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第242号(2023年11月6日) 動揺するウクライナの戦争指導


【今週のニュース】米国のウクライナ支援資金、ついに尽きる

CTBTの批准停止が確定

 11月2日、プーチン大統領は、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准停止に関する法律に署名した。先月から予告されていた措置がついに実行に移されたことになる。ただ、ロシア側は、批准停止後もCTBTの定める義務には従うと表明しており(米国と同じ形)、これが直ちに核実験の再開になるということは現時点ではなさそうである。

ウクライナ支援基金による最後の軍事援助

11月3日、米国防総省はウクライナに対する新たな軍事援助パッケージを公表した。このうち、既存の兵器をウクライナに移転する「大統領引き出し権限(PDA)」に基づく援助は、NASAMS防空システムやHIMARS等のための追加ミサイル、あるいは榴弾砲等のための追加弾薬が主であった。
 他方、米国政府が軍需産業に支払いを行なってウクライナ向け武器を調達するのがウクライナ安全保障イニシアチブ(USAI)である。内容はUAV用レーザー誘導兵器(詳細は不明)の調達で、これによってUSAI用予算は完全に尽きてしまったという。今後もしばらくの間はPDAに基づいて米軍の既存装備を供与することはできるが、米下院がウクライナ支援予算を通さない限り、USAIによるウクライナ向け新規調達はもうできない。一年後に迫る大統領選に向けて、米国内ではあらゆる問題が政治化されていくのだろうし、それを考えるとUSAIの先行きも決して楽観すべきではあるまい。

ワグネルがヒズボラに防空システムを提供?

『ウォール・ストリート・ジャーナル』によると、ロシアの民間軍事会社「ワグネル」がパンツィリ-S1防空システムをレバノンのヒズボラに供与するという話が進んでいるようだ。複数の米政府高官がインテリジェンス情報に基づいて述べた話であるという。

 そもそもワグネルがまとまった数のパンツィリ-S1を持っていたのか、持っていたとしてちゃんと運用できていたのかなど疑問は少なくないのだが、のちのCNN報道によると事態はさらに複雑なようである。
 この話を信じるならば、問題のパンツィリ-S1はロシアからシリア軍に供与されていたものであるが、それを今度はワグネルの助けを借りてヒズボラに提供しようということらしい。シリア駐留ワグネル部隊とヒズボラには何らかの協力関係がある、とされていたので、今回の件はそのコネクションを利用したのか、あるいはワグネルに訓練提供を期待しているのかもしれないが、いずれにせよ詳細は今のところ不明である。


【インサイト】動揺するウクライナの戦争指導

 11月に入ってから、ウクライナの軍と政府の内部で戦争指導のあり方が相当揺らいでいるのではないか、と思わせる情報が相次ぐようになりました。反転攻勢が思うにまかせない中で長引く戦争に苛立ち、外国からもお荷物扱いされ…というフラストレーションがいよいよ抑え付けておけないレベルに達しているのかもしれません。
 代表的な動きをいくつか紹介しましょう。

アレストヴィチ元大統領府補佐官のゼレンシキー批判

 まず取り上げたいのは、大統領府補佐官として今年の初頭までゼレンシキー政権に仕えていたオレクシー・アレストヴィチがTwitterに書き込んだゼレンシキーへの厳しい批判です。

 私自身はウクライナ語が読めないので機械翻訳で日本語とロシア語に直して意味をとってみたのですが、現在の停滞がゼレンシキーの責任だということのようです。まぁゼレンシキーはウクライナ軍の最高司令官なわけですからそれは間違いないのですが、驚くのはゼレンシキーを繰り返し「独裁者」と呼んでいることでしょう。自分と違う意見の人間を憎み、腐敗を生み出し、しまいには西側との関係も悪化してもなお、現実を直視しようとしない、と散々な言いようです。
 特に中盤では「直接に比較できるものではない」としながらヒトラーまで持ち出しており、ユダヤ人であるゼレンシキーを最大限に攻撃してやりたい、という気持ちがかなりはっきりと見てとれます。
 アレストヴィチは今年1月、ドニプロの高層アパートにロシア軍のミサイルが着弾した件を「ウクライナ軍が防空システムで撃ち落とした結果」と述べて罷免されているので、その恨みもあるのですが、それ以前からゼレンシキーとはあんまりうまく行っていなかったのではないでしょうか。
 実はアレストヴィチは軍の元情報将校で、早くからロシアによる本格侵攻の危険を訴えていた人物でもあります。これに対してゼレンシキーは戦争の直前までロシアの侵攻を信じなかった(少なくとも信じていないと公言していた)人物ですから、戦争前から意見の食い違いはあったのでしょう。してみると「自分と違う意見の人間を憎」むというのは、そういう感情的な葛藤が開戦前から続いていたようにも思います。
 さらにアレストヴィチは、もし来年3月に大統領選が行われるなら(現状では戒厳令下なので実施されないとみられている)、大統領に立候補するのだと表明。大統領になった場合の12項目の公約も明らかにしています。

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