第254号(2024年2月19日) ウクライナ軍指導部刷新 「ゼvsザ」対立の帰結は?
【今週のニュース】GLSDBが初の実戦投入?
ロシアの銀行が過去最高益を記録
2月、ロシア銀行(ロシア中銀)は、2023年中にロシアの銀行業が集めた資金の合計が3兆3000億ルーブルと過去最多に上ったと発表した。ロシア経済がこの戦争下でもどうにか保っていることはよく知られているものの、金融業も意外と好調であるらしい。
他方、これが戦争によって支えられた歪な経済であって、ロシアの潜在成長力を削り、財政にも重い負担がのしかかっていることも指摘しておく必要があろう。筆者は経済には暗いので以下の2記事を参照されたい。
ウクライナ軍のF-16戦闘機支出にカナダが4400万ドル支出
2月14日、カナダのトルドー首相は、同国がウクライナの戦闘機取得プログラム向けに4400万ドルを支出する方針を明らかにした。資金はウクライナのF-16戦闘機取得支援連合(航空機能力連合)に提供され、オランダとデンマークが拠出するF-16戦闘機の運用に関わる費用となる。
GLSDBが初の実戦投入?
1月に米国から供与されたのではないかと言われているGLSDB(地上発射型小直径爆弾)がどうやら実戦使用された模様である。ロシアの軍事ブロガーが投稿した破片画像の分析から、GLSDBと特徴がよく合致するという話で、実際そのように見える。
記事中でも触れられているように、GLSDBの射程は150kmほどになるから、従来からウクライナ軍が運用しているHIMARS用のGMRLSと比べて射程はほぼ倍となる。加えて、ストームシャドウのように航空機から発射するのではなく、既存のHIMARS用M142ランチャーから発射可能であること、元になるSDB(小直径爆弾)が比較的安価で在庫も豊富にあることなどから、今後、ウクライナ軍の長距離火力の背骨となろう。
【インサイト】ウクライナ軍指導部刷新 「ゼvsザ」対立の帰結は?
ザルジニー解任の衝撃
2月12日が建国記念日の代休だった関係で、前回のメルマガから2週間ほどの時間が空きました。この間の2月8日、ウクライナでは非常に重要な事態が起きています。日本でも広く報じられた、ザルジニー総司令官の解任です。
ザルジニーは侵略者に立ち向かって首都キーウを守り切り、その後は2022年にハルキウでの反攻作戦を成功させた伝説的軍人です。また非常に愛嬌があって、デカくてゴツいけれども笑うと可愛いという生来のお得さを持った人物でもあります。
それゆえにザルジニーは国民から愛されただけでなく、国際社会からも割と好感を持って受け止められてきました。そのザルジニーをゼレンシキー大統領がクビにしたわけです。
どうしてなのか。それで大丈夫なのか。
今回はこの点について考えていきましょう。
背景としての「ゼvsザ」
今回のザルジニー解任の背景には、ウクライナのマスコミが「ゼvsザ」と呼んだ対立がありました。つまり最高司令官であるゼレンシキー(ゼ)と軍トップのザルジニー(ザ)の対立ということです。昔の野村沙知代vs浅香光代のバトルみたいな話ですね。違うか。
この「ゼvsザ」対立が最初に顕在化したのは、2023年前半の焦点となったバフムト攻防戦で、同市を可能な限り守るよう求めるゼレンシキー大統領と、戦術上の必要性から戦線整理を求めるザルジニー総司令官の間では深刻な意見対立が生じたとされます。
また、同年11月、ザルジニーが『エコノミスト』誌のインタビューで「反転攻勢は失敗し、戦況は膠着に陥った」と述べると、ゼレンシキーはこれを直ちに否定するコメントを出し、12月にゼレンシキーが「45-50万人の追加動員を軍から求められているが、これには慎重な検討を要する」と発言したことに対して、ザルージニーは「具体的な人数を要求したことはない」と反論しました。この頃には両者の関係が相当悪くなっていたらしいことが読み取れます。
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