コミュニティホスピタル構想の進捗報告 〜2年目(2023年度)の振り返り〜
こんにちは、一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会(以下CCH協会)です。私たちは日本の地域医療の課題を解決するために「コミュニティホスピタル」を全国に広げ、総合診療医を育成することを目的に、2022年に設立されました。
設立から2年が経過しましたので、当記事では2年目(2023年度)に行ったことの振り返りと今後の展望についてまとめてみようと思います。
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コミュニティホスピタル構想とは
「コミュニティホスピタル」とは、総合診療を軸に超急性期以外のすべての医療、リハビリ、栄養管理、介護などのケアをワンストップで提供する病院です。入院・外来・在宅医療のシームレスにつなぎ、患者中心の医療・ケアの提供を目指します。
今後、ますます増加する高齢者に適切な医療を提供するため、病気や障害を持っていても住み慣れた地域で生活していけるような医療を提供するために、全国各地にある中小病院がコミュニティホスピタルになり、地域の医療を支えること。これは限られた医療財源と医療資源を効率的に使って、日本全国に地域包括ケアシステムを構築するための有力な方法であり、中小病院にとっても有効な生き残り戦略です。
全国の中小病院をコミュニティホスピタルに転換する、この「コミュニティホスピタル構想」を掲げて活動を開始したのが2022年でした。
※全国各地で増えているコミュニティホスピタルの仲間の取り組みはこちらを、コミュニティホスピタルが取り組む「地域づくり」についてご報告まとめはこちらをご覧ください。
2年目の振り返り 再現性を意識した2023年度
C&CH協会が発足した初年度(2022年度)は、フラッグシップホスピタルである同善病院(東京都台東区)において、コミュニティホスピタルの基盤づくりを進めました。
2022年4月から同善病院でのコミュニティホスピタル転換の取り組みが始まりました。在宅医療センターの立ち上げに加えて、複数名の総合診療医が病棟・在宅医療・外来のすべてに関わり、「患者さんの人生をみる医療」を実現するために病院全体の変革に取り組んだ1年でした。
そして、2年目(2023年度)は同善病院の取組みや仕組みを今後展開する他のコミュニティホスピタルで再現するために「何が重要な要素か」を意識して活動をしてきました。その中で、現在、わたしたちが考えている「コミュニティホスピタルの再現」のためのいくつかの重要なポイントをご紹介します。
Point1 組織づくり
a) 3部門をシームレスに繋ぐマトリックス組織
病棟・在宅医療・外来の機能をすべて持っている病院であっても、それぞれの機能が部署内で完結している状態は、わたしたちが目指すコミュニティホスピタルではありません。患者さんの生活や人生を支えるために、病棟・在宅医療・外来がシームレスに繋がり、どの部門のスタッフも同じ視点で医療・ケアを提供することを目指しています。その状態を実現させるために、同善病院ではマトリックス型組織を採用しました。
※マトリックス組織の考え方や詳細はこちらの記事をご覧ください。
コミュニティホスピタルに向けた同善病院の組織改革
縦軸の各事業ラインは、他の病院組織にもみられるように入院・在宅医療・外来といった事業ごとに分かれていて、質の高い診療業務を遂行することを目的にしています。それぞれの軸で業務報告や意思決定を行うレポートラインの機能をもつため、定例会議やカンファレンスの目的と役割を明確化しました。各会議がただの報告会になることを防ぎ、意思決定のスピードと質を向上させることにつながっています。
マトリックス組織の横軸は、専門職ごとの組織であり、人事や教育に関わります。横軸を機能させているのは、職種ごとの責任者が参加して人事にフォーカスして議論する「5者会議」と呼んでいる会議体で、職員一人ひとりに話が及ぶような会議となっています。それぞれ職種の専門性を高めるとともに、専門職の責任者が入院・在宅・外来を横断的に見ることでセクショナリズムを排除し、シームレスなサービスを実現させることための仕組みです。
b) 院内連携・地域連携の中心となるコミュニティ支援室
加えて、病棟の入退院支援を行っていた地域連携室を「コミュニティ支援室(CSR)」と名称を変更し、組織図の上位に位置づけました。
この「コミュニティ支援室」の存在は、一人一人の患者さんに対して最も良いサービスを提供できるように院内外の調整機能を果たすためのもので、コミュニティホスピタルを実践する上で非常に重要であると考えています。
更に、この「コミュニティ支援室」を機能させるためには、コミュニティホスピタルの理念を理解した医師が室長を兼務することが重要であると考えて、同善病院では副院長である小笠原先生が室長を兼務しています。
c) 部門間連携のため多職種がローテーション
病棟・在宅・外来が一人の患者さんに対して同じ視点で診療とケアをしていくためには、各部門で働くスタッフが所属部門以外のことを理解していることが重要になります。
当初は、部門間の理解を促進するために各職種(看護師、セラピスト)の部門間ローテーションを画策したのですが、スタッフそれぞれの事情(勤務時間・曜日)に加えて、部門間の給与面の差(例:異動すると夜勤手当がなくなる)、部門移動ごとに業務習得のために必要な時間の確保などが支障となり、一部では運用されているものの、病院全体でうまく機能させることができませんでした。
しかし、同善病院では現時点では部門間連携がうまく機能していて、職員一人一人に対してコミュニティホスピタル的なマインドセットの浸透が進んでいます。このマインドセットが浸透している理由の一つは、医師やソーシャルワーカーなどの多職種が病棟・在宅・外来をローテートしているからだと考えています。
医師自身が部門に跨って患者さんを診療することで、スタッフも部門の壁を越えた視点を自然と持てるようになってきていると感じています。ソーシャルワーカーも部門を行き来することで、地域や社会資源に繋げることにつながっています。このように患者さんの人生、生活を支えるために、入院・在宅医療・外来をシームレスにみるというコミュニティホスピタル的なマインドを組織に浸透させるために、できるだけ多くの職種が部門間をローテートすることは有効な一手であると考えています。
Point2 人づくり(採用活動)
2年目は特に採用活動の強化に注力しました。応募者を増やす取り組みも行いましたが、同善病院に関心を持って見学希望や応募してくれた方に対して、しっかり病院の理念やコミュニティホスピタルの考え方を伝えるために、採用サイトの新設、ホームページのリニューアルに加えて、応募者の選考プロセスを刷新しました。
これらの採用活動の結果わかったことは、この「コミュニティホスピタルというコンセプト」は、医師に限らず他の専門職にとって非常に魅力的で訴求力があるということです。例えば、入職者へのアンケートを行って入職の決め手になったポイントを回答してもらったところ、下記のような「コミュニティホスピタルのコンセプト」となる要素が多く集まっていることからもわかります。
・患者さんの生活、人生をみる
・病棟・在宅医療・外来をシームレスにみる
・地域とつながる活動(地域活動)を行っている
・フラットに働けて、学べる、挑戦できる
また、コミュニティホスピタルのコンセプトを伝えるために見学希望者や応募者には院内見学プランを定めて、一人一人に丁寧に対応し、わたしたちの理念に共感してくれる人材を集める努力をしました。
その結果、2022年1-12月の採用は15名、2023年1-12月は11名、2024年4月には20名を超える新規入職者を迎えることができ、組織の強化に寄与しました。
※詳細はこちらの記事をご覧ください。
同善病院の採用活動改善の軌跡(2022年4~2023年12月)
今後のテーマとして、当院に期待して入職してくれた職員一人一人に対して、働きがいを提供できているか、それぞれの目標に近づけているか、を確認しフォローしていく必要があると考えています。
Point3 医療・ケアの質向上(患者さんをみるための業務フロー変更・DX化)
同善病院では、「患者さんの人生をみる」ための質の高い医療・ケアを提供するための仕組みづくりにも注力してきました。
例えば、病棟での医療とケア(回リハ病棟である同善病院は特にリハビリテーション)について、患者さんの失った機能に対してただリハビリをするのではなく、患者さんに対して「その人らしく暮らしていくために、何を目標にし、何を強化する必要があるか」といった目線を関わる多職種が共有できる下記のような仕組みを取り入れてきました。
・入院初日の多職種カンファレンスは、必ず患者さんに参加してもらう
・入院して2週間以内に多職種で協議して退院予定日を決めるとともに、どのように目標達成をしていくかを議論する
・スマホのコミュニケーションツールを活用、患者さんごとのチャットルーム内でタイムリーに情報共有をし合う
いずれも重要なことについて適切にコミュニケーションを行うことを目指したものですが、これを実現させるためのシステム環境の整備(職員へのスマホ貸与、コミュニケーションツールのTeams導入、2024年春の導入に向けた電子カルテ導入準備)も2年目に行った重要な取り組みでした。
これらの取り組みは、主に病棟を中心に行われた医療・ケアの質の向上のための施策でしたが、ベッドコントロール等の他の施策の効果もあり、一年間を通して高水準の病床稼働を維持することに寄与しました。
これらの取り組みの結果、業績面においても、コミュニティホスピタル転換前(~2021年度)に比べて、法人全体の売上は20%増収するという成果を残しています。
3年目の目標① 他コミュニティホスピタルでの再現性の実践
ここまで述べた通り、コミュニティホスピタルを増やしていくための再現性に特に注目してきました。
入院・在宅医療・外来をシームレスに繋ぐマトリックス組織、コミュニティ支援室(CSR)や多職種のローテート。コミュニティホスピタルのコンセプトを伝える採用活動。コミュニティホスピタルとして、医療・ケアの質を向上させるための各種の取り組みはコミュニティホスピタルを目指すうえでは重要の要素です。
これらに加えて、効率的に在宅医療センターを回すための様々なノウハウや、多くの入職者を獲得してきた採用関連のノウハウなども同様にコミュニティホスピタルの再現には欠かせないノウハウであると考えています。
3年目である2024年度からは2つ目のフラッグシップホスピタルとして水海道さくら病院(茨城県・常総市)のコミュニティホスピタル化に取り組んでいるのですが、同善病院で掴んだこれらのノウハウを水海道さくら病院でも実践し始めています。
例えば、コミュニティ支援室(CSR)の仕組みは最初に導入し、病棟の責任者である総合診療医がコミュニティ支援室の責任者として兼務することにしました。試行錯誤した同善病院で要した期間の半分の期間に短縮して導入することが出来ています。
3年目の目標② C&CH協会としてのコミュニティホスピタル転換ノウハウの発信
当協会としての3年目のテーマは、コミュニティホスピタルの取り組みをより多くの病院に展開していくことです。
過去2年間で得たコミュニティホスピタル転換のノウハウは、今後の大きな財産です。これからも直営コミュニティホスピタルの実践を通じて、さらに成功の要因の抽出と言語化に取り組んでいきます。そしてこれらのノウハウは、今後何らかの方法でコミュニティホスピタルを目指す病院のみなさんにも発信してまいります。
今回は2年目(2023年度)の活動についてレポートしました。
この2年間で同善病院の見学者、学会発表、各種講演時にコミュニティホスピタル構想について発信してまいりましたが、ホームページなどからこの事業を知って、問い合わせてきてくれた医師・学生さんも少なくありませんでした。皆さんの反応を見て、あらためて「コミュニティホスピタル」という事業の可能性と意義の大きさを感じています。
また、2024年1月から開始したCCHパートナーズ制度には、すでに多くの病院、個人の方が参画していただいています。いくつかの病院からはコミュニティホスピタル化の支援の相談もいただき、それらの病院への支援も開始しています。
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