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第194号(2022年10月17日)部分動員開始から約1ヶ月 プーチン発言から読み解く

【NEW CLIPS】結婚を急ぐ出征兵士たち

 サンクトペテルブルグのクロルト地区結婚登記所(ZAGS)で、動員された兵士たちの合同結婚式が開催された(願わくば彼らの誰も死なず、殺さずして妻の元に帰れるように)。

【今週のニュース】スロヴィキン上級大将をウクライナ作戦司令官に任命 ほか

ベラルーシは参戦するか?

 10月15日、ベラルーシに大規模なロシア軍部隊が到着した。10日にベラルーシのルカシェンコ大統領が発表したロシア・ウクライナ合同部隊(地域集団軍:RGV)の第一波とされている。

 ルカシェンコによれば、これはロシア・ベラルーシ連合国家の西部国境(つまり対NATO国境)の状況が悪化したことをうけた措置であるが、RGVは戦時に編成される合同部隊である。素直に受け取るならばベラルーシが戦時体制に入ったということだが、ルカシェンコ政権はこれまでも「ロシアが安心して戦争を継続できるようにベラルーシが後方を守っているのだ」というレトリックで参戦をかわし続けてきたから、実態がどうなるかはまだ予断を許さない。
 これについて『メドゥーザ』は4つのシナリオを提示している。

シナリオ1:キーウ再攻撃の可能性を高めることでウクライナ軍の戦力を分散させようとしている
シナリオ2:ベラルーシにロシア軍の航空・ミサイル・ドローン部隊を展開させてキーウに対する無差別空襲の拠点にしようとしている
シナリオ3:この戦争がNATOとの直接対決にエスカレートする場合に備えてロシア西部の守りを固めようとしている
シナリオ4:本当にキーウ再攻撃を目論んでいる

 メドゥーザが指摘するように、ベラルーシ軍の兵力はそう大きなものではなく、しかもその装備がロシアに移転されているらしいこと(おそらく装備の枯渇を補うため)を考えると、シナリオ4の可能性はそう高くはないのでしょう。ただ、それでも北方で怪しげな動きがあればウクライナは実際に戦力をある程度キーウ周辺に回さざるを得なくなるでしょうから、「やって損はない」というところかもしれません。5月にモルドヴァの沿ドニエストル駐留ロシア軍が背後からオデッサを脅かすかのような空気を醸成して戦力分散を図った事例のベラルーシ版、というのが今のところ最もあり得そうなシナリオに見えます。
 とはいえ、陽動だとしても、そこには単に「攻撃の構え」から「戦力分散を強要するための限定攻撃」、「ベラルーシ軍を壊滅させることを厭わずに突っ込ませてウクライナ軍に消耗を強いる」といったあたりまでシナリオは様々に考えられるわけで、もうしばらく情勢を注視したいと思います。

スロヴィキン上級大将をウクライナ作戦司令官に任命

 10 月8日、ロシア国防省は、セルゲイ・スロヴィキン上級大将をウクライナ作戦の司令官に任命した。

 スロヴィキンは陸軍軍人でありながら2017年には航空宇宙軍(VKS)総司令官に就任し、その後は南部軍管区司令官としてウクライナ侵攻の一翼を担ってきた人物。これ以前にもシリア作戦司令官を務めたので、ロシア軍の弱点とされる空地連携を改善させることを狙った人事にも見える。
 また、スロヴィキンは北カフカスでの対テロ作戦を指揮した経験もあり、「彼なら戦局を好転させられる」として右派からの期待も高い。

 ちなみに、このスロヴィキンの任命に関して、英国防省は次のような興味深い評価を行っている。

 ポイントは、最初の作戦司令官であるドヴォルニコフ上級大将が4月から「8月まで」その任についていたという評価である。以前のメルマガで紹介したように、ドヴォルニコフは5月には任を解かれてジトコ国防次官に取って代わられたと言われていたが、英国防省の見方は異なるようだ。

 いずれにしても、作戦に関与する4つの軍管区を束ねるために統括役を置いたのではないかという見方は外部の観測であり、ロシア政府はその点を否定も肯定もしてこなかった。これに対してスロヴィキンの任命は国防省の公式発表であるから、より明確な地位と権限を与えて作戦指揮を立て直そうとしているということなのだろう。

【インサイト】部分動員開始から約1ヶ月 プーチン発言から読み解く

部分動員に強まる不信

 9月21日にプーチン大統領が部分動員を発令してから間も無く1ヶ月を迎えようとしています。この間に明らかになってきたのは、プーチンが演説で明らかにした動員についての約束が大部分は守られていないということでした。
 おさらいしておくと、プーチンの動員発令演説で動員対象者として挙げられたのは、「何らかの形で軍務に就いたことがあり、現在は予備役にある者」であり、「特にロシア軍で勤務し、特別の技能や経験を持つ者を優先する」とされていました。
 ところが、これに合わせて公表された実際の動員令は単に「ロシア連邦軍向け動員のためにロシア連邦市民を招集する」(第2項)と述べているだけであり、プーチンのいう二つの条件は含まれていません。実際、ロシアのメディアやSNSでは、軍務経験がないのに出頭令状が届いたとか、もうかなり高齢だったり病気があるのに動員されそうになったという話で溢れています。大統領の言っていることは空約束ではないのかという不信が強まるのは当然でしょう(ロシア人は紙になっていないことは信用しない)。
 ロシア政府も動員に「間違い」があったことは認めていますが、では実際に動員対象の厳密な基準が何であるのかは明らかにされておらず、国民の不信を払拭するには至っていないように見えます。

「再訓練」と「契約軍人並み」

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