眺めのいい部屋・完結編
これまでの話は「眺めのいい部屋」と「続・眺めのいい部屋」から
AM6:00
目覚める。そして、つぶやく。
「なぜおれは、ここに……」
話は15時間前に遡る。
PM3:00
今日は数日前からわーわーやってた物件探しの完結編。契約の日である。
実際は午前中に集まっていたものの、向こうサイドのトラブルがあり、契約書を書き直すことに。
どんなトラブルかっていうと、フィリピンのコンドミニアムには「コンド税」というものがかかるのが常で、事前の説明だと「初年度はコンド税かからないから払わなくてええんやで」という説明をオーナーから聞いていた。
コンド税は物件にもよるのかもしれないけど、だいたい2000ペソぐらい(ざっくり4000円)。
これは払いたくなかったものだし、コミコミでやってくれる物件にしか興味がない。部屋も気に入ってたけど、コンド税が不要だからこそ契約を決めた、という側面もある。
が、この日、部屋を訪れたらオーナーが泣きそうな顔で「マンションのオフィスに行ったらコンド税払えって言われたのよー」などと言う。
こっちとしては知らんがなということで断固拒否。
わちゃわちゃとオーナーとオーナーの旦那が揉める中、私はだんまりを決め込み、時折「I think so...」「That's too bad」などと得意の英語で合いの手を入れる。
旦那がマンションのオフィスに殴り込みに行ったりしつつなんやかんやあって、「6ヶ月はコンド税いらない。その後は協議しよう」という話になった。
私としてはまったく問題がなかったので、「Let's do that!」と快諾。あとは芋づる式でその後もコンド税を払わず済むよう頑張るだけだ。
契約書を直すということで一旦別れ、PM3:00に再集合。空いた時間、必死のパッチで契約書をGoogle翻訳にかけたので内容もバッチリ。
私は4枚の書類にサインをし、鍵を受け取ると、晴れてこのコンドミニアムの住人となったのである。
契約が無事に済んで皆笑顔。私はオーナーと握手をし、最初に内見で会った時には拒否されたけど、オーナーの息子とも握手をした。やりゃできんじゃん。
早速ドミトリーに舞い戻り、10分で引越しの支度を完了。そこからタクシーに飛び乗り、新居へと荷物を運び入れた。引越しの所要時間20分。
果たして私は、ちょっと意味が違うけど、一国一城の主になったのである。
荷解きをガツガツやったら30分で修了。ドミトリーでは出してなかった電動歯ブラシとか、歯の隙間を水圧でビャーッとやるやつとか、そういうやつのセッティング完了。あー!快適に暮らせるー!
PM7:30
メシも食ってやることがない。何しようか?なんでもできる。ものすごい万能感。とりあえず、そう、風呂だ!
シャワーを浴びる。すごい水圧。跳ねる水しぶき。
「ひゃー!こんな水圧、毛穴が広がっちゃうよー!」
なんてことを思いながら強靭な水のアタックを楽しむ。爺さんの小便のようなドミトリーのシャワーとはだいぶ違う。
これが、これこそが、シャワーだ。
シャワーから出た後の多幸感はすさまじいものがあった。こんな快楽がこの世に存在していたのか、と。
口に出してたもん。「最高だな」って(セブに来て独り言が増えた)。
風呂上がりのパイナップルジュースが美味い。窓から外を見下ろすと、まるですべてを手に入れたかのような気分になる(6階)。
ま、そんな具合に全裸で王のような気分になっておったのですが、とりあえずドライヤーで髪を乾かすことにした。
私のドライヤーはフィリピンで買ったものなのだが、フィリピンは電圧が高いため、変圧器をかましたコンセントだと風圧が弱い。
こんな風じゃ、王の髪は乾かねえよ……。
しかし、コンセント口はすべてふさがっている。そうだ。コンセントタップがあるからこれでコンセント口を増やそう。
そう思ってコンセント口にコンセントタップを差し込んだ。すると、コンセントから火花が出て、世界が闇に包まれた。
闇。まったくの闇。
何も見えない。何も聞こえ……いや、聞こえる。音は聞こえる。鼻腔を刺激する何かが焦げた匂い。
あれ? ブレーカー落ちた? まだドライヤー使ってないのに?
そう思ってブレーカーを見ると、つまみはすべて上がっている。落ちてない。良かった、と、ホッとしたのもつかの間、重大な事実に気づく。
ブレーカー落ちてないのに電気が使えなくなってる方が問題じゃん!
そう。どういう理屈か分からないが、私の部屋の電気がまったく使えなくなってしまったのである。
えええー? コンセントタップ差しただけだよ? うっわー……さっきまでの最高どこ行った? おーい、最高ー。こっち来いよー。戻って来いよー。
いくら嘆いても電気はまったく通らない。暗い。夜だもんな。原始人は寝る時間だもんな。暑い。エアコンも当然動かない。タバコを吸おうと思ったけど、換気扇ももちろん動かない。携帯も充電できない。ヤバい。
とりあえずそうだ。セキュリティに相談しよう。頼りになるあいつらに。
「オーナーに連絡して直してもらうしかないんじゃない?」
セキュリティはあっけらかんと言い放ちました。素晴らしいあっけらかんでした。セブの青い空を思わせるあっけらかん……。
もう夜だし、これ以上うろたえてもどうしようもない。結論。私はドミトリーへと戻ることにしました。まだ解約してなくて良かった。こんなにも早く戻ることになろうとは……。
私の最高、たったの3時間。
ここでこの記事の頭に戻る訳です。
AM7:00
ドミトリーで眠った私は朝の6時すぎに起き、軒先でタバコを2本吸うと、歩いて新居へと舞い戻りました。
部屋に到着して電気のチェック。やはり電気、全然ダメ。動かない。動かざることダイアモンド✡ユカイのごとし(「FLEEZE」はAmazonビデオで配信中です)。
昨晩、テキストメッセージの返信がなかったオーナーに再度連絡。
「ねぇねぇ、やっぱ電気使えないんだけど……」
「フロントデスクで聞いてみて。たぶんメンテナンススタッフがいるから」
えっ!? そんなんいるの? 昨日言ってよ!
そして、セキュリティよ……教えてくれよ、それは……。
早速私はフロントデスクに行き、フロントデスクで事情を説明すると、メンテナンススタッフが私の部屋までやってきて状況を確認すると、同じフロアにある動力ルームみたいなところでちょちょっと作業。
で、解決。あっという間に解決。3分で解決。
なんなんだよ!昨日のあれは一体なんだったんだよ!
ここは熱帯。あっけらかんの世界。電源タップを差し込んだだけで部屋がブラックアウトするし、肝心なことは気が向かないと教えてくれない国。
今は万事OKで楽しくやっております。良かった良かった。おかえり、最高。
※アイキャッチの写真は今回の部屋とまったく関係ありません。海、見えません。写真はグアムだそうです。