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ありきたりな片思いの話

 今朝急遽呼び出しがあった。「今から会えない?」
 大学からの付き合いで、私の人生で5本の指に入る大事な友人からの呼び出しを断る理由はない。
 連絡を受けて30分後、車を飛ばして集合場所に向かった。
 親友2人の近況を聞きながら、連絡を受けた時の違和感をぶつけた。「なんでここにいるのか」と。
 親友の1人は、私に遠慮がちに言った。「お前の元カノの結婚式に呼ばれたから。」

 彼女との出会いを今でも鮮明に覚えている。私が大学3回生の頃、前年に唯一単位を落とした授業を再履修していた時だ。私の同級生はおらず、とても不快に感じ、スマホを眺めながら教員の話を聞いていた。不意に前を向くと、これまで見たことがないくらい、綺麗な金髪の女の子が最前列で真剣に授業を聞いている姿が目に入った。
 その後の私の行動は理性を獲得する前の赤ん坊のようだった。授業後(ここまでは理性があったようだ)一目散に彼女のそばに行き、「髪の毛綺麗やね。」と声をかけた。後にも先にも初対面の人にこんな無礼な声かけをしたのはない。今思えばこの時から彼女に惚れていたのだろう。
 それ以降、付き合うまでの3ヶ月間は血の滲むような努力を重ねた。美容院に通い詰め、勉学やアルバイトに精を出し、挙げ句の果てには親友に身辺調査をお願いした。親友にはその本気度を褒められると同時に呆れられたけど。
 見事付き合うことができ、そこから1年間時間を共有できた。大学生活が有意義だと感じているのは他ならぬ彼女のおかげである。彼女は私にないものを全て持っていた。考える前に行動する。目の前の幸せを大切にする。好きなものには他のものを犠牲にしてでも熱中する。そんな彼女が眩しく、羨ましかった。付き合ってからは味気のない学生生活が一気に鮮やかになった。本当に楽しかった。
 そんな彼女が恐らく唯一受け入れられないものを私が持っていたのだろう。
 「二人の人生を自分一人で決めること」これは僕の専売特許だった。就活の際、地元に戻るか悩んでいたが、ゆかりのない彼女の地元に就職することを決めた。当時私は大学4回生で彼女は大学2回生。将来を見据えるには時期尚早で、彼女には荷が重すぎた。
何の相談もせず、報告だけした。相談しなかったのは、二人の関係性が以前より冷めていたから。私は不安だった。彼女が私を見捨てるのではないかと。連絡をまめ過ぎるくらいして、ずっと側に置きたがった。今思えば別れるまでの3ヶ月、彼女をパートナーとして見ていなかった。

 親友からの言葉に、彼女への想いが再燃しなかったといえば嘘である。しかし、不思議と安堵と感謝の気持ちが先に出たのは偽りのない事実である。付き合っていた時、彼女の地元の友人から「この子は長く人と付き合えない。何かと刺激を求めるから飽きてしまう。こんなに長く続いたのはあんたのおかげ。あんたラッキーだよ」と言われたことがあった。だから自惚れているのは重々承知だったが、彼女と別れて以降浮いた話を聞かなかった(怖くて聞けなかったのもあるが)ので、彼女の愛を吸い尽くしてしまったのかと自責の念に駆られていた。
 今日の結婚の報告を受けて、肩の荷が降りた。それと同時に彼女から「自分の人生に向き合って本気で考えろ」と言われた気がした。だって卒業後、彼女と最後に会った時の「ずっと私の地元にいるんじゃろ?またいつでも会えるな。」の言葉を馬鹿正直に受け止めて今日までいたのだから。

 もう君を思うことをやめよう。君の幸せも願わない。でも、いつか不意にあの1年間の
出来事を思い出して懐かしんでおくれ。

 愛すべき君へ。結婚おめでとう。

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