第160号(2022年1月17日) 西側との対話決裂 考えられるオプション ほか
【インサイト】西側との対話決裂 考えられるオプション
あけましておめでとうございます、というにはもう年が明けてからだいぶ時間が経ってしまいました。
とはいえ、まだ新年に入ってから2週間少しだというのに、今年ももう随分と盛り沢山な感じです。
カザフスタンにおける突如の騒擾発生とこれに対する集団安全保障条約機構(CSTO)による平和維持部隊の派遣、そしてこの間に起きたトカエフ大統領によるナザルバエフ元大統領排除の動き(と思われるもの)はその第一に数えられるでしょう。第二に、北朝鮮が極超音速ミサイルと自称する新型ミサイルを立て続けに発射し、どうやら実際にある程度の軌道変更能力を持っているらしいことがわかってきました。
これらの出来事については次回にでも詳しく扱いたいと思いますが、今回は第三の出来事、すなわちウクライナをめぐるロシアと西側の関係性について引き続き考えてみたいと思います。
失敗に終わった対話
先週、ロシアと西側諸国の間では一連の対話が行われました。
最初に行われたのは、1月10日の米露外務次官級協議です。米国のシャーマン国務副長官とロシアのリャプコフ外務次官を筆頭とする両国外交団はスイスのジュネーヴで会合し、昨年12月にロシア外務省が提示した新たな欧州安全保障枠組みに関する条約案について8時間にわたる話し合いを持ったとされています。
ロシア外務省のサイトに掲載された条約案を見ると、
などが謳われており、一種の不可侵条約を目指したものであることがわかります。
しかし、協議後、シャーマン副長官はNATO不拡大案は受け入れられないとして上で、ロシアがウクライナへの軍事圧力を緩和しないことには「建設的で生産的な外交を行うことは非常に困難だと伝えた」ことを明らかにしました。
続く12日には、ロシアがNATOに対して提案した類似の条約案(本メルマガ第158号を参照)についての協議が行われましが、その結果はやはり大同小異でした。
NATO側はミサイル配備規制については話し合う余地ありとしたものの、NATO不拡大要求に関してはやはり受け入れられないとの姿勢を示したためです。この方針は協議前の7日に行われたNATO外相会合で予め確認されていたものであり、驚くべきことではないとしても、やはり協議が決裂したことには変わりはありません。
協議後、ストルテンベルク事務総長は、「ウクライナのNATO加盟拒否を認めることはない」とこの点をあらためて強調しました。
他方、ロシア側の交渉代表者を務めたグルシュコ外務次官(ロシアの役所には複数の次官がおり、そのうえに第一次官、さらにそのうえに大臣がいるという構造になっている)は、「ロシア側の提案の都合のいい部分だけを選ばれることは容認できない」として、NATO不拡大提案が受け入れられなかったことに不満を示しています。
13日に行われたOSCE(欧州安全保障協力機構)との協議も同様の結果に終わっています。この点は『朝日新聞』に端的な要約があるので以下に抜粋してみましょう。
1週間の間に集中的な協議の帰結は、どれもひとつの方向性を示しています。つまり、軍備管理や信頼醸成については話し合うことができるが、NATO不拡大に関するロシアの要求は認められないというのが西側の立場である、ということです。
そして、前掲の第158号で述べたとおり、これこそがロシアの要求の本丸であることを考えるならば、一連の協議は決裂に終わったと見てよいでしょう。たしかにリャプコフ次官は今回の協議に関して「アメリカ側は、ロシアの提案を真剣に深く考えている印象を受けた」と述べているものの、その結果は前述のとおりです。
さらにいえば、ロシアがウクライナ国境付近に部隊を集結させてはじめて「NATO東方不拡大」というアジェンダを「真剣に深く考え」るようになったのだとすれば、ロシアは軍事的威圧の効果に関して一種の手応えさえ感じているのかもしれません。
続く部隊集結
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