第275号(2024年8月5日) 中国の北極圏展開と中距離ミサイル危機
【今週のニュース】ブルガーコフ元国防次官逮捕 ほか
チェコからウクライナへの砲弾供給続報
4月、チェコのパヴェル大統領がウクライナへの砲弾供給プログラムを開始したことはこのメルマガでも何度か取り上げてきた。各国から資金を募り、EU域外から砲弾を買ってきてウクライナに供給しようというものである。
当初は思ったほど資金が集まらないとか、供給国が砲弾の価格を釣り上げるなどのトラブルに見舞われたものの、6月には最初の5万発がウクライナに届いたとされ、チェコ政府は年末までに最大で50万発を供給できるとしている。チェコのリパフスキー外相によると、18カ国の協力を得て7月と8月にはそれぞれ10万発を供給できる見通しであるという。
さらにチェコのチェルノホワ国防相は、同国が新たな砲弾調達プログラムを開始したことを明らかにしている。このプログラムには5つの防衛産業が関与するというが、具体的な調達予定数は明らかにされていない。
ブルガーコフ元国防次官逮捕
ロシア軍や国防省の高官が次々と逮捕されたり失脚している、ということを第266号では紹介した。
その後、人事上の動きはしばし一段落したかに見えたが、7月の終わりになって大物逮捕の報が入ってきた。2008年から2022年まで物資・装備補給(MTO)担当国防次官を務めたドミトリー・ブルガーコフ上級大将である。
連邦保安庁(FSB)が国営通信社TASSに対して明らかにしたところによると、ブルガーコフの逮捕容疑は汚職で、具体的には低品質の乾燥食品を水増し価格で発注していたとされる。
これまで逮捕された高官たちの多くも同じような横領容疑で告発されており、それらの多くはおそらく事実であろう。ただ、この程度の汚職はロシアの公的機関では珍しいものではなく、問題はその中のどれが見逃されて、どれが見逃されないかにある。
この観点からして興味深いのは、ブルガーコフがウクライナ侵略開始後に解任されてから後任者が頻繁に挿げ替えられてきたことであろう。
何らかの利権争いなどがあったのでは、という気もするが、今のところはっきりした背景情報は明らかになっていない。
【インサイト】中国の北極圏展開と中距離ミサイル危機
中露爆撃機がアラスカ沖合で合同パトロール飛行
7月24日、ロシア国防省は、ベーリング海峡の沖合で中露の戦略爆撃機が合同パトロール飛行を行ったことを明らかにしました。パトロール空域は北太平洋、チュクチ海、ベーリング海とされているので、ベーリング海峡を越えて北極圏まで進出したことになります。中国の爆撃機がここまで出張ってくるのはおそらく初めてでしょう。
ロシア国防省によると、この合同パトロールにはロシアのTu-95MS爆撃機と中国のH-6K爆撃機2機、それに護衛戦闘機としてロシア側からSu-30SMとSu-35Sが参加しました。他方、米国からはF-16とF-35戦闘機が、カナダからもF/A-18戦闘機を緊急発進させて上空で監視を行っています。
ところで中国のH-6Kが本土から発進した場合、とても北極圏まで航続距離が足りません(航続距離は大体6000kmとされている)。またH-6Kは空中給油受油能力もないので、空中給油で航続距離を伸ばしたわけでもないでしょう。とすると、ロシア国内の基地まで展開して、そこから発進した可能性が考えられます。
おそらく、カムチャッカのエリゾヴォか、チュコトカのアナディリが拠点となったのではないでしょうか。ロシア国防省の公表映像でも、背景に山並みの見える基地からH-6Kが離陸していくシーンが一瞬だけ見て取れます。
と考えて衛星画像で確認してみると、アナディリ飛行場に中国のY-20輸送機2機が展開している様子が写っていました。日付はドンピシャで7月24日。前日の7月23日にはY-20の姿が見えませんから、合同パトロール飛行の前日夜か当日夜に展開してきたものと思われます。こういう形で中国による北極圏の軍事プレゼンスはじわりと増していくのかもしれません。
ところで中国の爆撃機(と輸送機)が何のためにチュコトカくんだりまで出張ってきたかというと、おそらく日本北部へのNATO空軍部隊の展開と関係している可能性が高いと思います。前回のメルマガで紹介したように、ロシアはこの動きを当然快く思っていませんし、中国も同様でしょう。両国の反発を目に見える形で示したのが今回の合同パトロール飛行だったと考えられます。
ベラルーシにも人民解放軍が
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