
2021年/年間ベストアルバム10選
のっぺら “丸刃”

この秋、ツイッターで路上ライブの動画を見かけて以来、すっかり魅了されてしまった自分的2021年一番の収穫。かすれ気味でハスキーな歌声の小棚木もみじさんを中心に、アコーディオンを含むメンバーの牧歌的でかつ狂気じみた演奏は、ローファイの中に滾る謎のエネルギー源が感じられとても尊い。音源を聞いているうちに、居ても立っても居られなくなってライブに行く、なんて何年振りだろう。ロック/ポップスを軸に、ヒップホップ〜ブルースだったり、ジャンルを跨いだ個性的な楽曲が多く、また不思議なフレーズが目白押しの歌詞も含めて、個人的に令和の「たま」を感じた。
お気に入り:Track 9 / キャベツ
ピーナッズ “ハッピーセット”

東京八王子拠点、男女混声ポップパンクバンドの1stミニアルバム。7月にリリースされたこの作品を、その後、年間通してこんなにヘビロテするとは、もはや自分の琴線とは一体。きっと10~20年前であれば全く響かなかったであろう彼らの歌う一語一句が、キュンしてキラキラとても眩しく、もはやその初々しい曲名だけでも泣きそうになる。お気に入りのTrack5 '守ってあげたい' がキラーチューンすぎて、聞くたびに身体中の水分を持っていかれるので、自分のような加齢で浮腫んだ全アラフォー必聴。
お気に入り:Track 5 / 守ってあげたい
志人 “心眼銀河-SHINGANGINGA-”

トラックメイク〜唄/ラップ、装丁や歌詞カードのデザインまで手に取る全てが志人のセルフプロデュースによって完成された自主制作盤。「80年代から90年代のYAMAHA機材によって作られた」バックトラックは、スペーシーな浮遊感に満ちており、後期フィッシュマンズのようなダブ/ドラッギーな印象も受けた。そして、志人の唄とラップの合間を漂うようなフロウは、ますます流麗さに磨きをかけ、もはや徳の高い高僧の念仏のように。降神の時のような毒や即効性のあるパンチラインは無いが、アルバム通して耳触りが良く、仕事中にも程よい集中力を生んでくれた中毒性の高い名盤。
お気に入り:Track 9 / 夢遊趨-Gun Lap Run-
LOW “HEY WHAT”

スロウコア/サッドコアといえば...で必ず名が挙がるバンドとして90年代初頭から活動している彼らの通算13枚目となるフルレンス。近年は上記のサブジャンルでは括りきれない実験的でクリエティブな作品を多く生み出しており、毎回新作が出るたびに「彼らの今」にワクワクさせられる。前作から本格的に取り組み始めた歪んだ音割れノイズを使用した楽曲に、今作では更にクリアな歌声の共存に挑戦している。自分はその耽美と醜悪が表裏一体となった音像に、森田童子をノイズカバーしたSlap Happy Humphreyを思い出した。夜の散歩道を豊かにしてくれた素敵な一枚。
お気に入り:Track 3 / All Night
踊ってばかりの国 “moana”

近年、自分が一番好きなサイケデリックロックバンドの新作は、4年前に加入したギター2人が更にバンドに馴染み、熟成され、よりエロい音が充満した名盤となった〜以上。で締めたいくらい、曇りのない快作。ヴォーカル/ギターの下津さんが歌う青臭くキザで不器用に真っ直ぐな歌詞は、時折、鼻について、また時折、深いところまで刺さるため、それがかえって人間臭く、まるで切っても切れない肉親の誰かのように自分の日常に溶け込んできた。前作に引き続きレコ発ワンマンにも行った2021年思い出の一枚。
お気に入り:Track 3 / Lemuria
QuiQui “もう少しの暦”

岐阜県羽島をベースに活動中のエモ/スクリーモバンド待望の1stアルバム。これまでにもデモなどをまとめた編集盤がリリースされていたが、バンドの奏でる音像のアップデートが凄まじく、自分の期待を大きく上回る作品となった。基軸にあるスクリーモの刺々しさに、変拍子と叫び声、ジャズやヒップホップのエッセンスをねじ込んだような楽曲は不思議とポップで耳に残るフレーズも多く飽きがこない。お気に入りで取り上げた 'もう少しの暦' に関しては、同バンドが奏でているとは思えないくらいただの「優しい名曲」で、その振れ幅の大きさに今から次回作が楽しみ。
お気に入り:Track 13 / もう少しの暦
宇多田ヒカル “One Last Kiss”

今年人生で初めて「同じ映画を観直すために映画館に通う」を経験した。当初「シン・エヴァンゲリオン」にそこまで大きな期待を寄せていたわけではない。しかし、とりあえず抑えておこう程度の気持ちで観たそれの、エンドロール直前、絶妙なタイミングで挿入されたこの楽曲に、自分はフルスイングで頭を振り抜かれた気がした。エヴァンゲリオンにそこまで思い入れのないライトなファンだった自分が、あのカタルシスをもう一度味わいたいと映画館に再訪するきっかけとなった彼女の歌声の魔力よ。来年発売の新譜にも期待。
お気に入り:Track 1 / One Last Kiss
Bongzilla ”Weedsconsin”

2009年解散から2015年再結成を経てようやく完成した待望の新作。相変わらずカバーアートから曲名までストーナーメタルの旨味たっぷりの出来に、改めてPsyhedelic/Stoner文化の普遍性を痛感。何より、煙もアルコールも無縁の自分がここまで心地良くなれるということは「合法的に耳からGet Stonedすることは可能」という証明だろう。お気に入りに選出した15分越えの長尺酩酊ソングが今作のハイライトで、その後に続く最終曲中、ずっと人々の笑い声が収録されているのは細かい描写が丁寧で面白かった。
お気に入り:Track 5 / Earth Bong, Smoked, Mags Bags
betcover!! “時間”

どうやら柳瀬二郎という人のプロジェクトらしい。何がきっかけだったか、偶然耳にして以来、仕事中や外出時の程よいチルが欲しい時間に良く聴いた。ロックやサイケデリック、フォークだったりジャズだったりビッグバンドなど、とにかくごった煮のサウンドながら不思議と統一感があり、気づけば歌詞も頭に入っている。きっとググればもっと彼についてルーツだったり、個人的な情報がテキストで転がっているのだろう、でも知らないままでも音は心地良いし、歌は空でも歌えるようになっている。在宅勤務にも慣れ、情報を拾わない選択も身に付いた今だからこそ、素敵なアーティストとの出会いに感謝。
お気に入り:Track 4 / 回転・天使
Pink Sweat$ “Pink Planet”

頭からつま先までピンクで甘くぽっちゃり太ったシンガーソングライターの1stアルバム。2018年リリースの 'Honesty' が音数絞りまくったバックトラックにトロトロの直球ソングで最高だったので、以来、今か今かと待ち続けてようやくリリース。多くのセレブが愛してやまない(であろう)分かり易く甘酸っぱいラブソング 'At My Worst' を筆頭に、とにかく良曲の詰まった名盤。中にはBlack Lives Matter運動に反応した真撃な曲もあり、埋もれた才能探しがちな自分に自戒を込めて「オーバーグラウンドと侮るなかれ」
お気に入り:Track10 / At My Worst