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飲酒と発ガン & 適正飲酒量ゼロ


こんにちは!
今日はお酒についてまとめてみました。


アルコールは発ガン物質です!

と言われると、『ギョっ』とすると思いますが、事実です。


アルコールは、世界ガン研究機関(IARC)では、発ガン性が確実にあると言われているグループ1に分類されており、


食品と飲み物でグループ1に認定されているものは、アルコールと加工肉、塩蔵品(塩漬けの魚)の3つだけです。


グループ1には、タバコ、ヒ素、アスベスト、紫外線、エイズウイルス、C型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、ピロリ菌、いくつかの抗ガン剤などが認定されています。


下のグラフは、アルコールの摂取と関係がある7つのガンの危険度を表したものです。飲酒量に比例して発ガン率が高くなります。
*論文1Cancer Epidemiol. 2016 Dec;45:181-188


スライド1


ちなみに口腔・咽頭・喉頭・食道は、それぞれの表面が同じ細胞(扁平上皮)でできていて、アルコールによる直接的な影響を受けやすい臓器です。これらの臓器からできるガンは、病理組織学的に扁平上皮ガンです。

また、飲酒習慣に加えて喫煙習慣があると、発ガンのリスクが格段に高くなります。

世界ガン研究機関(IARC)は、2018年5月に、少なくともガン予防の観点から、『アルコールは飲まないほうが良い』と勧告しました。

英国政府も2016年に、『安全な飲酒レベルはない』と勧告しており、飲酒許容量を大幅に改定しています。


一方、『酒は百薬の長』と聞いた事がありますよね。
昔から、『少量のお酒は健康に良い』と言われてきました。


ブルーゾーン(健康長寿の地域)の方々も適度に飲酒をしていることが知られています。これもご存知の方が多いと思います。


適度な飲酒の上限量は、純アルコール換算で、以下の様に言われています。

男性:1日 20g
女性:1日   9g  


これは日本人を対象にした飲酒と死亡率の研究結果から導かれた量です。
*論文2 Am J Epidemiol 150: 1201-7, 1999



アルコール20gの量は、下図の通りです。
サントリーのHPから引用

アルコール



そもそも『少量のお酒は健康に良い』というのは、心臓血管病の危険性が下がるという、約60もの研究に基づく科学的根拠があるからです。
*論文3 Circulation. 2001;103(3):472-5.



しかし、


2018年に医学系トップジャーナルのLancetという雑誌に『推奨される飲酒量はゼロである!』という研究報告が発表されました。世界195ヵ国、592の論文を解析した結果で、参考資料を含めると2356ページにも及ぶスケールが大きく、かつ精密に分析された研究です。
*論文4 Lancet 2018; 392: 1015–35


この論文の要旨は、下記の通りです。

① 2016年における世界各国の死亡者のうち、アルコールが原因で亡くなった方の
 割合は、女性の死亡者の2.2%、男性の死亡者の6.8%であった。

② 年齢層を50歳以上に絞ると、死亡者の割合は、男性で18.9%、女性で27.1%に
 跳ね上がる。

③ アルコールは、死亡を早め、DALY(障害調整生命年)を縮める7番目のリスク       要因だった。

④ アルコール摂取によって亡くなった方の死因は、年齢層によって異なり、
 下記の通りである。

・15〜49歳:結核感染、交通事故、自傷行為 
       (世界の死亡の12%に相当する) 
・50歳以上:ガン 
       (アルコールに起因する死亡の大部分を占める)

⑤ 健康への悪影響を最小限に抑えるアルコール消費のレベルは、1週間あたりの飲
 酒量がゼロである。

 

 つまり、『地球規模で考えるとアルコールはいらない』という結論です。

衝撃的な結論ですね!

しかし、国によって、飲酒によって引き起こされる病気が異なります。


この論文では、195カ国のSDI:Socio-Demographic Index
(教育の成熟度、出生力および地域内の1人あたりの所得から算出される指数)を計算し、SDI別に比較検討しています。

(SDIが高い国:先進国、SDIが低い国:途上国)のような振り分けをして評価しています。


その結果、下のスライドのように、男女とも先進国と比較して、途上国では、飲酒によって結核を患い、短命になっている事がわかります。僕も、この論文を読むまで、この事実を知りませんでした。

スライド2



一方、先進国はどうかというと、下のスライドのように、飲酒によって、結核ではなく、心臓血管病やガンで短命になっている事がわかります。

スライド3



日本では、下のスライドのように、若年者では自傷行為、50歳以上では、ガン、心臓血管病や脳梗塞で短命になっています。

画像8



下のグラフは、この論文に掲載された飲酒量と心臓血管病のリスクを表したものです。全く飲酒しない方よりも、少量の飲酒をしている方のリスクが低くなりますが(赤丸)、その後、飲酒量に比例して、死亡率が高くなります。これをJカーブパターンと呼びます。(これは、従来の報告通りで、先進国の中高年男女で見られます。)

スライド5


これに対して、下のグラフは、少量の飲酒でも乳ガンのリスクが上がる事を表しています。

スライド6



飲酒は、地域(SDIレベル)、性別、年齢に応じて、考えなければならないと思いますが、『人類の平均的な健康を考える上で、アルコールは不要』であることは間違いなさそうです。

日本人はどうか? 気になりますね。

上述した、日本人における適度な飲酒の上限量:男性1日20g、女性は、1日9gは、死亡率から算出したものですが、発ガン性を考慮すると、20gでも十分に発ガンリスクがあることがわかりました。(*論文6)


2019年に発表された日本人約12万人を対象とした飲酒と発ガンに関する最も新しい論文によると、『最小リスクはゼロ』という結論です。世界ガン研究機関(IARC)と英国政府の勧告と同様です。
*論文6 Cancer. 2019;10.1002/cncr.32590.


日本人は、アルコールに弱い人種です。アルコールが分解されて作られるアセトアルデヒドには、細胞毒性があり、発ガンと関係した物質です。飲酒で皮膚が赤くなる原因物質でもあります。


日本人は、このアセトアルデヒドを分解する酵素(アセトアルデヒド脱水素酵素2:ALDH2)の活性が低い方が多く、フラッシャー:ビール1杯でも顔が赤くなる方は、特に食道ガンや咽頭・喉頭ガンのリスクが高いとされ、その他の臓器の発ガンとも関連しています。
*論文5 日消誌 2013;110:1745―1752 


また、飲酒によるエストロゲンレベルの上昇、飲酒による葉酸の消費によって、乳ガンのリスクが高くなることが知られています。
*論文6 Breast Cancer Res Treat. 2011 Aug;128(3):817-25.

飲酒による有病率を示した世界地図がこちらです↓
上段が女性、下段が男性です。

お酒の世界地図


青色が濃いほど飲酒による有病率が高いことを示しています。
日本も有病率高いですね。


日本政府が、『飲酒をやめましょう!』と勧告をする日が近いかも知れません。
飲酒とどう付き合うか?考えてみましょう!