ウソをつく習慣
●信ちゃんは、かしこい
信ちゃんは、見栄っ張りの子です。
ただ、ママが心配しているのは、ウソが多いことです。
この前もこんなことがありました。
お友達の真美ちゃんが、テレビでやっていたおもちゃについて話していた時のことです。
「信ちゃん、昨日のナニコレ珍百景でやっていたお水って、ここから1時間で行ける場所だって、知ってる?」
「知ってるよ。うちのママは、いつもそこのお水を買ってるんだ」
「えーすごい」
「毎日、ボク、そのお水飲んでるんだ」
「えーいいなあ」
「おいしいの?」
「すごく、おいしいよ」
「今度、飲ませてよ」
「ママがイイっていわないかも」
「えー、いいなあ」
「飲みたいな」
真美ちゃんママが、そのことを信ちゃんママに聞くんです。
「うちの真美が言ってたんですけど、信ちゃんママのおうちは、いつもあの幻の水を飲んでるって、いいですね」
「ウチの信ちゃんが言ってたんですか」
「美容と健康にいいらしいし、山からのお水はタンクに詰め放題らしいですね」
「そうあんですね」
信ちゃんのおうちでは、一度は飲んだことはあるけど、毎日飲むような習慣もなく、そこまで行く時間もないのでした。
こんなウソが、あまりに多いのです。
うちに帰って、ママは信ちゃんを呼んで、聞きました。
「信ちゃん、なぜ、うちに幻のお水がいつもあるように言ったの?」
「だって、真美ちゃんが、うれしそうにお水のこと話すから」
「でもね、実際と違うことを話すのをウソというんだよ」
「ウソは、いつかウソだとわかちゃうからね」
「ウソだとわかると、どうなるの?」
「それは、ウソをつく子は嘘つきだといわれ、お友達がいなくなっちゃうよ」
「それは、嫌だ」
「ボク、ほんとのことを言えばいいんだね」
やさしく話しているママでしたが、信ちゃんは何か叱られているような気がして涙が出てきました。
そして、ママに聞きました。
「ママ、ママって嘘つきなの?」
「えっ?」
「どうして?」
「だって、ママ、ほんとは今日、遊園地に連れってあげるっていたけど、行けなかったじゃない」
「それは、行けない理由を朝、信ちゃんに話したでしょ」
「じゃあ、真美ちゃんのママから携帯電話がかかってきたとき、今、自動車で向かっているから待っててっていってたじゃない。でもあのときまだおうちで着替えてたよ」
「いっぱい、いっぱい、ウソだらけだから、ママハは嘘つきだ!」
「・・・」
「ごめんね。ママも気を付けるからね」
その夜、ママは、信ちゃんに、イソップ物語「羊飼いの少年とオオカミ」のお話をしました。
●イソップ物語「羊飼いの少年とオオカミ」
イソップ物語に「羊飼いの少年とオオカミ」という話があったかと思います。
小さい頃に聞いた話で、うろ覚えですが、確かこんな話だったかと思います。
羊飼いの少年は、主人に言われて毎日毎日羊の世話をしていました。
村から少しだけ離れた森の近くの広場です。そこには、羊の餌となる牧草が豊富に茂っていました。
少年は、主人に言われた唯一の仕事を全うするのが毎日のすべてでした。
一日中、その牧草地で、羊を逃がさないように監視しながら、エサを与えることが、少年の仕事でした。
少年は、主人に言われていました。
「お前の仕事は、この牧草地で、羊をみていることだ」
「羊を逃がさずに、しっかり見るんだぞ」
「もし、羊を逃がしたり、オオカミに食べられたりして、数を減らせたら、ただではすまないぞ」
「かわったか」
「はい」
「ご主人様、お伺いしてもいいでしょうか」
「なんだ」
「もし、オオカミが来たら、どうしたらいいでしょうか」
「オオカミが現れた場合は、すぐに、村人に助けを求めるといい」
「村人には、そういう救急の場合の対応を頼んである」
「はい、わかりました
「オオカミが現れたら、村人を呼びに行けばいいんですね」
「そうだ」
このようにして、少年は、主人に「羊飼い」として雇われるようになったのです。
半年も過ぎたころには、もう要領を得て、羊飼いが様になってきました。
心配していた羊の逃走は、最初に豊富に牧草がある位置を確認して、先頭の羊をその場所に誘導さればいいだけで、あと慣れれば、少年には心配もなく造作もないことだったのでした。
また、に近い牧草地での羊飼いでしたから、森が隣りあわせでも、羊を襲うような動物はyりつくことなど滅多にないことでした。
「簡単、簡単」
「朝、羊を連れて、村から10分丘を登り、夕方、村まで戻ってくるだけだよな」
「あとは、向こうへ行ったら、のんびりできるよな」
「こんなラクな仕事で、お金がもらえるなんて、ラッキー」
少年は、羊の世話以外に、十分自分の時間ができたということで、その牧草地でできそうなことはほとんどしました。
「草花集め、牧草シャワー、牧草のフカフカベッド、牧草のトンネル、木登り、ターザン遊び、落とし穴掘りなどなど、思いつく楽しい遊びは何度も飽きるまでやりつくしたのでした。
1年もすると、一日中羊飼い以外何もすることもなくなってしまい時間を持て余すようになりました。
「なんか面白いことないかなあ」
「自分でやれる遊びは全部やってあきちゃったからなあ」
「だれか、ここに来ないかなあ」
「こないなあ」
この牧草地は、ご主人の敷地であり、誰もくることはなかったのです。
一人遊びに飽きて、誰も相手にしなボッチの存在に気づいたとき、少年は考えました。
「そうだ、だれかと絡んだら面白いだろう」
どうやって、自分以外の人と接触できるのだろうか。
「そうだ、村の人を驚かしてやろう」
「さぞかし、面白いにちがいない」
「どうやって、驚かそうか」
少年は考えました。
「どうやって驚かそうか」
「まず、村の人をびっくりさせることっていうと、なんだろう」
「僕ができることっていうと、・・・・」
「羊飼いの暇つぶしだからぁ・・・」
「村の人が驚くことは、っていうと・・・」
「そうだ、ご主人様が言っていた」
「たしか、オオカミが現れたら、村の人を呼びに行けって」
「呼びに行くと、村の人が助けてくれるって」
そして、実行しました。
「オオカミが来たー。助けてー」
普段から、ご主人様からの世話を受けて助けられた村人は、この声を聞いてすぐに動きました。
「オオカミが来た。と聞いたら、羊を守りに聞かなければ」
そういって、それぞれ武器をもって、牧草地まで駆けていきました。
30人ほどの村人が少年について駆けていきました。
村人は、牧草地を知っていますから、少年を抜いて先に行きました。
村人が先に羊のところに到着しました。
ところが、どうでしょう。
オオカミがいません。
それどころか、羊は、何もなかったのように牧草を食べているのです。
少年が、牧草地に到着したときに聞きました。
「どこにオオカミがいるんだ」
「いないじゃないか」
「どこからオオカミが来たんだ?」
「羊は全部いるのか?」
少年は、答えました。
「さっきは、いたんだけど」
「みんなの声を聞いてにげちゃったのかな?」
少年は、そう言いながら、心の中では、村人をだましたことを喜んでいるのです。自分
「これは面白い。みんな騙されてる。ボクに騙されている。やったー」
少年はいい経験をしました。
「人は、誰かとつながっていることを確認したとき、人と人との間、つまり、人間になれる」
「自分が主人公になったとときに、存在感が感じられる」
といわれます。
少年も、自分が「オオカミが来た」ということで、まわりを動かしたことで、面白さを超えた存在感を感じたのでしょう。
2回目のウソは、それから10日後でした。
「オオカミが来た」
と叫びながら、村に降りた時、同じようにご主人に頼まれた恩顧のある30人全員が、同じように牧草地に武器をもって集結しました。
少し遅れて少年がそこに到着しました。
「オオカミはどこにいったんだ」
「いないじゃないか」
「羊も食われた様子がないじゃあないじゃないか」
「・・・」
「おい、本当に、オオカミが来たんか」
「はい。あの森から、よだれを垂らしながら、ゆっくり、ボクの方にやって来て」
「ぼくは、びっくりして、みなさんを呼びに村に行ったんです」
「でも、どこにいる?」
「いませんね」
少年の高揚感は絶好調でした。
そんなよろこびを心に秘め、表に出ないように抑えながら、残念そうな表情をしました。
「オオカミが逃げてったんだ」
村人たちは思いました。
「主人様には、世話になっているが、こんな牧草地にオオカミが来るわけはない。そして、これまでも来たことなどない。少年はうそをついている」
村人たちは、少年に疑いをもちながら、村に戻っていきました。
そして、村人たちは思いました。
「少年は、自分たちを、暇つぶしの相手にして、面白がっている」
そして、次、「オオカミが来たー」と自分たちに助けを求めに来たら、行くふりだけにして、相手をしないようにしよう」と思ったのでした。
そして。
これまでにないことが起きたのです。
オオカミの出現です。
いつものように、少年は、牧草地で羊飼いをしていました。
そして、森のかげからゆっくりと現れたオオカミを最初は別の動物だと思っていました。
だって、オオカミが現れることなんて、これまで一度もなかったものですから。
羊たちが、いっせいに森と反対側に、駆けだしたときに、少年は何が起こったのかを知りました。
「オオカミが来たー」
「助けてください」
村に一目散に駆け下りて、村人たちに、叫びます。
「オオカミが来た」
「今度はほんとです」
「オオカミが来たんです」
「羊を襲っているんです」
「本当です。助けください」
どの村人も、少年の話をまともに聞こうとしません。
「はい、はい、わかったから」
「これから行くから、先に行って待ってな」
という感じです。
誰一人、少年の言うことを取り合わず、ゆったりしたもんです。
少年は、近くの長い棒を手にして、オオカミのいる牧草地に戻りました。
「オオカミめ、あっちへ行け」
と棒を振り回します。
オオカミは、羊で空腹を満たすために何匹か襲って口にしているところです。
そこを少年に邪魔されたわけですから、黙ってはおれません。
少年に跳びかかって、かみつきました。
その日の夕方、羊たちが戻ってこないのを気にした主人が、村人を牧草地に行かせました。
そこで、発見されたのは、血だらけで倒れた少年と食いちぎられた羊たちでした。
「ウソだらけでなければ、こんなことにならなかったのに」
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屋の出前
なぜ、ウソをつくのでしょうか?