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第123号(2021年3月29日) 北朝鮮の新型ミサイルを巡る謎 ほか


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【インサイト】北朝鮮が1年ぶりに弾道ミサイル発射 「新型戦術誘導弾」とは何だったのか

●1年ぶりの弾道ミサイル発射
 3月25日、北朝鮮は日本海に面した咸鏡南道(ハンギョンナムド)の宣徳(ソンドク)から2発の弾道ミサイルを発射しました。北朝鮮の弾道ミサイル発射は昨年の3月に行われたKN-24とKN-25の連続発射(計4回)以来、ほぼ1年ぶりです。
 しかも、朝鮮中央通信が公表した写真を見るに、今回発射されたミサイルは今回が発の発射実験となる新型でした。今年1月15日に実施された軍事パレードに初めて登場したのと同一のミサイル及び発射装置が使用されたと見られます。

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 問題のミサイルの制式名やコードネームは公表されていませんが、形状等からすると、2019年に登場したKN-23短距離弾道ミサイルを大型化したような印象を受けます。移動式発射機(TEL)の方もKN-23用TELの基本レイアウトを踏襲しつつ、車軸を4軸から5軸に増やしているので、ミサイルが重くなったことはたしかでしょう。
 通常、既存のミサイルを大型化する場合の狙いは、搭載重量(ペイロード)または射程、あるいはその両方を増やすことでしょう。問題のミサイルについていえば、KN-23の射程(600km程度と推定)を伸ばして在日米軍基地等を叩ける能力を狙っているのではないかと考えられていましたが、発射実験の成功を伝える朝鮮中央通信はやや意外なことを言っています。

●朝鮮中央通信が伝える「新型戦術誘導弾」の概要
 そこで朝鮮中央通信の主な内容を以下に要約してみましょう。

・国防科学院は3月25日、常用弾頭の威力が世界を圧倒する新型戦術ロケットの発射試験を行った。
・新型戦術誘導弾は、既存の新型戦術ミサイル(訳註:KN-23)の「核心技術」を利用し、弾頭の重量を2.5トンにした兵器システムである
・試射された2発の新型戦術誘導弾は、日本海上600kmの水域に設定された標的に正確に命中した
・数回にわたるエンジン地上噴出実験と試射の過程を通じて改良型固体燃料エンジンの信頼性を実証した
・すでに他の誘導弾に適用している低高度滑空跳躍型飛行方式の変則的な軌道の特性も再実証した
・李炳哲書記は、今日の兵器試験が第8回党大会で示された国防科学政策を貫徹する上で重要な工程になると述べた

 KN-23の拡大改良型であるらしいこと、したがって変則的に軌道を変化させる能力を持っていることなどは事前の予想通りであるが、弾頭重量が「2.5トン」というのは尋常ではありません。このクラスの短距離(SRBM)〜準中距離弾道ミサイル(MRBM)のペイロード(搭載重量)は通常、500kgから大きくても1トンくらいというのが相場でしょう。
 他方、朝鮮中央通信によると、今回の発射試験における射程は600kmだったということなので、これがフル射程であった場合、ミサイルは大型化したものの射程自体はKN-23からあまり大きく伸びていないということになります。つまり、その分のパワーはやたらと重い「何か」を加速することに費やされていると考えられます。

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