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第187号(2022年8月8日) HIMARSはゲームチェンジャーか? ほか

【今週のニュース】ロシア側専門家は戦況をどう見ているのか ほか

今次戦争について ルスラン・プーホフへのインタビュー

『モスコフスキー・コムソモレーレツ』2022年8月6日

 有名軍事シンクタンク「戦略技術分析センター(CAST)」のルスラン・プーホフが『モスコフスキー・コムソモレーレツ』のインタビューに答えている。言葉遣いはまるきりクレムリンのプロパガンダをなぞっており、いかにも「戦時下」という感じがあるが、そこで述べられている知見には相変わらず鋭いものがあるので、以下に要点を紹介してみたい。

・ヘルソン周辺でのウクライナ軍の南部攻勢は機を逸した。それに先立ってドンバスでロシア軍(とドネツク・ルガンスク両「人民共和国」軍)が攻勢に出たためである。
・また、ウクライナ軍は攻勢のために15個旅団くらいを必要としたはずだが、その主力をドンバスに取られてしまった。
・(ウクライナの空軍はなくなってしまったようだが?との問いに対して)ウクライナ空軍はまだ活動できている(よく言った:筆者)。しかしこれは飛べる飛行機を根こそぎ動員した結果であり、パイロットも60歳以上だったりする。西側も博物館までさらって古い飛行機の部品を供給している。
・当初、ウクライナ軍がロシアの攻勢に耐えられたのは下士官層が非常に優秀だったためである。彼らは専門教育を受け、西側でも短期の訓練を受けた。さらにドンバスで長年半テロ作戦(ATO)の経験を持っている。こうした歴戦の軍人たちがいるから、ウクライナの政治・軍事指導部は停戦合意に踏み出せなかったのだ。
・(ウクライナ軍の指導部は出自が怪しげなのではないか?との質問に対して)ウクライナ軍総司令官ザルジニーはソ連崩壊後に軍務についた人物であり、職業軍人としての経歴を積んだのちに最初の紛争で戦い、その後はウクライナ軍をNATO式に改革しようとした(この記述は、明らかにウクライナ軍人が「ネオナチ」ではないかという誘導尋問をかわしている:筆者)。
・一方、国防省情報総局(GUR)のブダノフ総局長は「狂犬」である。彼はまだ35歳と若く、2016年にはクリミアに侵入した破壊工作グループ(アゾフ海にウクライナ軍艦艇が侵入して拿捕された件を指す)の一因だった。彼はゼレンスキーの信頼を得ており、CIAのコントロール下にある。
・ゼレンスキーは米国にとって便利な人物である。軍事に関しては全く理解しておらず、戦争を止める気もない。戦争が終わったら名声と溜め込んだ金を持って世界中を渡り歩けばいいと思っている。一方、ゼレンスキーは軍が台頭して自分の権力を剥奪することを恐れている。
・もはやウクライナには反撃の機会を持っていない。早く敗北を認めて停戦交渉に応じた方がよい。

 インタビューの後半は「いかにも」という感じではあるのだが、現在の戦況をロシア側の専門家がどのように見ているのか(そして語っているのか)を知る上では貴重なインタビューと言えよう。もちろん、ヘルソンやイジューム付近でのウクライナ軍の反攻をどう考えるのかとか、西側からのさらなる大規模援助があったならどうかという点はスルーされているので、その点は割り引く必要はあろう。

ベラルーシが「ヴォストーク2022」演習に参加

『イズヴェスチヤ』2022年8月4日 
 8月4日、ベラルーシ国防省は、ロシア軍東部軍管区大演習「ヴォストーク2022」に部隊を派遣することを明らかにした。前号で紹介したように、同演習は今月30日から極東で実施される予定である。
 ただ、前回の「ヴォストーク2018」に参加して話題をさらった中国(とモンゴル)は今のところ参加・不参加を表明しておらず、他にも参加を表明する国はこれまで出ていなかった。こうした中でベラルーシの参加表明は、初の(そして今のところ唯一の)ものである。
 また、ベラルーシはこれまでロシア西部での大演習には参加してきたものの、極東で実施するヴォストーク演習への参加は例がない。穿った見方をすれば、ウクライナ危機で孤立するロシアと合同演習をしてくれる国がいないのでやむなくベラルーシを引っ張り込んだとか、ベラルーシ側もロシアからの参戦要求をのらりくらりとかわし続けているので、演習くらいは付き合わざるを得なくなったとか、そんな事情が想像されよう。
 なお、ベラルーシの参加兵力は250名とされており、この点からしても政治的・象徴的な少数の参加に留まると思われる。
 他方、北アフリカのアルジェリアは今年11月にロシアとの合同対テロ演習を同国のハマギル演習場で実施予定である。ロシアはたしかに「西側から」孤立しているものの、決して世界全体でもそうであるわけはない、ということがこの点からも改めて確認されよう。

ロシア軍の損害は7-8万人 米国防総省

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