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オンラインHDF後希釈法においてQBが低いとTMPが上昇する仕組み

※CEさぼの備忘録の記事を再編したものです。

日本でも2012年の診療報酬改定以降オンラインHDFが急速に広まってきました。

日本で主流であるのはオンラインHDF前希釈法ですが、オンラインHDF後希釈法も少なからず行われています。
※1 オンラインHDF前希釈法(以下「pre-OHDF」)
※2 オンラインHDF後希釈法(以下「post-OHDF」)

Post-OHDFは拡散効率を落とすことなく施行できるというメリットがありますが、デメリットとして血液流量(以下QB)による制限を受けてしまいます。

Post-OHDFでは低QBではTMPが上昇し、Albが過度に漏出したり、最悪の場合凝固したりする場合もあるのです。

今回は日々オンラインHDF前希釈法、後希釈法を施行しているCEさぼが「オンラインHDF後希釈法においてQBが低いとTMPが上昇する仕組み」について解説していきます。

結論から先に言うと、postではQBを上げるとTMPが下降し、QBを下げるとTMPが上昇します。
これはPre-OHDFでは起こらず、Post-OHDFで起こります。

その原理、仕組みについて解説していきます。
比較しやすいように低QBをQB100、高QBをQB200として比較してみます。

Post-OHDFでTMPが上昇する理由はずばり『血液の過濃縮』です。

血液は濃縮(濃くなる)すると、粘度(粘り気)が増し、濃縮の進行が行き過ぎてしまうとフィルター・血液回路の凝固の原因となり得ます。

それぞれ図を用いて解説していきます。

こちらはPost-OHDFの模式図です。

計算しやすいよう条件は以下の通りとしました。

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比較しやすいようにQBを200とQB100でどのような違いがあるか解説していきます。


QBを上げた場合のフィルター内の動態

※QB200を相対的にQBを上げたと表現しています。

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※Ht(ヘマトクリット)は全血液に占める"赤血球"の体積の割合を示すものですが、計算しやすいよう、分かりやすいようにHt=血球/全血液で計算しています。

図でみると一目瞭然だと思います。

除水なしの条件でもフィルターの後に補液をするのでQs50ml/minだとしてもフィルター流入前の約1.3倍に血液が濃縮してしまいます。


QBを下げた場合のフィルター内の動態

今度はQB100にした場合のフィルター内の濃縮具合をみていきましょう。

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図の通り、QBを落としてもHtは変わらず、フィルター内で限外濾過される血漿成分が少なくなってしまいます。

QBを100まで落としてPost-OHDFを行ってしまうと、除水なしにも関わらず、流入前の2倍の血液濃縮が起こることになります。

血液は血球成分を含むため"非ニュートン流体"であるのに加え、速度によって赤血球が変形したりして管内を流れる場合は動向が複雑ですが、以下のようなことが分かっています。

ヘマトクリットが増加するにつれて血液の粘度は増加するが,約50%を越えると,粘度は指数関数的に増加する.1)

Htが約50%を超えたときに『指数関数的に増加』とあるので、QB100でQs50の場合、かなり高い確率で血液過濃縮の危険性があると考えられます。

血液濃縮が進み、TMPが過度に上昇すると、post-OHDFだとAlbが過度に漏出したり、最悪の場合フィルター凝固になって治療を中断せざるをえない状態になる恐れがあります。


さいごに

Post-OHDFは拡散効率を落とすことなく、中~大分子物質まで除去することが可能な優れた治療法でありあすが、低QBで行うと『血液過濃縮』が起こり、最悪の場合フィルター凝固を起こしてしまう危険性があります。

現行の透析監視装置ではPost-OHDFで低QBで施行しようとするとメッセージやアラームで危険を知らせてくれる機能が搭載されている装置もありますが、今回話した内容はPost-OHDFを行うCE、Nsとしては是非知るべき知識かと思います。


参考文献

1):前田 信治.教育講座:血液のレオロジーと生理機能 第1回:血行力学の基礎と血液粘度.日本生理学雑誌.2004;66(7・8).234-244

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