60点日記「べべズエラ」
話の筋を気にしない、誤字脱字も気にしない、不定期更新の「60点日記シリーズ」。何てことのない記録を綴っています。
私は奈良に住んでいる。奈良のお気に入りの喫茶店に、「アーガイル」という店がある。
おいしいコーヒーがあることはもちろん、食べ物も良い。パフェを頼めば、お手本のようなパフェが来るし、スパゲティは種類も具もいっぱい、時折無性に食べたくなる。
マスターも、マスターの息子さんも、働いている方みんな気さくで。マスターの本のセレクトも良くて、居心地が最高。開けると「カランカラン」と鳴るタイプのドアも好き。(余談だけど、私は「自動ドアではない店しばり」で、街を巡るのが好き)
あと、飲み物単品でも、カップケーキやクッキーが付く。大好き。
そんなアーガイル、特にお気に入りなのが、お客さん達の会話。そこまで大きなお店ではないことと、地元の人々のオープンなテンションが相まって、ここでの会話はだいたい、店内全体に筒抜けになる。
これは、来店3回目くらいの頃の話。
私がメニューを選んでいるタイミングで、お客さんが入ってきた。杖をついているおじいちゃん。ドアを開けるやいなや。
「マスター! わし、ついにGPS付けられてもーたわ!」
「カランカラン」がかき消されるくらいの元気な声量。店内のみんな、振り返る。
「△△さん、それ、あれちゃうの。徘徊対策やないの」と、常連のおばちゃん達。「そりゃ大変や、どこ行ってもバレてまうなあ」とマスターの息子さん。おじいちゃんも、「せやねんもう、好きなネーチャンの店行かれへんわあ」と冗談を言いながら、席につく。
おばちゃん達の会話も楽しい。
「あかんわ、なんか食べたくなってきたわ」とおばちゃんA。
「さっき、ケーキ食べてたやないの」とマスターの息子さん。
「せやけど、甘いの食べたら辛いの食べたなるやんなあ」とおばちゃんB。
「さっきは、辛いの食べたら甘いの食べたなるわゆうてケーキ食べてたで」
「もう、これやからあかんわ、アッハッハ」
そしておばちゃんA、マスターに言う。
「あのー、あれちょうだい。ベネズエラみたいなん。べべズエラ、べべべ……えーと、なんやったかな? そんな名前のあったやんか」
なんだろう。べべズエラ?
釘付けで聞いてしまう。
「はいはい。ひとつでええの? ◯◯さんは?」
「えーどうしよ。ほな私も食べよかな。私はナポリタンにするわ」
「はいはい」
「ほら! こうやってあんたが勧めるから私らずっと食べてまうんやわ!笑」
「僕のせいかいな!笑」
しばらくして運ばれていった、2皿のスパゲティ。
「はい、ナポリタンと、ジェノベーゼね」
「あーそれそれ! なんて? もう一回言って。べべ、何?」
「ジェ、ノ、ベー、ゼ!」
「ジェ、べ、べー、べ!」
「ええよもうべべズエラで」
「アハハハ!」
横目で見えた、その「ベベズエラ」のおいしそうなこと。
「すみません、私もそのベベズエラ、いただけますか!」
これが私の、アーガイルでの、スパゲティデビューだった。
そして今日。
私はアーガイルで昼食を取った。
このご時世、以前みたいに、店内で大きな声が響き渡ることは減ったけれど、アーガイルは変わらず、とても居心地の良いお店。少し静かな分、マスターがコーヒーを淹れる音や調理音が、よく聴こえる。
今日も「べべズエラ」を頼んで、セットでコーヒーを付けた。それから、チョコレートパフェも頼んだ。辛いの食べたら甘いの食べたなるからね。
パフェを食べながら、マスターの本を読んでいた。そしたらちょうど、「パフェとサンデーの違い」が載っていた。なんだろ、アイスクリームの分量かな? ページをめくると、答えが書いてあった。
「深い器がパフェ、浅い器はサンデー(※諸説あり)」
そして、その違いを付けて、パフェとサンデー両方を提供する喫茶店が紹介されていた。ネットでも調べると、この差については、いろんなところで記事になっていて、説もいくつか載っていた。
ただ、この本の良かったところは、その次に書いていた文章。「じゃあ、どんなときにパフェを頼んで、どんなときにサンデーを頼むんだろう」この問いかけに対する回答が、もう、個人的に素晴らしかった。
「次は何が出てくるのかな、を楽しみたいときにはパフェを。次はどれを食べようかな、を楽しみたいときにはサンデーを、注文してみてください」
本棚に本を戻して、レジへ。「あの本すっごく面白かったです。思わずAmazonでポチってしまいました」と私。「あ、ほんまに?よかった」とマスター。
(ちなみに、購入したのはこちらの本。届くの楽しみ)
(で、どうにか写真で伝えられんかなあ…と思ったら、著者である岡部敬史さんのツイートを発見した。これこれ。あー、いいなあ)
最後にもうひとつ、
大好きなアーガイルの、不思議なところを紹介する。
ランチのセットメニューを頼んだとき、待っている間に運ばれてくるものがある。それが、こちら。
夏は小さなそうめん、冬は小さなにゅうめんが付いてくるのだ。たとえ注文したものが麺類でも、夏はそうめん、冬はにゅうめんが付く。(※付かないときもある)
「どうしてですか?」と聞いたことがある。そしたら、運んでくれたお姉さんが「どうして…って、うーん、嬉しいかなって思って?」と言っていた。
嬉しかった。また行こっと。
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