フェニックスリーグで目立った若竜
Bクラスになった中日にとって、フェニックスリーグの終了を以て今年の全試合が終了した。恐らく、来季は片岡篤史が就任する二軍監督の仁村徹にとっては最後の仕事となるだろう。そんな中で最後まで戦った若竜にハイライトを当てて振り返ってみよう。
13.橋本侑樹は死神を継いだのか
スライダーを操る背番号13を着けた左腕投手、これだけ聞くと僕達の世代は「死神」岩瀬仁紀をイメージするが、これからの時代はこの橋本侑樹が「死神代行」となりそうな予感がする。
今季、交流戦の前後でとてもいい働きをした橋本だったが、左の中継ぎ投手の福敬登、岡田俊哉の両投手はそれぞれ肩と古傷の循環障害に不安が残り、苦しい屋台骨を橋本が救っていた状態だったが、もちろん体力が持たず二軍降格してしまい、それ以降は一軍で投げることはなかった。しかし、その期間で橋本は鮮烈な印象を残した。滅多に三振をしないオリックスの吉田正尚、日ハムの近藤健介からスライダーで三振を奪ったのは記憶に新しいだろう。今季、中継ぎの又吉克樹、祖父江大輔がFAで流出する可能性がある。それでなくてもこの2人はもはやベテランであり、橋本のフル回転は中日浮上の必要十分条件と言えるだろう。
18.未完の大器・梅津晃大は覚醒するのか
中日ファンが投手で今1番期待しているのは間違えなく梅津晃大だ。高身長から投げ下ろされる直球、フォークボール共に落差がありソフトバンクの千賀滉大を彷彿とさせる投球スタイルがウリの投手だが、即戦力として入団して3年間故障に喘いだ文字通りの未完の大器である。このフェニックスリーグでも抜け球が目立ち、課題の制球が今ひとつだったものの指にかかった直球は火の玉のような威力があり、さすがという場面を幾つか見せて貰った。
過去に中日では、伊藤準規や中里篤史ら本格派右腕投手が18番をつけてきて、皆満足な投球ができずに背番号をはく奪されてしまった。梅津にはそんな呪縛から脱却し、中日のエースから日本のエースになってもらいたいと切に思う。まずは春季キャンプでフォームを固めるようだ。
19.髙橋宏斗は完成系が見えてきた
柔よく剛を制すタイプの吉見一起が引退し、その背番号19を受け継いだのが剛で柔を圧倒する髙橋宏斗である。この投手は体づくりをしながら二軍で登板を重ね、未勝利の5敗を喫した高卒ルーキーで公式戦に投げられた事は合格と言えるだろう。また、高校時代に変化球を多投したことがプロからの評価を大きく落としていたが、仁村二軍監督のもとで「直球縛り」を敢行してから明らかに直球の質が良くなり、最終戦では今までになかった緩急という変化球の使い方を見せたのは来季に期待できることだろう。フェニックスリーグでもその最終戦の調子を維持し、最後の登板まで無失点を続けた。最後は10安打を浴びる大乱調に終わったが、マメができていたとの事だ。
この髙橋宏には来季ローテーションに入ってもらいたい。そのために秋季キャンプでは投内連携や牽制球を練習するそうだ。そういったフィールディングができるようになれば勝てる投手なのは間違えがないことである。しかし、くれぐれも小さくまとまってはいけない投手である。高卒でこれだけの投手は中日には久しぶりの素材だろう。金の卵の育成に長けた落合英二コーチの手腕の見せどころとなる。
2.守備でも期待したい石川昂弥
石川昂弥の守備に対する評価は本当に人それぞれである。ホットコーナーにどっしりと座らせたいという人、セカンドも守ることができるのではないかという人、ショートもできるのではないかという人までいる。それだけ石川は器用なのだろう。事実、昨年高橋周平が負傷離脱した際に石川が急遽一軍昇格した際には高卒ルーキーとは思えない堅実な守備を見せた。
しかし、石川に期待したいのは類まれなるパンチ力だ。ボールを飛ばす能力は中日の選手の中で5本の指に入るのでは無いかと思う。特にインコースの速い球を打つ際の打撃フォームは広島の鈴木誠也や巨人の岡本和真を彷彿とさせるホームランバッターのそれである。かと言え、こちらも2年間シーズンを通して故障がなかったことの無い選手。新人でレギュラーを張り、肩を大ケガしてしまった立浪和義監督らしく大事に育てていくようだ。
7.やはり根尾昂は二遊間
内野手が外野を守ると何故か小さく見えるものである。一昨年、阪神の大山悠輔がスランプに喘いだ際に中堅手を守ったがとても小さく感じ、どこからともなく悲壮感が漂っていた。今期序盤に根尾昂が両翼を守っていた時も同じようなオーラが出ていた。そのせいでは無いとは思うが、打率も1割中盤と大不振を極めた。しかし、春季キャンプで練習を全くしていなかった外野の3つのポジションをタライ回しにされながらもそつなくこなした守備のセンス、送球判断の際に現れた野球偏差値の高さは流石4球団競合選手だと思った。
しかし、来季以降は内野、もっと言えば二遊間を守って欲しい選手である。今季の最終盤の一軍戦、そしてこのフェニックスリーグにて内野手として一軍に昇格した際は、攻守走全ての分野でレベルの高いプレーを見せた。やはり根尾には内野が似合う。
ちなみに、あのアライバコンビも若い頃に外野手として出場した際に背走プレーのコツをつかみ、その結果が最もテキサス・ヒットが少ない二遊間となったことは有名な話である。この外野起用が10年後、20年後に美談として振り返ることの出来るだけの活躍を根尾に期待したい。
44.三冠王・郡司裕也の打棒に期待
中日では珍しい慶大出身の郡司裕也はコンバートをして打棒に期待するとの案が出ているが、捕手としての能力も素晴らしい。肩は木下拓也、桂依央利に劣るが、捕ってからの早さは中日捕手陣で1番だろう。失礼な言い方になるが、郡司は捕手らしい体型をしているので、本来であれば捕手として使っていくべきなのだろう。しかし如何せん体力がなく、続けて試合に出れば出るほどどうしても攻守走に綻びが出てきてしまうのが残念である。今回のフェニックスリーグでも後半は守備、走塁でのミスが目立ってしまった。
理想としては、福田永将の若い頃のように二軍では捕手として使い、一軍では野手を守らせて打棒を磨くという起用法がいいのだろう。福田は捕手としては開花できなかったが、同じ育成法で森友哉がパ・リーグを代表する捕手へと成長した。期待したい選手である。
45.土田龍空はあと一歩
今季終盤、巨人の左キラーである大江龍星から引っ張ってプロ初安打を打った姿を見て、土田龍空が一軍に定着するのはそう遠くない未来ではないかと思った。また、守備でも井端弘和を彷彿とさせる頭脳プレーが随所に見え、これは久しぶりに中日らしい仕事人が出てきたなと思ったことはさておき、フェニックスリーグでは持ち味の守備を活かせず苦戦を強いられた。難しい当たりをアウトにする華やかなプレーは得意だが、堅実性が足りない荒削りなタイプである。凡ゴロを捌く堅実性が向上すれば間違えなく名手になれる存在である。個人的には、ベテランの堂上直倫に代わる守備固めとして活躍して欲しい。とはいえレギュラーになれるだけの素質は十二分にあるので、まずはレギュラー奪取を目標に掲げてもらいたい。
49.伊藤康祐は強打の2番タイプ
サンデードラゴンズで立浪監督が絶賛していた伊藤康祐は今季の二軍を見てずっと注目していた選手だけにようやく日の目を浴びると思うととても嬉しい。伊藤の魅力はなんと言っても選球眼にある。追い込まれたらファールで粘り、一軍級の投手とも互角に渡り合っていた数少ない中日の二軍選手であった。僕が今季印象に残っているのは阪神の伊藤将司の浮いた球を逃さずおっつけて右中間に落としたヒットである。広角に打てる谷佳知タイプの2番打者になるだろう。フェニックスリーグでは打率3割をゆうに越していて、昨年不振に喘いだのが嘘のようだ。完全に何かを掴んでいるのだろう。
守備も中日では大島洋平の次に上手いのではないか。しかし伊藤には大島にない強肩がある。この選手を使うためにわざわざ武田健吾を放出したのだ。来季は守備要員だけでなく、右翼手のレギュラーとして活躍して貰いたい。
58.ロマン溢れる石橋康太
中日の捕手陣を見て、固定するなら石橋ではないか。この選手の体力は凄まじい。二軍で1年間捕手を守ると、必ずどこかで打てなくなったり、凡ミスが目立つようになる。かつての杉山翔太や桂依央利はそうだったのだが、石橋にはそれがないのだ。ドロまみれになって打球を追ったり、声を張り上げてダイヤモンドの内野陣を鼓舞する姿は本格派の捕手そのものである。城島健司のようなタイプではないか。
肝心の野球のほうでは強打の捕手である。意外性があり、誰も予期しない特大本塁打を放つことがよくあるので、恐怖の8番打者にはうってつけの選手ではないか。若手を使っても必ずしも育つとは言えないが、使わずして育った若手はいない。石橋を1度我慢して1年間使ってみてはどうかと思う。
60.岡林勇希という金の卵
よくここまでの掘り出し物が5位まで残っていたなと言う印象である。僕は岡林勇希は投手として育てていくものだと思っていた。しかし、入団早々に野手転向。これは時間のかかる選手だなと思いきや打撃はもちろん、当初は不安視されていた守備、走塁に関しても日を重ねるごとに上達しているのが目に見える。
今後の育て方はリードオフマンタイプか。大島洋平の守備での衰えが顕著なだけにこちらも時間がかからないだろう。
最後に
ここで紹介できなかった選手も皆一芸に秀でた素晴らしい選手ばかりだ。中でも三好大倫の足、石垣雅海のパンチ力、近藤廉のパルプンテ・ボールには目を見張るものがある。来季、この中で1人でも多くの選手が活躍することを中日ファンとして見届けたいと思っている。