴィーア曲集の一番初めのプレリュードを意識したものと言われている。だとするとこの曲は,練習曲全体のプレリュードとして,このパハマンのように落ち着いたテンポで軽やかに弾くのが良い気がする。もっともこの曲のテンポ指示は四分音符が176で,double beat theoryに従えば88。パハマンのこの演奏は120-130くらいなので,これでも速いかもしれない。
ただし,double beat theory は正しいと皆が認めているわけではない。ツェルニーやベートーヴェンのテンポ指示はやはり記載通りが正しいのかもと説明している人もいる。
同じ作曲家でも,double beatでカウントした時期と,single beatでカウントした時期があったかもしれないし,そもそも使っていたメトロノームの精度自体にも疑いの余地はある。結局のところ,自分なりの根拠に基づいて演奏テンポは決めるわけだが,指示されているテンポ自体には大きな解釈の余地があることは念頭におく必要がある。
ついでだが,パハマンの紹介は以前の記事をどうぞ。
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