見出し画像

第266号(2024年5月27日) ロシア軍の戦術核演習と北方領土のレーダーサイト


【今週のニュース】ロシア軍で大粛清が進行中 ほか

ロシア軍で大粛清が進行中

 ロシア国防省・軍高官の逮捕や交代が相次いでいる。この戦争中、プーチンが軍の司令官クラスを交代させるという事例はかなり頻繁に起きており、最近では3月に海軍総司令官のニコライ・エフメノフ大将が罷免されていた。しかし、プーチンの5期目が始まる前後に起きているのは単なる交代ではなく汚職を理由とした逮捕である。
 その手始めとなったのはティムール・イワノフ国防次官(厚生・インフラ担当)の逮捕で、これがかなり異例の事態であることは本メルマガ第264号で紹介した。

 さらにプーチンが5期目の就任式に臨んだ後、事態はさらに加速している。主なところをまとめてみよう。

5月14日 ユーリー・クズネツォフ中将(国防省人事総局長)
参謀本部第8局長時代の汚職を理由として逮捕

5月17日 イワン・ポポフ少将(前第58諸兵科連合軍司令官)
陣地構築用資材の横領の容疑で逮捕(のちに自宅軟禁措置に変更)

5月21日 ウラジミール・ヴェルテレツキー(国防発注局職員)
収賄の容疑で逮捕

5月23日 ワジム・シャマリン中将(参謀本部通信総局長兼参謀次長)
詐欺容疑で2ヶ月間の勾留

 このほか、逮捕されたわけではないが、5月20日にはショイグの腹心であったユーリー・サドヴェンコ国防次官(兼大臣官房長)が解任された。さらに興味深いのは、サドヴェンコの元妻で現在はティムール・イワノフの内縁の妻であるとみられているマリア・キタエワ国防相顧問の贅沢な生活が報じられるようになったことで、この中には国営メディアであるRIAノーヴォスチによるものまで含まれている。

 これらの事件が何を意味するのか、どのように決着するのかは今のところ明らかでない。ただ、おそらくはプーチン政権の5期目入りに関連して、政軍関係がかつてない局面を迎えていることはたしかであると思われる。

ロシア軍需産業のドン、不満をぶちまける

 5月17日付のロシア経済紙『RBK』は、軍需産業の大部分を束ねるロステフ・グループのCEO、セルゲイ・チェメゾフのロングインタビューを掲載した。以下、興味深い点をまとめてみよう。

・ロステフは現在、特別軍事作戦に必要とされる武器の80%を提供している
・国防省は高品質で効果的な武器を入手できればよいのだろう。軍隊は経済性を気にしない
・この結果、ロステフの利益率は2.28%にすぎない。最低でも5%は欲しい。通常は5-10%だ
・この利益率では新型兵器の開発に割り当てる資金が確保できない。現状では多くの企業は生き残るので精一杯である
・国防指導部は生産性の向上ということがわかっていない。コストを削減すると来年からそれが基準になってしまう。新任のベロウソフ国防大臣には、企業が一定期間、資金を留保しておける仕組みを求めたい。それなくして新技術の開発はできない
・(前産業貿易大臣の)デニス・マントゥロフが第一副首相になったことは前向きに評価。新産業貿易大臣(アントン・アリハノフ)もマントゥトロフを支援するだろう

 このほかにもチェメゾフは色々なことを述べているが、とりあえずはロシアの軍需産業もかなり苦しい状況の中で消耗戦を戦おうとしていることが読み取れよう。『モスクワ・タイムズ』によると、2023年末時点における統計では、ロシアで販売される製品の平均利益率は13.5%であったというから、経営者としては2.28%という利益率に文句を言いたくなる気持ちはわからないではない。実際、チェメゾフの口振りからは前国防相のショイグが軍需産業の都合に配慮しなかったという認識が伺える。

ここから先は

4,505字 / 7画像

¥ 300

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?