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第282号(2024年10月21日) 明らかにされた「勝利計画」の中身と戦争の行方


【今週のニュース】北朝鮮軍がついにウクライナの戦場へ?

オーストラリアがウクライナにM1を供与

 オーストラリア陸軍から間も無く退役予定のM1A1戦車49両がウクライナに供与されることになった。より新しいM1A2戦車の導入に伴う措置。ただし、ウクライナへの直接供与ではなく、アルバニア政府を介しての供与となるようだ。

 ウクライナ軍に配備されたM1戦車は米国が供与した31両のみであり、うち少なくとも16両は既に失われている(Oryx調べ)。残る15両もおそらくはそんなに稼働率が高くないだろう、と考えると、オーストラリアからの49両は(たとえ部品取りにしかならなくても)それなりの意義はあろう。同時に、これだけの数では「それなり」以上の意味がないこともまた明らかではある。


北朝鮮軍がついにウクライナの戦場へ?

 以前は「可能性」の問題として扱われていた北朝鮮軍のウクライナ派遣が俄かに真実味を帯びて語られるようになってきた。
 きっかけの一つは、韓国の国家情報院が10月18日に行った発表である。8日から13日にかけて、ロシア海軍太平洋艦隊の揚陸艦4隻が北朝鮮の3つの港から特殊部隊員1500人をウラジオストクに輸送し、近く第二次輸送も行われる見込みであるという。さらに国家情報院は、An-124超大型輸送機も北朝鮮軍輸送に関与していると示唆している。
 また、国家情報院によると、ロシアに移送された北朝鮮軍兵士たちはウラジオストク、ウスリースク、ハバロフスク、ブラゴベシチェンスクといった極東各地(いずれもロシア軍の駐屯地がある)に分散して訓練を受けているという。これらの地域を筆者が衛星画像で確認してみた限りでは、たしかに駐屯地内に新しく訓練エリアが設置されている様子も確認でき、これが韓国のいう北朝鮮軍兵士の訓練と関連している可能性は排除できない。
 これとほぼ時を同じくして、ウクライナのゼレンシキー大統領も、北朝鮮軍兵士の移送について従来よりも踏み込んだ発言を行うようになった。特に17日には、最大で1万人の兵士を参戦させようとしているとして北朝鮮を強く非難している。

 真偽は今のところ明らかではないが、関連情報は増え続けているので、次号で詳しく取り上げることにしたい。

【インサイト】明らかにされた「勝利計画」の中身と戦争の行方

「勝利計画」の中身が明らかに

 前号では、ドンバスでの戦況が悪化する中でウクライナ側が提起している「勝利計画」について取り上げました。

 この時点では正式な中身は明らかにされていませんでしたが、先週16日にゼレンシキー大統領が議会で「勝利計画」について公式に説明を行いました。といっても全てが明らかにされたわけではなく、非公開部分は未だに残っています。とりあえず現時点で明らかにされたことを確認しておきましょう。

・NATOへの加盟。NATO加盟は将来の問題ではある。しかし、加盟への招待は意思の問題であって今すぐ可能だ。欧州諸国の決意の証として、ウクライナを直ちにNATOへ招待するよう求める。
・不可逆的なウクライナの防衛強化と戦争のロシアへの拡大(ロシア領への侵攻を含む)。ロシア人の「戦争イデオロギー」を破壊するためにロシア領への侵攻作戦を継続し、さらにロシアが占領した地域における攻勢能力を破壊するためにウクライナ軍を強化する。このほか、予備旅団を形成するためのパートナー国からの装備提供、防空能力の強化、ウクライナ独自開発のドローンやミサイルによる攻撃作戦の強化、ロシア領に対する攻撃制限の撤廃、リアルタイムの衛星データと諜報情報の提供を求める。これについては秘密条項を伴う。
・ロシアの侵略阻止のために「包括的な非核戦略抑止力パッケージ」をウクライナ領内に展開させることを提案する。これについても秘密条項があり、米国、英国、フランス、イタリア、ドイツの首脳から賛同を得ている。
・ウクライナの戦略的・経済的ポテンシャルを拡大するために西側からの投資を呼び込む。また、ロシアに対する経済制裁も強化する。「特定のパートナー」に対して開示される秘密条項あり。
・戦後のデザイン。ウクライナの軍事力と経験をヨーロッパ防衛に活かす。戦後、パートナー国の同意が得られれば欧州の米軍をウクライナ軍に置き換えることも想定される。

NATO加盟の代償

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