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第164号(2022年2月14日) ウクライナ危機が新たなフェーズへ
【今週のニュース】ウクライナ国境のロシア軍は100個大隊戦術グループ(BTG)まで増大 ほか
二つ目のアヴァンガルド極超音速ミサイル装備連隊が年内に発足へ
『TASS』2022年2月11日
国防省筋の談話としてTASS通信が報じたところにとると、アヴァンガルド極超音速ミサイルを装備する二つ目のロケット連隊が年内に発足する見込みである。
最初のアヴァンガルド装備連隊は2019年末にヤースヌィの第13ロケット師団で試験戦闘配備に就いたが、記事よると、今回発足する二つ目の連隊も同師団隷下に設置される。通常、ロシア軍のサイロ発射型ロケット連隊はICBM10基を装備するが、アヴァンガルドの場合は6基編成とされているから、2個連隊の編成が完結した暁には計12基が実戦配備されることになろう。
中央軍管区で大規模演習
中央軍管区においてMiG-31BM迎撃戦闘機による防空演習が実施された。MiG-31BMは敵の超音速偵察機を模したSu-24MRを仮想敵として迎撃訓練を実施し、ペルミ、スヴェルドロフスク、チェリャビンスク上空で計30機を「撃退」したとされる。
また、同軍管区では、ヘリ部隊とS-400防空システムによる防空演習、山岳歩兵部隊による敵陣地襲撃演習も実施された。
ウクライナ国境のロシア軍は100個大隊戦術グループ(BTG)まで増大
『NBC NEWS』2022年2月11日
米NBCニュースによると、ウクライナ国境に展開するロシア軍の規模は既に100個大隊戦術グループ(BTG)に達したと米情報機関は見ている。昨年12月3日に『ワシントン・ポスト』が報じた、ロシア軍の想定侵攻兵力がほぼ出揃ったということである。
ちなみに記事中にもあるように、ロシア軍のBTGは兵員800-900人で構成され、典型的には3個自動車化歩兵中隊を戦車中隊、自走砲中隊、多連装ロケット砲中隊等で増強したミニ諸兵科連合部隊である。
2018年にゲラシモフ参謀総長が述べたところでは、当時のロシア軍には126個BTGが設置されていたとされるが、翌2019年にはこれが136個に増加した。
さらにそこから3年を経た現在、BTGの総数は168個まで増加したとされており、これが事実なら、BTGの約6割がウクライナ周辺に展開しているということになる。
さらにこの記事が興味深いのは、ロシア軍が7個「スペツナズ」部隊のうち6個をウクライナ国境に展開させているという米情報機関の評価が引用されていることであろう。
以前のメルマガでも報じたように、スペツナズ(=「特別任務」のスペルを拾って繋げた略語)という名前のつく部隊はいろいろな軍事組織に存在するが、「全7個」ということはおそらく参謀本部情報総局(GRU)が運用する特別任務旅団を指しているのだろう。もともとは戦時に米国の戦術核兵器を探し出して破壊する任務を負っていた部隊であり、これ以外にも偵察から破壊工作に至るまで任務の幅は広い。
ただ、記事中では、各スペツナズ部隊の規模が200-300人とされている。典型的なGRUのスペツナズ旅団は4-6個の特別任務部隊を中核とし、これに通信部隊、兵站中隊、特殊武器中隊、自動車中隊、特技兵学校などが付属するとされているから、各旅団の兵力はもっと多いはず(おそらく2000-3000人程度)である。
したがって、この記事でいう「スペツナズ」というのは、各旅団から特別任務部隊を抽出してウクライナ周辺に送り込んでいるという意味であると思われる。
これに関連して、参謀本部直轄の精鋭特殊作戦部隊が動いているのではないかという観測も浮上しつつある。これらの精鋭部隊しか保有しない「ヴィーキング」対地雷装甲車やトヨタ「ハイラックス」などがスモレンスクで目撃されたというのがその根拠で、おそらくは「同盟の決意2022」演習のためにベラルーシに向かうのだろうが、問題はこれが演習で終わるのかどうかである。
Good spot by @Idzanagi4. These indeed do look like tan Viking MRAPs and Toyota Hiluxes used by Russia's elite SSO (Russia's version of JSOC) in Smolensk. The FSB Special Purpose Center uses black Viking MRAPs, but I've only ever seen the tan ones in service with SSO. https://t.co/Y2mXh9cSXR pic.twitter.com/wsHQbeRHa1
— Rob Lee (@RALee85) February 10, 2022
米原潜がウルップ島付近で領海侵犯?
『TASS』2022年2月12日 https://tass.ru/armiya-i-opk/13690879
2月12日、ロシア国防省は、ウルップ島のロシア領海を米海軍のヴァージニア級攻撃原潜が侵犯した。演習中の太平洋艦隊のフリゲート「マルシャル・シャポシニコフ」がこれを発見し、水中音声で浮上するよう命じたところ、自走式デコイ(囮)を放出しながら全速力で海域を脱出したとされている。
海上保安庁の航行警報サイトによると、ロシアはサハリンから北方領土周辺に至る幅広い海域で2月7日から25日に掛けてミサイル発射訓練を行うとしており、米原潜はこれを偵察しにきた可能性がある。
他方、米インド太平洋軍はNHKの取材に対し、ロシアの領海内でわれわれの作戦が行われたとのロシア側の主張は真実ではない。潜水艦の正確な位置についてコメントはしないが、われわれは国際水域で安全に航行し活動している」と回答した。
【インサイト】ロシア軍が野外展開 緊張はさらなるフェーズへ
駐屯地から出てきたロシア軍
先週以降、ウクライナを巡る軍事的緊張は新たなフェーズに入ったように見えます。
「今週のニュース」のコーナーで紹介したように、ウクライナ国境付近に展開するロシア軍はついに100個BTGに達し、事前に予想されていた侵攻所要兵力がほぼ揃ったと見られていますが、これに加えて部隊が駐屯地を出て野外展開を開始したためです。
昨年から今年にかけてロシア全土から続々と集結していた部隊は、いずれもウクライナ国境数十〜数百kmくらいのところにもともと存在するロシア軍駐屯地に展開していました。この間、米国のメディアやシンクタンクは、衛星画像をフル活用してその様子を報じてきましたが、これらをみると、ロシア軍はいずれも既存の駐屯地に隣接する演習場などにテント村や装備集積場を作っていたことがわかります。
この点では日本でも『日経新聞』が独自に光学衛星画像や合成開口レーダー(SAR)画像を駆使してロシア軍の集結の模様を報じており、日本でもこれだけやれるメディアが現れたかと感心しました。まぁ、状況が状況なのであまり手放しでは喜べないのですが。
ところが先週以降、ロシア軍がどうも駐屯地を出始めたのではないかと見られるようになりました。それも本来の駐屯場所へと撤退しているのではなく、ウクライナ国境の森林地帯や平野に野外展開を始めたのではないかということです。
10日にはベラルーシでロシア・ベラルーシ軍の合同演習「同盟の決意2022」が始まっていますから、一部はこれに合わせた動きなのでしょうが、それだけでは説明のつかない動きもあります。
特に顕著なのは、スモレンスク州イェルニャに駐屯地に集結していた中央軍管区第41諸兵科連合軍(41OA)やヴォロネジ州ポゴノヴォに居た第1戦車軍(1TA)の主力がウクライナ国境からわずか30kmのベルゴロドに再展開し始めたことです。これに合わせて攻撃ヘリや輸送ヘリもベルゴロド周辺の野戦飛行場に前方展開していることがSNS上の動画で確認されています。
Белгород pic.twitter.com/5x34YV8yW4
— IgorGirkin (@GirkinGirkin) February 12, 2022
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