今週末の日曜日、ユニクロで白T買って泣く
今週末の日曜日、私はユニクロで泣く。
いつも行く、イオンの4階に入っているユニクロで。きっと、震えながら白のエアリズムコットンオーバーサイズTシャツ(5分袖)を手に取って、泣く。
何の話か全くわからないと思うけど、今、たった今3時間前に起きたことを、心臓をばくばくさせながら、今日は書く。
私の家は、奈良にある。近鉄電車の快速急行が止まる駅。そして、家の94%を、地元の20代以下に開放している。(6%は私の寝室)(その話はまたいつか…)
その中で、最近よく遊びにくる18歳の青年がいる。以下「R君」とする。
3日前の夜。
R君が、アーバンリサーチの黒いリュックをごそごそしながら、私に言った。「僕、あさってバイトの面接受けるんです」
そして、リュックからノートパソコンを取り出して、小さな声で「志望動機とか、おかしいところないか見てもらえないですかね…」と言った。いいよと言うと、中くらいの声で「やった!」と言った。
R君の応募先はユニクロだった。全身が大変お世話になっております。何なら、今も着ております。
R君は履歴書を持参して、その場で面接するらしい。下書きしているパソコンのメモ帳には、こう綴られていた。
■志望動機
シンプルで合わせやすいユニクロの服をたくさんの人たちに知ってもらい、着ていただきたいと思ったから。
ユニクロの服をたくさんの人たちに……。それは大変難しいな。だってたぶん今、街頭インタビューで「ユニクロ知ってますか」って聞いたら、100人中99.999人がYESって言っちゃう。5人中4人が持ってるっていうデータもなんか見たことある。
「R君、これって本当?」
「えっ、どういうことですか」
いろいろつっこみ所はあるけれど、そもそもの部分を聞いてみた。
「本当の動機を知りたいな〜って。時給が良くてとか、駅チカで…とか。私が聞いてると思って、ふつうに答えてもらえると嬉しい」
「あーー、それで言うと、ユニクロの○○店は、ここと学校の間にあるんですよ、だからいいな、って」
「ふーん、…いいなっていうのはー?」
「まあ、通いやすいなとか、友達呼びやすいなとか」
「あ、いいな。R君とこ行こうぜーってなるもんな」
「へへ、照れますけどね」
「私も行くわ。色とかサイズ迷ったら、アドバイスしてね」
「はい、めっちゃアドバイスしますよ!……受かったら。笑」
めっちゃアドバイスしますよ、と言ったR君の顔は、とてもかっこよかった。
「ってか、飲食とかコンビニじゃないのは何でなん?」
「服が好きだからっすね!」
「いつから好きなん?」
「高2くらいかな。俺むかし、めちゃくちゃダサかったんですよ」
R君は語った。もともと典型的なオタクファッションをしていて、髪もボサボサ伸び放題だったこと。それは悪いことではないけれど、ある日、彼女が欲しくなって、変わりたいなって思ったこと。
「で、自分で服買ってみたいなって思って、僕ユニクロ行ったんですよ。お小遣い持って」
「彼女つくるためにはじめて買った服がユニクロだったってこと?」
「?? はい、そうです」
R君は気づいてない。
これこそが彼のユニークであることを。
「R君。なんでユニクロに行ったの?」
「えー、なんでって、…親と来たことあったし入りやすかったし、あとは僕でも買えるかなーって」
「ふんふん。ちなみに何買ったん?」
「白のビッグTシャツです、XLサイズの。」
「それで……彼女はできた?」
「できませんでした(笑) でもなんか、ちゃんと選んだ服着るだけで、こんなに自信つくんや、って思って。そっから服スゲーってなって」
「R君。今のが、志望動機だと思う」
パソコンの画面をくるっとR君に向けて、言った。私は、R君との会話を、夢中で文字起こししていた。R君は画面を見つめた。
「これが“志望動機”なんですか…こんなん書いていいんですかね…」
「うん。全然いい。」
「ほんまっすか…」
「これはR君の言ってることそのまま打っただけやから、これを元に、もう一度まとめてみるのどうかな。私、お風呂入ってくるわ。あれやったら、上がってから見るし」
「…わかりました!」
脱衣所から、「時間があれば、タイトルみたいな感じで、見出しも付けてみて〜」と叫んだ。
お風呂から上がると、R君はマンガを読んでいた。
「あっ、下書きできましたよ!見てください!」
履歴書に、鉛筆書きの志望動機欄。
見出しには、こう書かれていた。
「自分を変えたい人の、“最初の一着探し”を手伝いたい」
第58回 宣伝会議賞 コピー部門の受賞作品かと思った。「株式会社ユニクロ/課題:中高生がユニクロに行きたくなるようなアイデアをお願いします」どうですかユニクロさん、これポスターにしませんか。
いや、冗談抜きで、鳥肌が立った。さっきまで「ユニクロをたくさんの人に知ってもらいたいから」って書いてた人が、たった30分で。
涙目になって、R君に言った。
「よし、これだけ自信もって伝えてきたらいいさ!」
(……と言いつつ、夜中の1時半まで面接の練習をした)
2日後、R君は面接に行った。
その翌日、また、私の家に遊びにきた。
ドアをあけて、靴を脱いで、
リビングに通ずる入口の前に立って、
R君は言った。
「ユニクロ、受かりました!!」
飛び上がった。
飛び上がって何度も「嬉しい!」と「おめでとう!」を繰り返した。
奈良に住む18歳の青年が、ユニクロのバイトに受かっただけの話。けれどこれは、私達にとって、本当に本当にすごいニュース。
140円を渡して、R君に言った。「そこの自販機で三ツ矢サイダーのペットボトル買ってきて!乾杯しよう!!」
庭のトマトをもいで、一緒にパスタを茹でて、三ツ矢サイダーを入れた。R君は「おいしい、めっちゃおいしいです」と言っていた。
ちょっと待って!!!興奮してたから今書いててはじめて気づいたけど、このトマト、サワガニ埋めたとこのトマト!!!!!(※前記事参照)ああ、もう、何だろうこれは。最高。最高すぎるなあ。ごめんなさい。最高な気持ちすぎて、語彙力がありません。
「R君、いつから店頭に立つの?」
「日曜です。教えてもらう日、みたいな感じですけど」
「行くわ。毎週行くわ。」
「待ってます(笑)」
「色とかサイズ、迷ったら、アドバイスしてね」
「はい!!めっちゃアドバイスしますよ!!!」
私は今週末の日曜日、ユニクロで泣く。
いつも行く、イオンの4階に入っているユニクロで。きっと、震えながら白のエアリズムコットンオーバーサイズTシャツを手に取って、R君に「これ、ください」って言って、泣く。
2020.7.22追記。後日談を書きましたー
「今週末の日曜日、ユニクロで白T買う前に泣かれる」
https://note.com/cchan1110/n/n6b186820c527