【解説】 もし #りっけん 高校3年D組にて #立憲ビジョン2019 の最低賃金政策を学んだら(第四回)
#立憲ビジョン2019 にて「5年以内に最低賃金1300円を目指す」と2019年6月20日に発表され、賃金というテーマなので、多くの方々の注目が集まっています。そして、最低賃金についての理解も人によりかなりまちまちで、いわば「見える景色が違う」現況です。
そこで、最低賃金の過去・現在・未来について、県立りっけん高校3年D組という架空のクラスで話し合ってみました。登場する学校名や人物名はフィクションですが、最低賃金制度の解説は事実に即しています。
「5年以内に最低賃金1300円を目指す」は日本の社会構造を変えていく力が本当にあります。18歳選挙権の時代に入っていて、高校生の方々も読みやすい内容をと作成しました。
第一回:最低賃金の現況の概略や起源について
第二回:現状の最低賃金制度がどのような問題を引き起こすか
第三回:最低賃金が国家経営に大きく関わっていく
第四回:最低賃金政策で世界の最先端を行くイギリス
最終回:参院選2019の各党公約から見る、最低賃金政策の未来
登場人物は「キヨミ先生」「リッちゃん」「ケンくん」です。
恐縮ながら、キヨミ先生はご本人を終始イメージしつつ、楽しく執筆させていただきました^^ ぜひ楽しんでお読みいただけたらと思っております。
【登場人物】
キヨミ先生 県立りっけん高校にて公民を教えている。アネゴ肌で人間の器が大きく、人情味にあふれ、生徒から大人気。
リッちゃん 3年D組で生き物係。非正規労働者の両親は共働きをし、自分のお小遣いは出ないので近所のスーパーでバイトする日々。大学に進学したいと思うが、両親からは自分たちも大学にいっていないし、学費は出せないし、女子は大学に行かなくていいと言われ、ぼう然としている。勉強時間を削ってバイトに行かざるを得ず、悩んでいる。
ケンくん 3年D組で新聞係。母子家庭に育ち、住む県営団地は隣の部屋の物音がうるさくて、勉強するときは小さい頃から近所の公民館のテーブルコーナーに勉強道具を持ち込んでやっている。時折不登校になる。生活のためコンビニでバイトしている。18歳になったのでゲームセンターで時給が高いアルバイトができると気持ちが上がっている。
キヨミ先生:みなさん、おはようございます。さあ授業始めるよー! お...? 前回(第三回)の日本の現実のお話が、よほどショックだったのか、まだみんな打ちひしがれているの?
リッちゃん:そりゃそうですよ...
ケンくん:ゲームセンターで高い時給でバイトできるとウキウキしていた自分はなんだったのか... 前回やった、社会全体が負けゲーム(「最後まで立ち続ける男戦略」:Last Man Standing Strategy)ならば、意味なくね?って、頭がぐるぐるしてます...
キヨミ先生:そうだねえ... さて、始めようか。前回(第三回)では最低賃金が国家経営に関わってくると紹介しました。では、どうしたらうまく行くと思う?
リッちゃん:最低賃金を上げればいいんだろうなとは思うのですが、何か参考になる考え方とかってあるのですか?
キヨミ先生:あります。今回、イギリスの事例を一緒に見てみましょう。イギリスは最低賃金政策で世界の最先端を行っています。
ケンくん:イギリスって、映画『ボヘミアン・ラプソディ』1) の舞台になった国?
キヨミ先生:そうです。でもね、クイーンが活躍した1970年代には最低賃金制度がイギリスにはなかったの。
リッちゃん:え。日本は1950年代に静岡の缶詰業界で最低賃金が導入されたって第一回でやりましたけど、それよりもイギリスは遅かったのですか?
キヨミ先生:日本の方が早くから最低賃金を導入していました。ですが、イギリスで1997年に総選挙があり、勝利し政権を樹立した労働党の目玉政策の一つが最低賃金の導入でした。
リッちゃん:すごく眼に力がある人がでてきましたが、この方は?
キヨミ先生:トニー・ブレアさん。1997年から2007年でイギリスの首相をしました。ブレアは1999年にイギリスで全国一律の最低賃金導入をするのですが、「イギリスの労働者の賃金を上げるとはけしからん。国際競争力が落ちる」と、イギリス保守党や経済界から猛反発にあいます。2)
ケンくん:実は僕も同じように思ってます。最低賃金を上げてしまったら、「安くして国際競争力を」と会社は思っているんだから、キツイでしょ。イギリスで最低賃金を上げたら潰れた会社が続出したと思います。
リッちゃん:それに、賃金が高くなったら、会社は「高い賃金の労働者はいらないから、クビだ」となって、失業率が上がってしまうのでは?
キヨミ先生:実は、その両方ともイギリスの政界や経済界で、最低賃金制度の導入時に予想されたの。でもね、両方とも事実として起こらなかった。「おや?」と経済学者たちは思い、調べた。結果、最新の経済学では最低賃金を上げても失業率は下がり、むしろ企業の生産性が上がることがわかったの。
リッちゃん:え? どういうことですか?
ケンくん:だって、最低賃金上げたら、企業にはデメリットしかないなと。そんなに儲かってないだろうし、そこから社員に賃金出せるの?と心配になっちゃう。
キヨミ先生:経済学者たちも実は当初同じように考えていたの。でもね。事実を調べたら、見立て通りにならなかった。
リッちゃん:オレンジの線が失業率…急に上がってる2008年のところって何ですか? あ、リーマンショックってその頃だっけ。青の線は最低賃金ですよね? 失業率がかなり上がってるときも最低賃金の引き上げが続いている…
ケンくん:そのあとも、すごくない? 2014年以降、最低賃金はグングン上がり続け、でも失業率は下がっていくなんて...
キヨミ先生:世界の経済学者たちも驚いた 3) の。一方、最低賃金引き上げと車の両輪で、イギリス政府ががんばっていたことがあったの。
リッちゃん:なんですか?
キヨミ先生:企業の労使への研修です。
ケンくん:労使って?
キヨミ先生:「労」は労働者のこと。「使」は使用者つまり経営者のことね。日本でほぼ知られていないけど、ACAS 4) という労使のもめごとの仲裁等のほか、労使に生産性向上の研修 5) を行うイギリス政府の専門機関があります。日本語の解説 6) もあります。
リッちゃん:研修をしないわけにはいかないのですか?
キヨミ先生:もし企業で研修をしないと最低賃金引き上げという圧力に対応できなくなる。でも、研修をして労使で一緒に生産性を高められれば、企業の競争力があがり、国際競争力も上げられるの。そして、政策のコミュニケーションとしてもイギリス政府は面白いの。最低賃金ブログや最低賃金ツイッターアカウントを政府が開設して、国民と一緒に盛り上がっているの。
ケンくん:イギリス政府はイギリス国民にみんなの最低賃金政策だよと熱心に発信しているのか... 日本政府の最低賃金のブログやツイアカなんて見たことないよ... キヨミ先生、ところで、最低賃金政策は経済以外にも効果があるのですか?
キヨミ先生:あります。最低賃金を導入したイギリスでは低賃金労働者のうつの改善に寄与したこと 7) や、 アメリカでは最低賃金引上により、低出生体重児(生まれた時の体重が2,500g未満の新生児のこと)の誕生を1%〜2%削減し、乳児死亡率を4%削減した 8) という医学研究もあります。
リッちゃん:健康対策や少子化対策にも最低賃金政策が効きそう。というか、病んでいる人も多い今の日本で、やらない手はないんじゃないか...
キヨミ先生:もしイギリスみたいに、どんな人であろうと問わずに、みんなの最低賃金が全国一律で毎年上がる日本になったらどう思う?
リッちゃん&ケンくん:なんか景色が違って見えはじめました...
キヨミ先生:最低賃金の過去(第一回)、現在(第二回、第三回、今回)ときて、第五回はいよいよ最終回、「最低賃金の未来」をやるので、お楽しみに!!
(キンコーン カンコーンとチャイムがなる)
【参考文献】
1) ボヘミアン・ラプソディ
http://www.foxmovies-jp.com/bohemianrhapsody/
2) 『日本人の勝算』(デービッド・アトキンソン)
https://str.toyokeizai.net/books/9784492396469/
3) 世界屈指の経済学の研究機関、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)教員らによる最低賃金引き上げが生産性向上となることを考察した論文("The UK National Minimum Wage’s Impacton Productivity")
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1111/1467-8551.12171
https://blogs.lse.ac.uk/businessreview/2017/01/18/national-minimum-wages-improve-productivity/
4) ACAS
https://www.acas.org.uk/
5) ACASの労使に生産性向上の研修
https://www.acas.org.uk/index.aspx?articleid=5283
6) 企業に「社員教育を強制」するイギリスの思惑 最低賃金引き上げに「スキルアップ」は不可欠 | 国内経済 - 東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/270909
7) Introduction of a National Minimum Wage Reduced Depressive Symptoms in Low‐Wage Workers: A Quasi‐Natural Experiment in the UK
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5396382/
8) The Effect of an Increased Minimum Wage on Infant Mortality and Birth Weight
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4940666/
第一回:最低賃金の現況の概略や起源について
第二回:現状の最低賃金制度がどのような問題を引き起こすか
第三回:最低賃金が国家経営に大きく関わっていく
第四回:最低賃金政策で世界の最先端を行くイギリス
最終回:参院選2019の各党公約から見る、最低賃金政策の未来
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