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【ナルシソ・イエペス:伝説の音楽教師ナディア・ブーランジェ特集その5】
スペイン出身の名ギタリストのナルシソ・ガルシア・イエペス(Narciso García Yepes, 1927-1997)は,演奏解釈をヴァイオリニストのジョルジェ・エネスク(George Enescu, 1881-1955)とピアニストのヴァルター・ギーゼキング(Walter Gieseking, 1895-1956)に学びながら,ナディア・ブーランジェ(Nadia Boulanger, 1887-1979)にも個人レッスンを受けている。
イエペスはナディアについて以下のようにインタビューで話しており,ナディアのことをいかに深く敬愛していたかを窺える。
「ナディア・ブーランジェは私の人生を大きく変えた。私の子供の人生も変えてくれたと思っているよ。」
「彼女に出会ったのは1950年のことだ。彼女の指導法は他の誰とも違っていた。僕が今まで思いつきもしなかった点に疑問を持って,その答を見つけ出したりするんだ。いつだったかバッハの前奏曲を一緒に分析した時は,3時間かかって,最初の8拍分も進まなかった。彼女はその最初の8拍から曲の構想全体を説明してくれたんだ。」
「私の子供たちが、彼女の最後の生徒だった。晩年,彼女はほとんどレッスンはしていなかった。目はほとんど見えず、車椅子に座りっきりだった。とても疲れている様子で身動きもほとんどしなかった。それでも彼女はとても聡明だった。3年前まで私たちはパリに住んでいた。私達も,そして子供たちも彼女と一緒にいられるように、そして特別な思い出を作れるようにと思ってね。」
イエペスは,1963年に楽器職人ホセ・ラミレス3世とともに10弦ギターを開発した。通常のギターにC, Bb, Ab, Gbの4本の共鳴弦を加えることで,バロック時代のリュート用の楽曲を弾けるように音域を広げるとともに(情報源1),倍音を豊かにすることを狙ったものだ。イエペスは,ナディアにこのギターについて意見を求める(情報源2)。
情報源1) "Narciso Yepes, Spanish Guitarist and an Innovative Musician" by Allan Kozinn, May 4, 1997, New York Times
情報源2) "Ten-string classical guitar of Yepes", Wikipedia, ver. 16 July 2024, at 14:12 (UTC)
「彼女は、私の新しいギターでの演奏は倍音が豊かなことに気づいた。そして,これは大事な点なんだけど,その倍音を必要に応じて手で止めることができることにも気づいてくれた。そして私の10弦ギターを気に入ってくれたんだ」
いろいろな文献を見ていると,ナディア・ブーランジェは倍音に耳を傾け,和声を美しく響かせることにとても注意を払って教育をしていたようだ。そのナディアの意見は,イエペスにとって格段に嬉しいものだったと思う。
以下は1985年に来日した時のインタビュー。11'42''から,10弦ギターを作った動機として,1オクターブ内の12の音それぞれに対して共鳴弦がある構造にしたかったと説明している。19'13''からはコンサートで成功するためにイエペスがしていた練習の説明や,さらに,楽器の練習の意味についての説明もあって面白い。
以下はイエペスによるバッハの演奏(リュート組曲 BWV 996)。細かいフレーズの歌い分け,和声の響きの変化を効果的に作る多彩なアルペジオと音色が素晴らしい。ちなみにこの曲の写譜(Johann Gottfried Waltherによるもの)には,バッハが好きな楽器だった「リュート・ハープシコードのために(aus der Lautenwerck)」と書かれている。
バッハの作品はイエペスの重要なレパートリーだが,これもバッハに造詣が深かったナディアの影響かもしれない。
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