21世紀を背負うビジネスマンYAGOO 力を見せて散ったその打ち様
セガ社がアーケード及びスマホで展開する麻雀ゲーム「セガNET麻雀MJ」のプロモーションとして、「雀荘ホロクラブ杯」が12月18日に開催された。
普段は個人や小規模事務所のVTuberをウォッチしている私がこの企画に惹かれた理由、それはカバー(株)代表取締役、谷郷元昭氏(以下YAGOO)の出演である。
麻雀の能力とビジネスセンスの関係については経済界では知られており、例えば藤田晋((株)サイバーエージェント代表取締役)は麻雀とビジネスについて本を出しているのみならず、プロ雀士も多数出場する麻雀のタイトル戦「最強位」を獲得、ついにはプロ麻雀リーグ「Mリーグ」の設立にも携わっている。
さらに巷では麻雀採用なる採用選考を行う会社も現れるなど、麻雀の能力がある程度ビジネスの場で求められる能力と通底するという認識が広まりつつある。
翻ってYAGOOを見れば、バーチャルYouTuberなる語が生まれる前からAR・VRに未来を見いだし起業する先見性を持ち、また、VTuberの認知度が上がるのを見るやITベンダーから芸能事務所への大胆な業態転換を成功させた豪腕の持ち主でもある。
──そんな人物の打つ麻雀が、面白くない訳ないじゃないか。
期待に胸膨らませ、私は配信へ向かったのである。
(配信本編)
予選
このイベントは8人の選手が予選A・B卓に分かれて東風戦1回を打つ。その後、各卓1位・2位が上位卓、3位・4位が下位卓に進出し東風戦1回でそれぞれ決勝・順位決定戦を行う。
YAGOOは抽選の結果予選A卓となった。
東家 鷹嶺ルイ
南家 YAGOO
西家 兎田ぺこら
北家 宝鐘マリン
東1局
開局の配牌、YAGOOの手はまずまず。ドラの白の処理が課題といったところ。
するすると手が伸びた4巡目でドラをリリース。見切るべきタイミングを見失わない、流石の一打。これによって、
早い立直がかかっても押し返せる体勢ができるのである。
だが、同順に絶好のペン3pを引き入れて親の鷹嶺が追いかける!いきなり2軒立直に挟まれたYAGOO。
やむなく切った9sが兎田に捕まってしまう。5pを引きタンピン手で対抗できる可能性もあったこと、共通安牌がなく降りにくかったこと、8sが初手で打たれている親の鷹嶺には通りそうだったことなど総合的に見て致し方のない結果。裏が1枚乗って3900の放銃という厳しい立ち上がりとなった。
東2局
0本場が九種九牌で流れた後の1本場、ここでは宝鐘の手順が秀逸。
第1ツモで役牌対子2つにドラドラというチャンス手を貰った宝鐘。
白をポンした後、
この9pはスルー!!
9pをチーした場合、落とすのは1m2mとなり、その場合この手はほぼ2000点となる。
ドラを使い切って高打点になるルートを閉じない、貪欲な一手だ。
直後に狙い通りドラを重ねる!打1m。
次に4sを引き、ターツ選択となる。宝鐘の選択は
打中。これも素晴らしい一打。
9pが2枚切れでチーしにくくなっているため78pを払う選択もあるが、シャンポンの中はあと1枚しかなくもう片方はドラ。
他家から打たれにくいシャンポンと心中するよりは、自ら引く可能性もある両面2つを素直に残したほうがよいだろう。
その間にYAGOOがタンヤオのみのカン6p聴牌をダマテンに構える。
ちなみに開局からYAGOOはほとんど表情を変えておらず、解説陣も「ダマテンですが顔どうですか?」「全く顔変わってない!」「静止画かな……?」とざわついていた。ポーカーフェイスもまたビジネスマンの必須スキルということか。
直前に8pを払っていた鷹嶺が放銃かと思われたが、
5pを引き入れて6pが出ない形に。ところが、
宝鐘が6pを引き47m聴牌!そして、
1pを引き36pに待ち変化したYAGOOが立直をかける!
鷹嶺が抜いた親の現物7mは宝鐘の当たり牌。
一発に1pを押した宝鐘への警戒も無論怠ってはいなかっただろうが、如何せん両者とも河が強く、安い手も十分ありうる宝鐘より怖い親へのケアを優先した結果の不幸。想定外に高い放銃となり鷹嶺は上位通過がかなり厳しくなった。
東3局
東3局は2人聴牌で流局。道中カン3sを即立直せず、良形変化しても最後まで立直しないで危険を冒さずトップを守る兎田の選択が巧みだった。
オーラス
運命のオーラス、YAGOOと鷹嶺は条件が同じで、上位2人に満貫直撃または跳満ツモ。しかしYAGOOの配牌から打点を作るのはなかなか難しく見える。
思うようにツモが伸びないうちに宝鐘からの立直がかかってしまった。
この5sツモ切り立直というのも意外な選択で、マジョリティは1s切りダマテンと思われるがここは積極策に出た。
更にドラ7sを兎田がポン!場が一気に沸騰する。兎田は役がないケイテンだが、前に出る姿勢を見せることで下位2人を抑えつけるブラフ仕掛けである。宝鐘に12000までは打てる点棒状況もこの選択を後押しした。
最後は宝鐘が自ら2sをツモり上げて決着。
YAGOOは、敗れた。
悔しさとも悲しみとも知れないこの表情。
しかし嘆いてばかりもいられない、出番はもう一回ある。
下位卓
東家 CPU(1名欠員のため)
南家 不知火フレア
西家 YAGOO
北家 鷹嶺ルイ
東1局
微妙だったYAGOOの配牌がぐんぐん伸びるも親の2000オールにかわされてしまう。勝負手を潰された不知火も激痛。
続けて1本場の配牌は、
なんと全員が役牌対子持ち!バチバチの空中戦を予感させる。
最初に仕掛けたのは鷹嶺、白をポンして打1sは筒子染めや赤5sにドラ7sをくっつけるなどの未来を見た、打点に重きを置く一打。
YAGOOも西を鳴いて応戦!
不知火の南ポンで場はデッドヒートの様相を呈する。
YAGOOは高め3900の聴牌まで漕ぎ着けるも、5sを重ねて三面張で待っていた鷹嶺の当たり牌8pを掴んでしまう。今日のYAGOOはなかなかあと一牌が届かない。
東2局
筒子多めの手をもらったYAGOO。2巡目に56sの両面を払い染め一直線に構える。
この局は鷹嶺の選択が光った。まずは4巡目でターツ選択。
YAGOOの異様な河にしっかり反応した打4p。実際、YAGOOこそ持っていないものの3pは既に山にない。
さらに選択は続く。どの形に構えるか。
鷹嶺は打5sとした。5sは2枚切れで暗刻になることはない。2pはYAGOOが筒子染め濃厚で期待が持てず、それならば4s6sを引いた時に良形になるルートを残すべきと見たか。
2pを引いてカン4sで即立直に出た。この4sは山に1枚だったが、
これを一発ツモ!!本大会初の跳満を叩き出しトップに躍り出た。
東3局
YAGOOがタンピン手をまとめ上げて立直を打つも実らず流局。
オーラス
オーラスは不知火の配牌1向聴・役満2向聴の大物手に期待が集まるが、これが全く伸びないまま
YAGOOがドラ3持ちの4巡目立直!この時点で14pは山に6枚でありほぼ勝負は決まった。
前に出たCPUから4pを召し取り、満貫の和了りで順位を一つ上げてゲームセット。これがYAGOOの初にして唯一の和了となった。
和了りの瞬間、YAGOOのこの日初の笑顔も見ることができた。
東風戦2回分、YAGOOの打ち筋を見た印象は、至って堅実な打ち手と感じた。
押すべきときは押し、引くべきときは引く。奇をてらうプレイングはなく、素直に手を作っていく。
案外ビジネスの要諦というのはそんなものかもしれない。やるべきことをコツコツと。銀の弾丸など期待せず、愚直に今ある課題に取り組む。
ホロライブの華々しいタレントたちは、そんな地道な仕事の上に輝いている。という忘れがちな事実を、YAGOOの麻雀は思い出させてくれるのである。