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わたしとコミケとマフィア梶田

わたしはオタクだ。
オタクにも種類があるが、わたしは二次創作をして同人誌を作るタイプのオタクだ。
同人活動をはじめたのは二十歳くらいからで、ジャンルを転々としながら十年以上は細々と同人誌を作っている。


それを前提に、先日のコミケの話を書くことにする。
※二次創作をするオタクの用語が説明なく出てくるが、オタクしか読まないものとして説明はしない※

わたしは現在、とあるソシャゲにはまっていて、それの二次創作をしている。
あまり大きなジャンルではないが、それなりに二次創作をする方はいるし、赤ブーでオンリーイベントはやってくれるし、わたしが作った同人誌も読んでもらえている。

しかしジャンルの傾向として、コミケのような大きなイベントに出る方は少なく、そのジャンルのオンリーイベントがあるときに参加する方のほうが多い。
最近の女性向けジャンルはそういう方が多いのではないだろうか。
特に今回のコミケは事前購入チケット制ということやお盆という時期、そして何より暑さや感染症の心配もあって、サークルも一般参加者もこのジャンルの参加者はほとんどいないのではないかと思っていた。

そんな中でコミケに出す本の部数アンケートをとったところ、コミケ会場が1%、書店委託通販が99%という結果となっていた。

98.8%だが四捨五入して99%としている

1%と書き方をしたが、正直に言えば1票である。
こんなの初めてだよ!!!

そしてコミケでは同じジャンルのサークルさんはひとつしかなく、わたしを含めて2サークルだった。
しかし直前にそのサークルさんが欠席となってしまったので、実質そのジャンルのオンリーサークルだった。
(ちなみに部数アンケートで唯一コミケ会場に入っていた1票は、欠席されたサークル主さんだった)
その時点で嫌な予感はどんどん高まっていく。

「一冊も手に取ってもらえないのでは?」

ということだ。

ありがたいことに、これまでの同人活動の中で、とてもとても少なくとも誰かしらには手に取ってもらえていた。
この大きな会場で、しかも100回目という記念の日に、まさかそんな。
でもそれはそれでめちゃくちゃ面白い思い出やん!

などと考えながら東京ビッグサイトに向かう。

なぜか会場に向かう途中でショルダーバッグの紐とバッグを繋げている金具が突然落ちて、セカンドバッグとなってしまった。
引っ張ったり衝撃が加わったりではなく、電車で座って膝の上に乗せていたバッグから金具がガタンと音を立てて落ちたのだ。金具はきれいにポッキリ折れているが、購入した日から直近まで激しくバッグを振り回した記憶もない。
手搬入だったのでもうひとつ大きなトートバッグを持っていてよかった。

今日はとてもいい日になる予感がした。
なんてったって今日いちばんのハプニングがあったのでもうこれ以上はないだろうと思ったのだ。
現地待ち合わせの売り子の友人に成り果てたセカンドバッグを見せて「どういうことなの」と言われた。
わたしもどういうことなのかわからない。

友人に手伝ってもらって設営をして、新刊もきれいに刷られていることにほっとした。

そして迎えた開始時間、何度経験してもはじまる瞬間のわくわくした気持ちは楽しい。
しかし人が来るわけでもなく、友人と喋りながらまわりをぼんやりと見ていた。

わたしのスペースはちょうど話題のサークルさん方が並んだシャッターがよく見える位置にあった。
あまりに暇すぎてずっとそこをぼんやり眺めていると、ダンボールでできた壁の向こう側に、ひょっこりと飛び出た頭が見えた。

マフィア梶田だ!!!!!

と友人とはしゃいでしまった。
ひとりだけ頭が飛び出ていたので本当に大きいのだなと思ったのと、裏方としてせっせと働いている姿を見て、なんだかいいものを見たなと思った。

それにしても本当に誰もひとが来ない。

そしてまたマフィア梶田さんが出てきた瞬間に勝手になんだか楽しい気持ちになる。
イルカウォッチングってこういう気持ちなのかなと思った。イルカをウォッチングしたいと思ったことがないので知らんけど。

そして結局、新刊も既刊も一冊も手に取ってもらえることはなかったし、スペースに来たのはお世話になっている印刷所さんとメロンブックスさんととらのあなさんだけだった。

暑いしお酒飲みいこ!!!!とはやめに撤収し、友人とお酒を飲み行った。

生キムチがめちゃくちゃおいしいお店で、明日仕事なんやけどなと思いながら6時間くらいぐだぐだと話しながらお酒をたくさん飲んだ。

それから店を出て酔い覚ましにと歩いていると、キッチンカーがいくつか出ている広場を見つけた。
日が暮れてもべたつくような暑さでもアルコールでふわふわといい気分の中、わたしたちはキッチンカーを吟味する。
かき氷、そういえば何年も食べてない!
と言いながらわたしはハイボールを注文した。

友人の抹茶味のかき氷を少しだけもらって夏の終わりをかんじながら、たのしかったね、と言った。

その日、何度も口をついた言葉だった。

一冊も手に取ってもらえなかったのはさすがにへこんでしまうが、それでも楽しかったのは本当だ。
友人が来てくれてよかった。
何ヶ月も前から準備をしていた新刊を無事に出すことができたし、マフィア梶田さんを見ることができたし、それぞれが好きなものにぎらぎらとしたイベントの熱気にふれることができたし、マフィア梶田さんを見ることができたし、友人とたくさん話をすることができたし、お酒はいつだっておいしい。

喋ったこともないし近づいたこともないしただ少し離れたところから見ていただけだが、マフィア梶田さんがいてくれてよかったと思った。
忘れられないわたしの夏の思い出だ。今後もコミケに参加するかどうかはわからないけど、これ以上に印象的なコミケはもう二度とないだろう。
わたしみたいな人間がいたことなんて彼は知らないし知らないでいいが、ありがとうございました。


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