聴覚障害
突然だが、私には聴覚障害がある。
発覚したのは中学生の時。健康診断の聴力検査で、保健の先生が「あれ?サキちゃん、あんまり音が聞こえてないんじゃないの。」と気づいてくれたのがきっかけだ。
その後大きな病院で聴力検査をし、軽度難聴と診断されてから早20年。
聞こえてるんだか聞こえてないんだかよくわからない世界を、愛想笑いで乗り切ってきたような気がする。
人の言葉がうまく聞き取れない私は、話者の口の動きを参考に音を読む。
コロナ禍の全人類マスク着用時代は死ぬほど苦労した。それでも、場の状況や話者のキャラクターをもとに”言いそうなこと”を想定することで、何とか乗り切ってきたと思う。
特に大阪にいたときの会社は長く勤めさせてもらったこともあり、想定の聞き取りで乗り切れるほどには環境に適応できていた。だから気づかなかったのだけれど、福岡の会社に転職後、思った以上に周囲の言葉が聞き取れず、「あれ?悪化してる?」と嫌な予感がした。
そこで、退職して持て余している暇を使って、数十年ぶりに耳鼻咽喉科を受診することにした。
・・・・・
「う~ん、中等度の難聴だねぇ。」
Dr.は、聴力検査の表を見ながらそう言った。
「ちょうどね、この50dB…人の話し声の大きさがこれくらいなんだけれど、そこが聞こえづらくなってる。日常生活にちょっと不便を感じるようになってきたでしょ?僕は、両耳に補聴器をつける生活を始めることをお勧めするかな。」
予想はしてたけど、やっぱり悪化してたかぁ、と軽くショックを受ける私。
「補聴器ですか…」と言うと、先生は「うん。早めに補聴器に慣れていたほうがいいんじゃないかなと思うよ。費用はかかるけどね。中等度だと自治体によっては補助を出しているところもあるけれど、福岡市は補助が出ないんだよなぁ。」と、残念なお知らせをしてくれた。
そういえば6月に見に行った歌舞伎、前から5番目ぐらいの席だったのに、役者さんのセリフがほとんど聞こえなかったな・・・
などと回想しながら、私はDr.が紹介してくれた補聴器専門店を尋ねた。
補聴器専門店では店員さんが聞こえの検査などをしてくれて、私の聴力にあわせた補聴器を用意してくれた。
それを着用したところ
「・・えっ!?世の中ってこんなに音してたの!?」
32歳にして世界のにぎやかさに衝撃を受けたのであった。
なんかねぇ。脳みその認識領域がぶぁー!と広がるみたいな。耳の視界が開けた感じ!
なんてすごいアイテムなんだ補聴器!!
と、価格表に目をやったところ、両耳470,000円という表記が。
高っっかぁ!!!!
性能が高い奴は1,000,000円するやつもあった。無理無理無理…
こんなに費用がかかるなら、なくてもいいかなと思ってしまったり。
とりあえず補聴器をレンタルし、補聴器のある生活をしている今。
会話には便利な反面、音が聞こえすぎてしまうことが辛すぎる。
レンタルしているのが耳掛式というせいもあってか、髪の毛がこすれる音を拾ったり、大きな音がした時に反響音を拾ってくるから方向感覚がわからなくなったり…
あとは自分の声がハウリングして、扇風機に話しかけたときの音みたいになるのが気になる。
何を隠そう、私は聴覚障害のくせに聴覚過敏なのである。
聞こえてくるたくさんの音が嫌すぎて、もしかして自分の聴覚障害は神様からのギフトだったのではないか?とすら感じる。
補聴器、買うべきかなぁ。高いなぁ。
買うとするなら耳掛式か耳穴式かも迷う。
耳穴式はレンタルできないらしいのだ。
店員さんに「私ぐらいの年代の人って、どの補聴器を選ばれてますか?」と訊いてみた。
「僕がこれまで補聴器を販売した中で一番若い人は66歳でした。」
サンプルがなかった。