第273号(2024年7月22日)「プーチンの平和」を拒絶するために 非・超大国なりのリアリズム
【インサイト】「プーチンの平和」を拒絶するために 非・超大国なりのリアリズム
ウクライナのNATO加盟をめぐる議論
7月9日から11日にかけて、米国でNATO首脳会合が開かれていました。
これに先立ってはNATO事務総長の交代が決まったり(現在のストルテンベルクからオランダ元首相のルッテへ)、3年連続で日韓の首脳が参加したりといったことはあったものの、ウクライナ支援に関しては今ひとつピリッとするところが少なかったように思います。
まず挙げられるのはウクライナのNATO加盟問題でしょう。現在進行形でロシアと戦争をやっている国をNATOに入れるわけにはいかないことは当然ですが、首脳会合前には意外とこの話が盛り上がっていました。というのも、今回の首脳会合ではウクライナの加盟に向けた「ブリッジ」、すなわち加盟への具体的な道筋を示せるかどうかが一つの焦点とされたためです。
当然、これには強い反対意見が出されました。米国の政治家や有識者らが『ポリティコ』に掲載した、「ウクライナをNATOに加盟させるな」という連名書簡はその好例で、主に三つの論点から成っています。
一つのリアリズムとしてこういう見解はあり得るだろうと思いますし、実際に結構多くの戦略家たちはこういうものの考え方を採用しているわけですが、反論ももちろんあります。私の考えに近いのはウィルソン・センターのブログに掲載されたスザンヌ・ロフタス(失礼ながら今回初めて名前を知った)の以下の論考でしょうか。
要するに、ロシアの戦争目的は本当にウクライナのNATO加盟阻止なんですか?ということですね。プーチンの言説を素直に受け取るならば、問題はNATOの拡大というよりもウクライナの独立性にあると解釈すべきではないか。とするなら、ウクライナのNATO加盟反対派の論拠は焦点がズレているし、むしろウクライナを加盟させちゃった方がロシアがウクライナの独立性を実力で破壊しにくる恐れが低下して安心ではないか。まぁざっくり言うとそういうことです。
そして結局、どういうことになったかというと、どっちつかずだったというのが実際のところでしょう。前述のように戦時下のウクライナを今すぐNATO加盟させることはできないわけですから当然ではあるのですが、例えばウクライナの加盟を具体的に進めるためのロードマップである加盟行動計画(MAP)を発出するとか、そのための準備を進めるという話にはなりませんでした。
他方、ウクライナの将来的な加盟に関しては「不可逆的な道筋」といいう言葉が用いられました。これはストルテンベルク事務総長が最後の大仕事として盛り込ませたものらしいですが、かといってこれで加盟の具体的な話が進んだわけではない。だから「どっちつかず」だったと見るわけです。
拡大したが十分ではない軍事支援
第二に、ウクライナに対する軍事支援が挙げられます。
今回の目玉はウクライナへの軍事支援や訓練提供を司る専門のNATO合同司令部の設置でした。仮に今年11月の米大統領選でトランプ政権再登場ということになっても、軍事支援をより明確に制度化してしまうことで影響を最小限に抑えようというものです。また、ストルテンベルク事務総長はこれをNATO加盟への「ブリッジ」と位置付け、MAPが出せなくても着実に加盟に向けたステップにはなっているのだという論法を取りました。
具体的な武器提供に関して言えば、ウクライナ空軍でのF-16戦闘機の運用がこの夏中に始まることがブリンケン米国務長官によって明らかにされたほか、パトリオットおよびSAMP-T防空システムの追加供与も公表されました。
他方、ポーランドが度々主張してきた、「ウクライナ西部に飛んでくるロシアのミサイルをポーランド領内から撃墜できるようにする」という主張はストルテンベルクによって明確に否定されています。
その他、米国が供与したATACMSによるロシア領内攻撃も認められませんでした。NATO首脳会合に合わせて開催された米宇首脳会談でゼレンシキー大統領はこの点を改めて提起したようですが、バイデン大統領は明確に拒否したと伝えられています。ドイツからのタウルス巡航ミサイル供与も相変わらず宙に浮いたままで、NATO首脳会合が終了した翌日にゼレンシキーがTwitterに投稿した連続ポストの中では「これらのミサイルが使えればロシアの空爆拠点が叩けるのに」と悔しさを滲ませています。
フランスのマクロン大統領が表明した、ウクライナへの訓練教官派遣の話も突然の総選挙ですっかり聞かれなくなってしまいました。まぁこれについては組閣後にまた再浮上してくる可能性もありますが、フランス内政にかなり影響される話ではあります。
この戦争をどう終わらせるつもりなのか
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