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ラグジュアリークルーズのゴールデン・ルール

最良の船上体験価値を演出する滞在環境とは、主に以下の6つが掲げられるかと思われます。

  1. プロダクト

  2. コンテンツ

  3. ソフト

  4. 旅行商品

  5. 商品企画

  6. 滞在価値

そしてこれらの要素が織りなす演出によってゲスト一人ひとりの人生観を加えることによって構成されるのです。

ラグジュアリークルーズのゲストはストーリを評価する

ラグジュアリー・クルーズのゲストは、旅のストーリーとゲスト自身が歩んできた人生を旅の「ストーリー」として作り上げることを好まれる傾向があります。

今から遡って約30年以上前の1988 春、クリスタルクルーズ社は、これから造る新造船の建造と同時に、船上での滞在環境の構築に多くの時間が割かれていた様子でした。

まったくゼロから立ち上げる新会社の、それも新造船を導入する以上、その構想は 2〜3 年のレンジで描く必要性があったのです。

新造船の建造は設計段階がある程度まとまれば、後は造船所の強い意思の元で、予定通りのプログラムで建造が可能かと思われていたのです。

その新造船の就航まで 2 年間の準備期間の間は、この新しいクルーズ運航会社の将来の勝負が決まると考えていたのです。

そこにはクルーズ客船事業を構成する、 客船というハードと船上での滞在環境というソフトの 2 つの側面からのアプローチが必要でした。

これから始めるクルーズ客船会社に乗船するクルーズ船客の滞在の舞台は、船 (ハード部分)と、 その配船先や船上での滞在環境(ソフト部分)で構成されているのです。

特に船は、船主、投資家である NYK(日本郵船)が中心に主導的に展開する部分であるが、 営業活動に加えて目的地・配船先や船上での滞在環境・舞台環境の構築は、その運航会社が主として担う仕事です。

ハード部分の客船の基本デザインにおいては、既に対象とされたロイヤル・ バイキング社の船など想定競合船社が存在していたので、その前例と具体的に相対的検証ができ、その対応は容易であったのです。

日本の持つ"モノ造り”の技術を積極的に取り入れることにより、費用対効果や利用者の 利便性などを考慮しても、方向性の確認に、それほどの議論は無かったのです。

しかし船という「モノ」の部分は、当初は珍しく感激を与える事が出来ても慣れやすくて、飽きられやすい傾向があるのです。

客室をはじめとする船上における各種の公室や施設などは、技術革新を基にした利便性と目新し さなどにありがたみを感じても、1 週間も滞在していれば慣れで新鮮さも薄らぎ、その 優越性に対する評価も忘れられやすいモノです。

また、造船所で図面が書かれた段階で、その技術革新の提案は、他の会社が模倣し追従したりされやすいので、その客船の持つ利便性や長所だけで長い間売り込むことには限りがあるのです。

クルーズ船客の嗜好やライフスタイルの変化などの進 化の度合いによっては、折角の船上の居住環境(特に部屋のサイズ)も、数年で陳腐化するのです。

クルーズ会社は旅のメモリークリエータ

これから始めるクルーズ客船事業は、物流とは異なり、船だけでは成り立たないのです。

このプロジェクトの成否を決めるのが、船上における滞在環境です。クルーズという旅行商品は、これを利用する顧客の旅のドラマであり、ゲストのストーリーを演出する商品なのです。

ゲストの多くは、旅が持つプロセスを3D化したストーリーに期待して、数ヶ月、長ければ数年前から、旅の過程を想像することから始まるのです。

これからこのラグジュアリー・クルーズ業界で生きていく為には、 船上でクルーズ乗船客が楽しめる環境創りを指す滞在環境こそが、この事業の要なのであり、クルーズ運航会社がその責任を担うことになるのです。

クルーズ旅行に魅せられたアメリカのクルーズ乗船客は旅の目的地のみならず、 船上での人との交流など、旅のプロセスに、より興味を示す人たちが中心なのです。

船上でのライフスタイル を求めてくるクルーズ船客に対して、今まで経験した事のないような快適な環境と充実した船上で の日々を演出しなければならないのです。

この新しい事業は旅行者に、船上での体験と社交の時を刻み、旅の記憶を売る仕事であり、アメリカのラグジュアリー・クルーズ業界に参入し成功 するためには、その旅の記憶を脳裏に刻む環境づくりと怯むことのない革新的な発想の導入が必要なのです。

その実現のためにはホスピタリティ事業の心臓部であるソフト(船上での生活体験の演出)の仕掛け作りが最優先の課題である事を認識する必要があったのです。

クルーズ会社は旅のメモリークリエーターと言える所以なのです。

既存の有力競争相手と互角、あるいは彼らの上を行くためには、これから誘客するクル ーズ乗船客層に、強烈なインパクトと感動を与えるような船上での滞在環境の仕掛けが必要でした。

サ ービスとソーシャルの基本に在る「ヒトとヒト」のケミストリーを前面に出した船上での滞在環境を演出し、クルーズ旅行者が人との出会いで織り成す感動と、心に思い出を刻む仕掛けが求められるのです。

その演出には、新会社の"個性"が、最も重要であったのです。その個性は、 この新会社が、船というハードの上に実現されるサービス・コンテンツ、即ち、サービスの中身と船上で生活する人たちが醸し出す生活・ソーシャルが、既存のラグ ジュアリー・クルーズ客船社を凌駕するような独自性に溢れた舞台装置であり、それがこの事業の成否を決めると理解していたのです。

他社にない独自性が 実現できれば、当初の目標である新会社のブランドの価値が、この業界やゲストに認知されるに違いないと認識していたのです。

各種の調査を通してこの船上での体験価値を演出する最重要なポイン トは、客層と彼らのライフ・スタイルの分析であり、この願いを定めた客層の絞込んだ顧客が「何を望むか」が最も重要です。

しかも数年先も予見しながら見極めると同時に何を嫌がるかのネガ ティブな要因を出きるだけ取り除く商品構成にあると判断していたのです。

しかし、船上でのサービス・プロダクト、すなわち「船上での滞在体験」を演出する知識は、クリスタルクルーズの親会社のNYK(日本郵船)は全く持ち合わせていなかったのです。

すでに各種の調査や専門家との交流を通して、この企画・構想の段階からある程度の共通認識は持っていたが、その細部にまで思いが至らなかった。この分野は日本郵船が優れた貨物船を多く所有し運航していても、それが生かされない 未経験の分野でした。

既存事業の成功事例は役に立たない

クルーズ事業は貨物輸送と違い、目的地に早着が至上と言うものではなく、物言わぬ貨物 と異なり、個々のクルーズ船客がそれぞれ「主観」を持っている以上、限られた空間にクルーズ船 客を詰め込めば採算が上がるというものではないのです。

詰め込みにより消率席を追及しがちな「モノ」 の輸送とは全く違うビジネスである。

乗船客には、効率や詰め込みなどは馴染まないものです。乗船中も広い生活空間を利用して、クルーズゲストがゆったりと自らのライフスタイ ルを維持しながら満足するような舞台装置が極めて重要です。

採算向上のために、サービスの中身やそれを演出する備品の手抜きは、何度も乗船するリピーターにとっては、前回と何かが違うと疑念を生むのです。

その結果、次回のクルーズは無言でこの船から離れて行き、他の会社の船に移るというのがこの 業界の常識でもあったのです。

その離反船客や販売網の傾向が強まればこの業界では敗者となり、 他社の手に落ちる事になる。ここに、高額商品であればあるほどコストパフォーマンスが重要になるのです。

船上滞在コンテンツの構築が要

この船上プロダクトの構想には、この業界を熟知する人たちのノウハウを「蔵き台」 にするのが良かろうという判断であった。この視点から、早い段階 から適任者を仲間に入れる必要がありました。

船上でのホテルプロダクトと言う環境滞在の構築と共に、実証するプロダクトを持ち合わせない新会社が描く船上コンテンツというソフトに対する構想を、新造船が就航するまでの 2年間のうちにアメリカ・マーケットの旅行代理店網などに対して、期待を持続させる仕掛けが必要だったのです。

旅行代理店網に提示するホテルコンテンツがないゼロから出発する会社としては、 マーケットに対してひたすら期待と納得をさせ続ける必要があったのです。

そこで新しいラグジュアリー・クルーズのコンセ プト を作るキャステングを前面に出す戦略を考えたのです。

新会社のコン サルタント・チームなど幹部に対するこの業界における信用度と、これから雇う 船上で働く人材を前面に出して、船上のパーフォーマーである乗組員という「人財」で、 マーケットや販売網に訴え掛ける方策を考えたわけです。

また同時に、これから、船上のプロダクト構築の過程で、早い段階か ら将来のクルーズ乗船客のみならず、共存共栄の不可欠な関係にある旅行代理店など販売網を取り込むことが重要でした。

このため、新造船の建造スケジュールやタイム・ラインに合わせ、彼ら の知識や宣伝・プレスなどの積極的な参加を促し、マーケットが新しいクルーズ客船運航会社の商品企画に積極的 に参加する環境を作るという工程を描いていたのです。

これにより、新しいプロダクトに対する期待感を更に高め、クルーズゲストにとって快適な環境を演出する努力を重ねたのです。 

またブランド構築の過程でも、船上の滞在環境構築の段階から、彼らの力を大いに活用することが、この事業には必要でした。

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