ロシアはあとどれだけ戦えるのか? ロシア軍東部軍管区における予備保管装備の衛星画像分析
小泉悠(@OKB1917)
背景
ウクライナ侵略が始まってから9ヶ月で、ロシア軍は戦車1465両、歩兵戦闘車1682両、装甲兵員輸送車259両、その他の装甲戦闘車両695両にも及ぶ膨大な装備品を喪失したと見られている(1)。開戦前の時点でロシア軍が保有していた装甲戦闘車両は戦車3417両、歩兵戦闘車4293両、装甲兵員輸送車7452両であり(2)、特に戦車の損害が極めて大きい。この結果、ロシア軍はウクライナにおける軍事作戦を継続するために予備保管されている旧式兵器を現役復帰させざるを得なくなっている。2022年10月に報じられたところによると、ロシアは旧式化したT-62M戦車など800両を急遽近代化改修して実戦投入する計画である(3)。
では、ロシアの予備兵器はこれまでにどの程度が現役復帰しているのだろうか。また、今後も膨大な損害に耐えて戦争を継続する能力はどの程度残されているのだろうか。これらの問いに定量的かつ包括的な答えを提示することはもちろん難しい。しかし、ロシア軍の装備保管基地(BKhRVT)の位置を特定し、衛星画像で観察すれば、全体的なトレンドを掴むことは可能であろう。
方法論
そこで本研究では、ロシア軍東部軍管区に所在するBKhRVTの衛星画像分析を試みた。東部軍管区を対象とした理由は、ロシアで最も東部にある同軍管区ならば、輸送能力の制約によって予備保管装備が比較的手付かずで残されている可能性が高いためである。別の言い方をすれば、東部軍管区で装甲戦闘車両が著しく減少しているなら、ロシア軍全体の継戦能力が大きな制約を受けつつあることが示唆されよう。
以上の想定に従い、本研究ではMaxar Technologiesの光学衛星画像を使用し、東部軍管区に存在する10ヶ所のBKhRVTにおける予備装備の保管状況を開戦前と開戦後で比較することを試みた。ただし、このうちの1ヶ所(第245BKhRVT)については2022年5月以降の撮像が存在しなかったため、分析対象からは外した。
分析
以上で示した10ヶ所のBKhRVTについて、開戦前後と2022年10-11月の状況を比較検討した。
(1) 第7018BKhRVT
(2) 第7020BKhRVT
(3) 第7021BKhRVT
(4) 第227BKhRVT
(5) 第230BKhRVT
(6) 第237BKhRVT
(7) 第240BKhRVT
(8) 第243BKhRVT
(9) 第247BKhRVT
結論
分析の結果、9ヶ所のBKhRVTのうち7ヶ所で予備保管装備の顕著な減少が確認された。例外はハバロフスクの第243BKhRVTとサハリン南部の第230BKhRVTであり、後者は海を超えてロシア本土に重装備を輸送するための能力不足から予備保管装備が手付かずのままとされていると思われる。他方、前者の予備保管装備が手付かずである理由は明らかでない。また、予備保管装備の顕著な減少が確認された7ヶ所のBKhRVTにおいても予備保管装備の全てが搬出されたわけではなく、ロシアの継戦能力はまだ完全に失われていないと判断できる。
しかし、ロシアで最も東部に位置し、したがって輸送の負担が大きい東部軍管区においてさえ多くのBKhRVTで予備保管装備が減少しているという事実は、ロシアの継戦能力が大きく圧迫されていることを示すものといえよう。
出典
(1) “Attack On Europe: Documenting Russian Equipment Losses During The 2022 Russian Invasion Of Ukraine,” Oryx.
(2) Institute for International Strategic Studies, The Military Balance 2022 (Routledge, 2022), pp. 194, 199, 201.
(3) Алексей Моисеев, “Модернизированные Т-62 получат новые средства обнаружения и защиты,” Русское вооружение, 2022.10.13.
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