久しぶりにときめいたけど
離婚してからというもの、恋愛とはほぼ無縁の日々を送ってきた。
マッチングアプリを試してみたり友達に紹介された人と会ってみたりと、多少動いた時期もあったが、結局しっくりこなくて今に至る。
元シェアメイトのユカさんからは「いけるいける!まだこれからやでぇ!」と励まされ、前職の上司からは「あんた!早く良い人見つけや!」と尻を叩かれ、地元の料理店のおばちゃんからは「サキちゃん!次は良い人連れてお料理食べにきて」と言われ、「ハハハ、頑張りますぅ〜」などと乗り切ってきたが、なーんにも進歩がないまま32歳の夏を迎えた。
「習い事教室行けば?」とか「スポーツやってみたら?」と提案されると、その時はやってみようかな〜と思う。が、結局やらない。いつものことである。
そうなると日常生活圏での出会いしかないわけだが、私は変な人からロックオンされることが多い。
例えば運転免許を取るために自動車学校に通っていた時、送迎バスの運転手さん(推定60代)からガチアプローチされたり、1ヶ月で辞めた仕事では顧客(既婚・60代)からやたらとまとわりつかれたりした。
しんどい。昨今の60代元気すぎんか?
唯一出会いにカウントできそうなのは、福岡に帰ってきてからよく通うようになったお店のスタッフ(30代)から食事に誘われたことぐらいか。
60代は論外として、相手が同年代でまともそうなら食事の誘いくらい受けるべきかなと思ったけど、やっぱり嫌になってその店に通えなくなってしまった。
シンプルにタイプじゃなかった。
タイプがどうこう言える年齢でもないことは、分かっているはずなんだけど。
話してみたら意外な一面が見えるかもしれないし、恋愛相手としてタイプじゃなくても家族としてはベストかもしれない。そしてそれを知るには何回も会って話してが必要というのは、理屈でめちゃくちゃ分かってるのに、「なんかちがう」と思ったらその先に一歩たりとも進めないのは、性格に難がありすぎますかね…はぁ…。
などと思い悩む日々の中、5月に染めて以来の髪のパサつきが目立ってきた。
福岡に帰ってきてから一度も行けてない美容室、新規開拓はめんどくさいなと思いつつ、ホットペッパーで見つけたある美容室を予約して、カラーと縮毛矯正を受けることにした。
7月にオープンしたばかりだというその美容室は、とても綺麗な内装で、新築の香りが残っていた。
席は半個室で、周りを気にしなくて良いのがありがたい。各席にはタブレットが完備されていて、fuluが見れたりdマガジンが読めたりする。
ほ〜、これは美容師さんと無理に会話しなくて良さそう!と喜んだのも束の間、担当の美容師さんはおしゃべりマンだった。
平野くん(仮名)というその美容師さんは、他者との間に壁を作らないタイプの人だった。
「僕ねぇ、最近フラれたんですよ」と、突然自分語りを始めた時はさすがに「初対面でその話する⁉」と思ったが、それが許されるタイプというか う〜んこの子なら仕方ないな!みたいな、誰にでも自己開示していく懐っこいタイプの人だった。
沖縄出身という平野くんは、学生時代のこととか、最近実家に帰った話とかをしてくれた。
残念ながらその話にはオチがなくてつまらない。が、そのつまらなさが逆に面白かったり、思いつくままにしゃべりすぎて脱線する話が面白かったりで、気づけば私は手元のタブレットも見ずに平野くんの話に大爆笑していた。
平野くんも人に笑ってもらえるのが嬉しいみたいで、「僕、こんなに笑ってもらえて幸せっすわ!」みたいなことを言っていた。
その言葉に私はなぜか不覚にもときめいてしまい、脳内がカオスに。久しぶりになんかこう、ピンク色の楽しさが…!
髪はほんとうに綺麗になった。
平野くんの腕は確かだった。
専門学校を出て美容師一筋でやってきたという叩き上げの実力者だけある。
私のフワッとした希望を汲み取り、見事に具現化してくれた。
そして私はこういう、一見チャラく見える人が専門分野に真面目に取り組むというギャップにめっちゃ弱い。
「またお待ちしてます!」という平野くんの声を背に私は帰路に着いたわけだが、電車の中で嫌なことに気づいてしまった。
平野くん、ちょっと性格が元旦那に似ているのである。
人との間に壁を作らず、懐に飛び込んでくるあの感じ。
とってもおしゃべりで自己開示が好きなところとか、人を笑わせたがるところとか、素直で感情がすぐに読めちゃうところとか、おちゃらけて見えるけど、ふと真剣な表情になるところとか。
そして何よりあのヘラっとした笑顔。
私は結構なショックを受けた。
元旦那と同じタイプ好きになってない?と。
あーゆータイプはやめて、穏やかな幸せを手に入れようと決意したんじゃなかったっけ?と。
久しぶりにときめいたことは本当に嬉しかった。
けど、この手のタイプをもう好きにならないって離婚したとき決めたはずでは…!?
思いのほかショックが大きく気持ちが落ち着かなくなったので、ユカさんに相談したところ、なぜかめちゃくちゃ笑われた。
そして、「そっちの道を極めるのもひとつちゃう?影はありそうやけど!」とグサっと刺さる一言。
そうそう。明るすぎる光には影があるんよ。その影にやられたのが元旦那との結婚生活だったんよ。
「結婚相手との間にはさぁ、クスッという穏やかな笑いがあればいいやんか。なのにサキちゃんは"爆笑"を求めてまうよな。爆笑はなぁ、やっぱり影とかほんのりした狂気が付きまとうでぇ〜」とユカさんは言っていた。
なんだか少しわかる気がした。
好きになるタイプって、気合いで変えられたりしないんやろうか。
などと考えながら、台風の風で斜めになってしまった庭の木をもとに戻しただけの1日でした。
はぁ・・・