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アジサイの正確な品種名が分からなすぎて丸一日調べる羽目になった

この前、こういうnoteを書いた。

花を育て始めたことの日記を書くつもりが、気がついたら防犯や社会の悪の話になっていて、肝心の花そのものの話がほとんど出てこなかった。どうして。

ので、今度こそは花を育てる話を書きたい。

花の正確な名前が分からない

梅雨の季節というものを子に体感してもらいたいと思い、この前アジサイを買った。近所のホムセンを複数巡っても見事に花がモリモリ満開な「解釈違い」のアジサイしか売ってなかったので、最終的にネットで苗を買いました。インターネットは無敵だ!

4月に満開のアジサイ、そういう特殊品種でないなら温室ハウス栽培で季節外れに咲かせたものであるらしく、場合によっては小さい鉢で花だけこじんまりとたくさん咲くように矮化剤なるものも使われているらしい。今咲いてる花が終われば今年はそれで終わり。ちゃんと咲かせるのは来年以降。(俺が子に見せたいのは)そんなんじゃ ねーだろ!

で、買ったアジサイの名前が「ラグランジア クリスタルヴェール」というまあまあお高いやつなのだが、
困ったのはこれがなんというアジサイであるかが分からないことだ。

クリスタルヴェールは言うなれば商品名だ。それはわかる。ラグランジアは…これも商品名というか園芸品種としての名前?

公式サイトには「分類:アジサイ科アジサイ属」「学名:Hydrangea hybrid」と書かれている。なんか範囲が広すぎない?

よく読むと「ローメンテナンスなハイドランジアです」とも書かれている。ハイドランジア、つまりセイヨウアジサイ……ってコト!?

ハイドランジア(セイヨウアジサイ)を品種改良したものという理解をすればいいんだな!よかったこれで解決した!

アジサイの分類は少々複雑で、日本原産の「ガクアジサイ」を品種改良したものが、いわゆる「アジサイ」。それをヨーロッパで品種改良して日本に逆輸入したものが「セイヨウアジサイ」です。

アジサイ(セイヨウアジサイ)(Hydrangera macrophylla ) | 植物図鑑 | 御勅使南公園

分からなくなってきました。

整理しよう

調べたことの結論だけを書くとこうらしい。

調べるのつかれた

我々が通常イメージする「アジサイ」は、こういうのだと思うんですけど、

こういうアジサイ

これは和名で言うところのアジサイ、またはセイヨウアジサイのどっちかです。こんな風にまん丸に咲くタイプは手まり咲きというらしい。
以降、ややこしいので「和名で言うところのアジサイ」のことを「ホンアジサイ」と呼ぶことにします。

生物学的にはこのホンアジサイは、原種であるガクアジサイを品種改良して作られたもの…と言われているらしい(歴史が古すぎてよく分かってない)

これがガクアジサイ。手まり咲きが一番「アジサイ」って印象あるけどこういうアジサイも確かにたまに見る。

さらに我々がセイヨウアジサイと呼んでいるものは、ホンアジサイが18世紀末ごろに色々な経緯でヨーロッパに持ち込まれて品種改良され、後に日本に逆輸入されてきたもの。
つまり種としてはどれも同じHydrangea macrophyllaで、ガクアジサイが原種、ホンアジサイやセイヨウアジサイはその品種違い…

…ということになっていれば話は簡単だったのだが…

混迷を極めるアジサイ命名の歴史

事の発端は、1784年つまり江戸時代に日本に来て、ホンアジサイの学名を一番最初につけた学者C. P. Thunbergカール・ペーテル・ツンベルク来日したときにガクアジサイの存在に気付かなかったのか、手まり咲きのホンアジサイの方にだけViburnum macrophyllumって名前を付けちゃったこと。
葉っぱが大きいガマズミ属、みたいな意味らしい。アジサイ属とも思わなかったんだね(アジサイ属自体は1750年ごろにアメリカで発見され既に命名されていた)

その後、1830年つまり江戸末期には、フランス人の学者N. C. Seringeニコラ・シャルル・セランジュが「こいつはViburnumガマズミ属じゃなくてHydrangeaアジサイ属ですね」と主張したので、ホンアジサイの学名の前半が変更されHydrangea macrophyllaになった(後半は中性名詞から女性名詞に変化してるだけらしい)。
学名は早い者勝ちなのでmacrophyllaの部分はもう変えられんのだ。

実はこの1年前に、アジサイ大好きシーボルトがガクアジサイに対してHydrangea azisaiという直球の学名をつけていたのだが、お互いすれ違ってしまったのか、気づいてなかったのか、このときはホンアジサイとガクアジサイは別種ということになっていた。

ややこしくなったのは、そっからだいぶ経って1923年に、E.H.Wilsonアーネスト・ヘンリー・ウィルソンが「ガクアジサイはホンアジサイの変種ってことにした方がよくない?」と主張したからで、ガクアジサイにHydrangea macrophylla var. normalisという学名を付けた。
var.は変種という意味。normalisはノーマルな、正規の、みたいな意味なので、ウィルソンは本当はこっちが原種だと分かってたと思うけど、先にホンアジサイの方に学名がついちゃってるからこういう形にしかできなかったんだろう。
で、命名規則により自動的にホンアジサイの方の学名もHydrangea macrophylla var. macrophyllaになった。ややこし!

さらに時は流れ、1955年に日本人の原寛が「これは変種じゃなくて品種違いです」と主張したので、
ガクアジサイの学名がHydrangea macrophylla f. normalisになり、
ホンアジサイは自動的にHydrangea macrophylla f. macrophyllaになった。
f.は品種という意味。var.よりもっと些細な違い。

ガクアジサイが原種で、ホンアジサイは品種改良されたもの…とされているものの、学名的にはホンアジサイの方が基品種でガクアジサイがその品種違いみたいになっちゃった…けどガクアジサイの品種名にはnormalisとこちらが原産なんですよと言わんばかりの名前がついた…。

セイヨウアジサイの方は

セイヨウアジサイもまた変な歴史的経緯があって、まず18世紀末ごろから、複数の植物学者や冒険家が相次いで中国などで見つけたホンアジサイをヨーロッパに持ち帰ったのが始まりとされるらしい。
なんで日本のホンアジサイが中国にあったのかは分からない。

このときの発見者の一人Philibert Commerçonフィリベール・コメルソンは、モーリシャス島にあった中国産植物の栽培園で見つけたホンアジサイを、新種だとしてHortensiaという属名を提案した。なんかよく分かってないけど知り合いの女の名前なんだって。誰よその女!
標本を受け取ったLamarckラマルクは、コメルソンの考えた属名に従って種の名前をHortensia opuloidesとした。
でも後にこいつは新種ではなく日本のホンアジサイであることが分かり、アジサイ属というのも既にあったので、早い者勝ちルールによりこの名前は属名ごと消えた……

かに見えたが、セイヨウアジサイの学名は最終的にHydrangea macrophylla f. hortensiaになってる。女の名前がずっと残ってる~~~~!!!誰よその女~~~~~!!!
学名を見る限り、ガクアジサイやホンアジサイの品種違いということになっているみたい。

ちなみに学者名も含めた学名は

学名、本当は命名に携わった人の名前も併記するものらしい。
学者名も含めたガクアジサイの学名は、
Hydrangea macrophylla (Thunb.) Ser. f. normalis (E.H.Wilson) H.Hara

なっっっが

つまり、おれの買ったアジサイの名前は?

セイヨウアジサイでいい!!!!

ちゃんとHydrangea macrophylla f. hortensiaという学名もついてるので、「このアジサイの品種は何?」って聞かれたら「セイヨウアジサイ」でいいんだ!!!!!

トコナツナデシコもめっちゃ混乱した

ナデシコが欲しいと思って買った、トコナツナデシコ「フォーエバー」。
フォーエバーは品種のブランド名というか商品名というか。トコナツナデシコは…俗称なのかな、まあナデシコの一種なんだな。

これ。

ナデシコって日本人ならその名前は絶対知ってるのに、実物がどんなのか知らなかった。こういう見た目の花なんだなあ。

こいつも正確な学名を調べてみるか。

江戸時代に日本でセキチクを改良して作出された品種群。花期はほぼ通年。トコナツの名は四季咲き性であることから。
 【セキチク】Dianthus chinensis L.  石竹 (セイヨウナデシコ)

トコナツ Dianthus chinensis var. semperflorens ナデシコ科 Caryophyllaceae ナデシコ属 三河の植物観察

セキチク!?!?!?!?

セキチク!?!?!?!?

俺が買ったのは、ナデシコではなく、セキチク!?!?!?!?

調べた

日本ではナデシコ科ナデシコ属の花が雑に大体ナデシコと呼ばれてるが、
日本でドンピシャのナデシコ、あるいはヤマトナデシコと呼ばれるのは、学名でいうカワラナデシコ(Dianthus superbus var. longicalycinus)のことらしい。

これ。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4f/%E3%82%AB%E3%83%AF%E3%83%A9%E3%83%8A%E3%83%87%E3%82%B7%E3%82%B3_Dianthus_superbus_var._longicalycinus.JPG

var.がついてるってことはなんかの変種だ。
エゾカワラナデシコ(Dianthus superbus var. superbus)の変種らしい。

一方俺が買ったトコナツナデシコ(実際にはセキチク)の学名は、Dianthus chinensis var. semperflorens.
…種がもう違うじゃん!!!!chinensisつまり中国?
(調べた)起源がよく分かっていないが中国原産らしい。セキチクの別名は唐撫子カラナデシコ。やっぱりナデシコなの!?
そのセキチクを、江戸時代に日本で品種改良されたとされるのがトコナツ。またの名を四季咲きナデシコ。だからナデシコなのかセキチクなのかどっちなの!
ナデシコ属(Dianthusダイアンサス)!それは間違いないね!!!

子にこれがナデシコだよってめっちゃ説明したよお…正確にはセキチクなのか…なんで商品名にトコナツナデシコって書いてたんだ…いやナデシコ属だし他のナデシコとも自然交雑するらしいから広義にはナデシコでいいんだろうな…

ガーデニングブームが到来した江戸時代に、国産のカワラナデシコと中国産のセキチクを交雑して色んな品種のナデシコが生み出されていった、とされるらしく、じゃあやっぱり感覚としてはセキチク=ナデシコなんだね…

ちなみにカーネーションもナデシコ属ですが、カーネーションのことはナデシコって言わねえよなあ。
あ、オランダナデシコって言うこともある?え、オランダセキチクとも言うの?セキチク!?!?!?!?!?

そもそもなんでこんな一生懸命名前を調べてるかというと

植木鉢に名前を書いときたいんだよね…。

道端で、草花を見つけたとき、
「わーきれいな花だなあ。名前は…わかんないけど…」
「あ、色んな家でよく見かける花だ!…なんていう花なのかな…」みたいな経験無い?あるよね?あるある。多分大体の人はチューリップとパンジーとアジサイしか分からない。

例えばさ、これとかさ、よく見るよね。めっちゃ見る。人生で何万回と見てると思う。なんていう花なのかな?分かんない。

マーガレットです。

マーガレットって名前は絶対知ってるのに、この花も絶対見たことあるのに、分からない。無教養ぶりに悲しくなるよね。

だから「名前書いててくれ~」っていっつも思うんだよね。

じゃあ、とりあえず自分ちの花には自分で名前を書いておくべきでは?って思ったんだよね。
誰かが書いてたら、「うちも書くか…」って思う人増えるかもしれないじゃん。そういうもんでしょ。

ちゃんと観測したわけじゃないけど、我が家の前は比較的人通りが多いし、特に子供とかは結構花を見てるっぽいんだよ。だったらなんていう名前の花か分かった方が楽しいだろうなあと思った。

だから、「このアジサイ、ラグランジア クリスタルヴェールって名前らしいけど、実際のところなんていう種類のアジサイなんだろう…それが分からないと名前書けないな…」と思い至り、
そしてこの記事の冒頭につながります。

お前も花に名前を書かないか?

名前を書いておくだけで自分とその周辺人物の社会が俺にとってちょっとだけハッピーになる気がするんだよな。
ちなみに実際分かんない花に遭遇してそれが気になって仕方ない場合、グーグルレンズ使ったら一発で分かります。風情の無さ。

カフェラテかミルクティー買います いや、カフェラテの方がカラテが高まりそうなのでカフェラテにします