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2024年/年間ベストアルバム10選
ZAZEN BOYS 『らんど』
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向井秀徳を中心としたオルタナティブロックバンドのおよそ12年ぶりとなるニューアルバム。プログレやハードロック、インディーロックなどこれまでのZAZEN節を踏襲しながら、バンド史上最も分かりやすく切ないメロディが盛り込まれた復活作。リリース当初はM10「永遠少女」で描かれた戦中の生々しい描写がクローズアップされていたが、他にもM9「ブッカツ帰りのハイスクールボーイ」でエモーショナルなメロディと共に歌われる "部活帰りの高校生が雨の中、冷めたから揚げを食う" という、永遠に日本のどこかで繰り返されていそうな普遍性にフォーカスするなど、向井さんの感性には驚嘆するばかり。
お気に入り:ブッカツ帰りのハイスクールボーイ
Forbear 『8 Songs』
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元Blue Friendとastheniaのメンバーもいる4人組オルタナティブロックバンドによる2ndアルバム。90'sなゴリっと歪んだギターにフロントの男女がそれぞれボーカルをとるスタイルで、前作、前々作ではシューゲイザー要素の強い、淡くてふわふわしたギターが特徴的だったが、今作はGirls Against Boysや中期Cave Inのようなもう少し尖ったポストハードコアに進化。またCDのみ収録されているボーナストラックでは収録曲をエレクトニカで再構築した楽曲が入っており、バンドが持つクリエイティブの新たな側面を覗いた気がした。下北沢で行われたリリースライブでも、その演奏力とボーカリスト二人の作る世界観は遺憾なく発揮されていたので今後も活動が楽しみなバンド。
お気に入り:The Fiend
GodSpeed You! Black Emperor 『NO TITLE AS OF 13 FEBRUARY 2024 28,340 DEAD』
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GY!BEの8thアルバム。意味深なタイトルは「イスラエルによるガザでの戦争で保健省が報告したパレスチナ人の死者数を指している」(販売元 提供資料より)とのことで、聴く前は若干身構えたりもしたが、フィールドレコーディングやインタビューのコラージュを交えたり、轟音でアジテートするといった安直なメッセージ性は皆無で、むしろ明るいメロディやキャッチーなリフが多く「救い」を感じるような名盤。基本インスト主体で長尺なので、聴く側もある程度集中力を求められるが、今作は近年の作品で最も表情豊かな楽曲が並んでおり非常に聴きやすいと感じた。それぞれ聴いた時のタイミング・状況にもよると思うが、個人的には今作が活動再開以降のベストアルバム。
お気に入り:BABYS IN A THUNDERCLOUD
Beth Gibbons 『Lives Outgrown』
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トリップホップで一時代を築いたPortisheadのボーカリスト、Beth Gibbonsがようやく完成させた初ソロアルバム。制作にあたり、ブレイクビーツから距離を置きたかったという彼女は、録音にパエリア皿、金属板、ミキシング・デスクの一部、牛革の水筒、カーテンの詰まった箱で組まれたドラム・キット(どこかの解説から引用)を使用した結果、オーガニックでこもったビートが特徴的な不思議な音像に。他にも子どもの合唱や、チェロ、ヴィオラ、ヴィブラフォン、ペダル・スティール、フルート、クラリネットなど幾重にもなった楽器のレイヤーが楽曲に厚みを持しており、聴けば聴くほど味がするというスルメ作に仕上がっている。もちろん彼女の持ち味でもある陰鬱で希望もクソもなさそうな歌声は相変わらずで、Portishead期から年を重ね、ねっとりと厚みの増したそれはもはや神々しくも感じた。
お気に入り:Reaching Out
Letting Up Despite Great Faults 『Reveries』
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米国LA出身ドリームポップバンドの5thアルバム。前作『IV』でハマって以来、旧譜も全て遡って聴いたが、今作はバンド史上最もポップネス含有量が多い作品になっている。一音一音が煌めき、暖かい思い出の数々を淡いカラーフィルター越しに覗いているような正にドリーミーな楽曲群。元々ポップな曲調にエレクトロニカやシューゲイズの要素を組み込んだオタクみの強いイメージだったが、今作はキーボードのアナがリードヴォーカルを務める比重が多く、彼女を中心に据えたことでアルバム全体の統一感も生まれ、バンドの方向性がより明確になったかもしれない。去年も来日公演をしているほど国内人気のあるバンドなので、また来年あたり来てくれないかなぁと期待。
お気に入り:Color Filter
老人の仕事 『st』
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国内ドゥーム/スラッジ系の中でも異彩を放つバンド、老人の仕事の最新作。今作も過去作同様インストゥルメンタル主体の長尺曲が3曲収録。ただし、これまでになかった展開へのアプローチやゲストアーティストの参加など、バンドとしての成熟と同時に新たな挑戦も。特にゲストボーカルの歌と叫びが入り混じったインプロ唱法と、チェロ奏者の荘厳なメロディの両方が波状攻撃のように押し寄せるM3「延々試みる延々省みる延々」では、彼らに今まで抱いていた土着信仰的なイメージが一転、まるで漆黒に広がる宇宙で光の粒子を浴びるようなカタルシスを感じた。フィジカルリリースが蔑ろにされがちな昨今、金箔押しの特殊印刷が施されたペーパージャケットも、バンドのこだわりが感じられて◎。(サブスクなし)
お気に入り:延々試みる延々省みる延々
踊ってばかりの国 『On The Shore』
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3年ぶりの9thアルバム。サイケデリック色を持ち味としながら、轟音やフィードバックノイズに頼らず、あくまでも歌とバンドのアンサンブルで勝負する彼ら。インタビューでも言及されてたが、今作はいわゆるロックフォーマットから飛び出した曲調(ジャズやハワイアンなど)が多く、全体を通じてもジャケットやタイトルから想起されるような「海」を感じる作品になった。こうして常に挑戦を続けて新たな引き出しを開けることが、バンドの成長と表現力のレベルアップにつながっていると考えると、まだまだ伸びしろを感じるし、これからもずっと楽しみにしていたいバンドの一つ。仕事中、移動中、家事をしながらなど、色々なシチュエーションで聴いた2024年の中でもダントツに思い出深い作品。
お気に入り:兄弟
The Messthetics and James Brandon Lewis 『st』
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FugaziのベーシストJoe LallyとドラマーのBrendan Cantyに、ギタリストにAnthony Pirogが加わり結成されたThe Messtheticsと、サックスプレイヤーのJames Brandon Lewisによるコラボレーションアルバム。大好きなJoe Lallyのベースプレイを堪能できるポストロックサウンドにサックスが絡みつく作風が痺れるほどカッコ良い。ところどころFugaziの『The Argument』期の片鱗が覗いたり、ジャズ純度100%なインプロから急にロックなリフと8ビートに展開したりと、全編カラフルで実験性に富んだ非常に充実した作品。国内の認知度は不明だが、円安の今こそ旅行ついでに来日公演してほしい。
お気に入り:Fourth Wall
bacho 『Boy Meets Music』
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姫路のbachoが9年ぶりに完成させた待望の2ndアルバム。ギターの轟音で幕を開けるM1「Feeling Down」から、シングルでリリースされていたM2「萌芽」、タイトルトラックとなるM3「Boy Meets Music」まで、頭の3曲からすでに今作の充実ぶりが伺える。その後もbachoらしい感情を揺さぶる楽曲が連なり、やる気と勇気と平和に満ちた11曲56分。ギターボーカル欽也さんの熱い歌声と鼓舞する歌詞が注目されがちだが、今作を聴いて改めてギターの多彩な引き出しがバンドの肝になっていると感じた。前作『最高新記憶』では比較的カチッとしたリフが多く、勢いのあるギターロック然としていたのに対し、今作はよりダイナミックでファジーなギターサウンドに変化。ただしメロディは以前にも増してドラマチックになっており、シューゲイザー/ポストブラックメタルの影響も感じた。今のところ新作は、ライブ会場でしか販売しないそうだが、日本のロック史に残るような大名盤なのでぜひ一人でも多くの人に手に取り聴いてほしい作品。(サブスクなし)
お気に入り:萌芽
bed 『(slowly)To Flow』
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京都のオルタナ/インディーロックシーンを長年牽引し続けるバンドの8年ぶりとなる5thアルバム。勝手に派手なリフや万人向けのキャッチーさとは無縁なバンドという印象を抱いており、そのせいでどこかbedの楽しみ方を掴みあぐねていたのだが、今作はオープンニングトラック「つなげて」から心地よく耳に馴染んで驚いた。むしろここまでキャッチーで調子の良い音楽を、高水準で連発していたことに今更気づいたのかもしれない。またミディアムテンポでズンズンと小気味良く展開される曲調が、今の自分の生活スタイルや目に映る風景に綺麗にハマったとも言える。聴くたびに気付かされる2本のギターが織りなす美しいアンサンブルや、日常会話のような飾らない日本語歌詞まで何もかもがフィットした。日課の散歩とも相性が良く、気づけば2024年秋〜冬に欠かせない愛聴盤に。
お気に入り:つなげて